11話 自己嫌悪
バイトから帰宅すると奈穂がわざわざ玄関まできて迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
たった一言の挨拶だが何故か照れる。
僕は綻ぶ口元を隠すように自分の部屋に入る。
しかしそんな僕の気持ちを掻き消すように記憶のことが襲いかかる。これも忘れてしまうのか。
そんな考えを吹き飛ばすため奈穂がいるリビングに行く。
矛盾だとわかっていたが考え込むよりはそうした方が良いと考えた。
また奈穂も退屈しているのではないかと思った。そのため映画のDVDを持って行った。
「ねえ、何か映画観る?」
数十本の映画の山をリビングのテーブルに崩さないように置く。
「こんなにあるんですか」
奈穂がDVDの山を見て驚く。そしてその山の一番上にある映画を手に取る。
「これ、面白いですよね」
奈穂はシリーズモノの有名なファンタジー映画を手に取った。
「それにするなら何章にする?」
「悩みますけど最終章ですかね?」
しっかり5秒悩んでその答えを出す。
「前後あるけど前編でいいよね」
奈穂が頷いたためそのDVDを入れ、鑑賞する。大体3時間なため丁度夕飯時まで時間を潰せる。
また、面白いと分かっている上、奈穂も好きな映画のため安心して観ることができる。
「じゃあ、僕は風呂掃除してるから先に観てて」
「あ、私も手伝いますよ」
僕の行動に奈穂に何を言っているんだといった顔をされてしまった。
「え、けど」
「二人でやればすぐに終わるし、楽しく観れますよ」
奈穂に押し切られ、僕はお風呂掃除を奈穂にお願いして僕は掃除を始めた。
奈穂のいう通り二人でやったためか思ったり時間がかかることはなかった。
そのためソファに座りゆっくりと映画を観ることができた。
何故か僕はあまり奈穂といて緊張しなくなっていた。
その代わり嬉しさが湧き上がっていた。
しかしそれを妨害する気持ちもあった。
「あー、おもしろかったぁ」
この映画を僕は何十回も見ていたがそれでも楽しめた。
「ほんと嫌なところで終わりますねー」
満足そうな表情で奈穂は言う。そのため夕飯はその話で盛り上がった。
しかし平常心に戻るとこの記憶も忘れるのかと考えてしまう。そんな自分が嫌で仕方なかった。




