10話 戸惑い
翌日も僕はバイトで6時に起きた。いつも通り朝食を作っていると奈穂も起きてきた。
「おはようございます」
「お、おはよう」
昨日と同じようにふるまおうとしても頭の中には「このことも忘れるのか」と考えてしまい、落ち着かない。
昨日、奈穂と母さんが寝た後も僕は記憶喪失に関わることを検索していた。結局2時間近く調べたが何も得ることができなかった。
「何か手伝いましょうか」
「大丈夫だよ、適当にテレビでも観てて」
「いえ、何か手伝います!」
料理に関しては意地があるのか譲らない。そのことを以外に感じながら何をしてもらうか考える。
しかしほとんど完成していて手伝ってもらうことがない。
「じゃあ、お茶とか出しといてくれる?」
「私は小学生ですか!」
奈穂のおかしなツッコミに僕は面白く、さらにボケる。
「十円あげるよ」
「いや、いりませんよ」
奈穂は笑いながらお茶の準備を始めた。
僕はその一時の楽しい時間が過ぎ、平常心になると「この時間も忘れるかもしれないのか」と頭をよぎる。
僕は奈穂の様子をチラリと見て朝食作りを再開する。
基本、我が家は和食だ。そのため今日もご飯と目玉焼きベーコン、味噌汁、のりといったメニューにした。
昨日より明らかに量が少ないがこれはどうせ忘れるからではなく、昨日が特別だったのだ。
これが母さんと僕の時の普通の量だ。
「な……」
奈穂に母さんを読んできてもらおうと思ったが何故か躊躇ってしまった。
僕はいけないと分かっていてもどうすることもできず葛藤しながら母さんを呼びにいった。
「いただきます」
普段と変わらない光景。違うことは母さんの話相手が僕ではなく奈穂ということだけだった。
僕は会話に入ろうと思ってもまた躊躇ってしまっていた。ただ、黙々と食べた。
「真輝、そろそろ時間じゃないの」
母さんの呼びかけでようやく時間がないことに気づいた。
「あ! ごめん、食器洗っといて」
食器を流しに置いてすぐに家を出た。結局朝食の間は奈穂に話しかけられなかった。




