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失った思い出  作者: ういもと
第1章 真輝の物語
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1話 出会い

彼女は突然、母さんの帰宅と共に僕の目の前に現れた。

シンプルな服を上品に着こなした彼女は行動一つ一つが丁寧で落ち着いた優等生オーラを全身から醸し出していた。


年齢は僕と同じくらいの16か17歳ぐらいだと思う。


しかしどこか幼さを感じさせる顔立ちで親しみやすい印象でもあった。そんな彼女に僕は一目惚れをした。


「すみません、お邪魔します」


丁寧な口調で遠慮がちに言い、軽く会釈する。その姿をうっとりとした様子で僕は見る。彼女の美しさしか頭になかった。


「適当なところに座って」


母さんにそう言われて彼女はリビングのソファに座るなりうとうとしだした。


その姿が可愛らしくまた僕はうっとりと見ていた。



そして彼女はお茶の準備が終わる前に眠ってしまった。


「あー、寝ちゃったの。真輝、母さんのベットに運ぶの手伝って」


お茶の準備が終わり、キッチンから出てきた母さんの言葉で現実に戻される。


「ふ、布団取ってくるよ」


そう言い残して逃げるように僕はその場を離れた。

そして現実に戻された瞬間から体中の全ての血液の流れが急激に速まり、心臓の鼓動も慌ただしく暴れ、心拍数が急上昇していった。


それは緊張、焦りに近いようで異なる気持ちだった。 もしかしてこれは一目惚れということなのだろうか。

ふと脳裏によぎるが否定する。


17年間一度たりともそのような前触れすらなかった。それは自分から避けていたのも要因の一つだった。高校での女子との会話は大抵仕事の押し付け、もしくは連絡事項。1言2言の広がらない話題。


そんな僕が一目惚れ。


無いな。


その考えを一瞬で打ち消す。


しかし心拍数が下がることはなかった。







「布団持ってきたよ」


ソファの前のテーブルをずらしてそこに布団を敷く。


「なんで布団持ってきたの、ベッドの方が良かったでしょ」


ベッドまで運ぶと心拍数が上がりすぎて心臓が破裂すると思ったから、と馬鹿なことを言うわけがなく、力がないからと誤魔化す。


「確かにそうね、真輝だとちょっと無理かもしれなかったね」


母さんはそれをすんなり受け入れた。

自分で言ったことだが納得がいかない。


確かに僕は運動が苦手だったが女の子一人ぐらいならおんぶすれば運べるとは思う。


特に彼女は小柄で細身なため運べると思う。


そんな僕の心を察したのか偶然なのかソファで横になっている彼女を下に敷いた布団に運ぶことを任せられる。


「よっ」


力を込め、あまり揺らさないようにして下に敷いた布団にお姫様抱っこで下ろす。


その際、黒くてまっすぐな彼女の髪がしなやかに下に流れる。


「綺麗な髪ねぇ」


母さんが彼女の髪を見て賞賛を漏らす。


その髪は女性だったら誰もが羨ましがり、男性なら自然と視線が吸い込まれてしまうそんな髪だった。


そんな髪の彼女にタオルケットをかけてあげると定期的に少し膨らんだ胸が上下し、かわいい寝息を立て始めた。


さっきまでと違う可愛らしい寝顔の彼女に心臓の鼓動がさらに速まる。


それと同時にふとどこか見覚えのある顔だなと感じ、母さんに尋ねる。


「この女の子だれなの?」


「え、真輝の友達じゃないの?」


母さんが声を潜めて驚く。


僕は今までの記憶を遡り、思い出そうとするができなかった。


しかし見覚えのあるような気がしてもどかしくなる。


「やっぱり思い出せない?」


母さんが僕の表情を見て不安そうに尋ねる。

僕はもう少し考えるがダメだった。


お父さんの知り合いかなと一瞬頭をよぎるが、父さんは僕が幼い時に亡くなっていると聞かされている。


しかし僕はそれを信じていない。墓を見たことがなかったり線香をあげたこともないという疑問が僕にはある。死を示すモノがないのだ。


「真輝?」


僕が考えに耽ってると心配そうな表情で母さんが顔を覗き込んでくる。


「ごめん、母さん、やっぱり思い出せないよ」


もう一度ちらりと彼女を見るが見覚えがあるようでない嫌なモヤモヤが胸に広がる。


「そう……なんか、真輝のこと探しているみたいだけど」


僕を……?


ますます分からなくなる。


「明日、訊いてみましょ、それと夕飯は自室で食べるね」


母さんはリビングのテーブルに僕が用意しておいた夕飯を持って自室に入っていった。

僕もリビングの電気を消して自室に入っていった。

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