水瀬花屋とは
飛鳥ちゃんの話しです。イベント・母の日で仕事に追われる飛鳥ちゃんです。
明後日は母の日なのに、店内デスプレイが出来ていない。去年の母の日の店内写真を見ようしたけど、PCは電源すら入らない。壊れる=修理=予定外の出費...どうやって飾っただろう、去年。だめ、思い出せない。このイベントが一番の稼ぎ時なのに。
こういう時に限って、店長はどこを探してもいない。
おかしい。そう思いながら売り場に戻る。カーネーション入りのアレンジ花バスケットを作り置いたはずなのに、売り場には一つもなかった。確か10個ほどあっやはず・・
それとも私の勘違いなのかな。実は別なところに置いてあったとかかも。
作業机のある処に戻ろうとしたら、ちょうどお客様のご来店。男の子で小学校5,6年生くらいかしら。きっと母の日用の花を買いにきたのだろう。
「いらっしゃいませ。今日はどんな花が・・」
と話し出したところで、自分の足が浮いてる事に気が付いた。
はい?何これ?
あせって、降りようとジタバタしたが、かえって浮き上がってしまい、反対に店の天井が目の前。”ぶつかる!”と目をとじた時、私は天井ををすりぬけ店の屋根の上に出たようだ。
そうか、わかった。私、きっと死んだんだ。なぜ死んだかは、わからないけど、天井をすり抜けたのがその証。で魂だけになって、現在、屋根の上で浮いてる。
ここは早く”天に行く道”とやらを探さないと。
私の未練は、”母の日のディスプレイとアレンジ花バスケットを作れなかった事”・・になるのかな~
上を見上げれば空、下は商店街の街並みが広がってる。”天への道”なんてもちろん見当たらない。キョロキョロあたりを見回わしてると、さっきの小学生が、ケラケラ笑ってる。
「やだな、飛鳥ちゃん、君は死んだわけないじゃない。これは飛鳥ちゃんの夢の中だよ。伝えたい事があってさ、特別に許可してもらったんだ。」
「君の名前は?私、夢の中にいるの?生きてる?」
彼はおなかをかかえて”だから大丈夫だって”と笑いこけてる。人の夢に入ってくるなんて、いや、まって、夢だからなんでもありなのかな。
「僕の名前は、ショウ。ほら、ここまで来て」
「どうやって?」
「そう思えばいいだけだよ。君の夢だし」
気が付くと、さっきは日中の青空のようだったのに、今は夜明け前のような不思議な色になっている。で、星の間を縫うように無数の糸がはしってる。ちょうど、地球を核にして、まばらに糸をまいたような。
そしてまるで逆さまの流れ星のように、地上から空へ光がに流れていく。
これが天への道 というものなのかしら?
見えるはずの街並みが見えなかった。下は底なしに暗く、幾筋もの光る道がはしっていた。その中でひときわ、明るい一角があった。多くの道の交わるところだ。
「もしかして、あれが水瀬花屋?」
「正解、よく出来ました。水瀬花屋は、田舎の夜のコンビニのように暗闇で光ってる。だから飛鳥ちゃんも知ってるだろうけど、迷った魂が集まってくるんだ。」
ショウの話しは合点がいく。これまで何度も”魂だけのお客様”が来た。店では丁寧に応対して(時には敦神父さんのも加わり)、花の精霊の力を借りながら、天へ送ってやった。
思えば、花屋店員としては、私はまだまだ半人前。(迷った人の魂を送るのは、花束を作るより難しくないけど)
私は午前中は、ほぼ起きていられない体質なので、店の大事な仕事、朝の仕入れや開店準備とか出来ない。でも店長はそんな私でも、クビにしない。
「あれ?もしかして私って・・」
「店長は君のそっち方面の力はアテにしてないよ。それより会計や店のブログ作りのほうが、助かってると思うな」
だよね~。店長って確か、ローマで神父をやっていて、今は辞めて花屋をやってる。なぜ辞めたのかしらね。
「そこらへんはさ、店長の黒歴史もあるから、地雷を踏まないようにね」
「ショウ君さ、さっきから、言ってる事、先回りしてる。そういうのって辞めてほしいんだけど。てか、私が何考えてるのかわかるの?」
私としては、子供だけど、強めに言ったんだけど、彼はいたずらっ子のように、クスクス笑いするだけ。
「ごめん、もう時間切れ。これからも ★!○.....」
ショウは空に吸い込まれるように消え、ポカンと見てる私は、肩を叩かれた。
途端、私は空中から落ちて、底の視えない暗闇まっしぐら。誰か助けて...
**** **** *** *** ***
「飛鳥ちゃん飛鳥ちゃん、うなされてるけど、大丈夫?残業で疲れたんだね。申し訳ない。もう夜の10時。残業手当も割り増で出すから。」
まず、店長からのの”残業手当増額”の件は、謹んでお断りした。たいした金額にはならないけど、こういう処を節約しないと、店は結果として赤字になってしまう。せっかく昨年度は、ギリギリ黒字だったのだから。このペースで行きたい。
それにしても、おかしな夢。起きる事が出来て、ってか死んでなかくてよかった。私は、カーネーションのアレンジ花を作ってる最中に居眠りしたんだ。出来上がりは手元にちゃんと10個あった。
さっきまで見てた夢の中の光景は、不思議で綺麗だった。ショウという子に言われた事も 忘れてないはずだ。
店長の過去に詳しそうだったけど、知り会いとか親戚とかかな?作業机を片づけながら聞いてみた。
「店長、ショウという名の男の子に 心当たりはありませんか?」
夢で見たからというのは、秘密だ。
はぁ?って顔の店長に、私は心の中で謝った。痛い質問でごめんなさい。でもどうしても気になって。
「ショウね、男の子...ないですね。」
店長はショウウィンドーのレイアウトをチェックしながら
即答した。
夢の中のあの子が妙に気になるけど、しょせん夢だ。夢は頭の中の整理整頓に見るって事だ。あの綺麗な空は忘れないだろうけど。
「そういえば、うちの先代、私の祖父は、正一郎という名前でした。」
閉店作業を終え、私が裏口がら出る間際、店長はニコっと笑いそう言った。年上だけど笑顔がかわいい。夢の中のショウにどこか似てる気がする。
夢だから真面目に考えてもしょうがないのだろうけど、私は あの子の”これからも”に続く言葉は、”水瀬花屋をよろしく”だろうって、思えた。
誰に言われなくても、当然、水瀬花屋を頑張って盛り立てて行くつもり。
生意気だったけど花のアレンジの面では頼りになった淳一は、もうここにはいない。私がその分働きますと、胸を張って言えないけど、精一杯、頑張ろう。
ここは、私の職場だし、私のもうひとつの居場所だから。
淳一と悟が札幌へ行った所で、区切りがいいので、一旦、連載を終わります。
もう少し下調べと話しの書き溜めをしてから、続編という形でまた連載再開をしたいと思ってます。その時は、又どうぞよろしくお願いします。
PCを使ってると、腰が痛くてすぐギブアップです^^;;3000字弱なのに、すごく時間がかかるようになってしまってw




