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合格祝いの宴会 ③ 淳一、巻き込まれる

合格祝いの当日、淳一は配達の仕事で面倒事に巻き込まれます。


* 禰宜・・ネギ と読みます。神社で宮司さんの下で働いてる人です。

 今夜は、店で俺と悟の合格祝いをしてくれる。フラワーアレンジメントの専門家を目指す。その専門学校に去年には推薦で合格が決まってる。


 俺は合格を祝われるほうだ。いわば主賓。その俺が、迎えにきた飛鳥先輩から文句をいわれっぱなしだ。


「だいたい、学校も3月はじめには卒業して、よく店に手伝いに来てたじゃない。今日に限ってなぜ約束の5時に帰ってこないの? もしかして、実は卒業できなかったとか?怒らないから正直に言いなさいよ。」


 ったく。俺は巻き込まれただけなんだって。説明するのも面倒なんだよな。

*** *** *** *** *** ***


 始まりは、稲荷神社からの”桜の枝”の電話注文。店長が、”桜をメインに、他はどんな花が・・・”と聞いた所で、ガチャ切りされたとか。店長は、飛鳥先輩が来次第、敦神父と出かけるそうで、俺が花を配達する事になった。


 生け花にする事を前提にして、一応あわせる花を選んだ。チャリで神社までせいぜい10分くらいだし、配達が終わったらそのまま家に帰るつもりだ。今日は仕入れの仕事に出て、朝早くから仕事してた。その後は飛鳥ちゃんが車で家に迎えにきてくれる事になってた。


 ふふふ。車の迎え付きなら、アルコールありだよな。俺も高校を卒業したし、成人だし。


 


 低い丘の上の神社の正門は、社まで長い階段が続いている。はぁ~これを上るのかとため息が出る。注文の花をボックスから取り出してると、視線を感じた。今、持ってる花の精霊じゃない、これは幽霊だ。経験でわかるようになった。


 無視しよう。とりあえず悪霊って感じはしないし、あとで店長か敦神父に任せる。朝が早かったので少し眠いし、サクサク、仕事終わらせて、昼寝したい。


 そんな俺の心と反対に、顔が勝手に幽霊のいるだろうほうを向く。ああやっぱり。目が合った途端、そいつは秒で俺の目の前に立った。


<すみません。僕のお願いを聞いてほしいんです。たいした事じゃないんです。いろんな人に頼んだけど、透明人間扱いされスルーされまくりで、この町の人達にがっかりしてます>


 幽霊=魂だけの存在。何か未練か恨みを残してるか、死んだことをわかってないか。


 この幽霊は俺と同じような年齢の男子で、ダッフルコートに手袋という完全武装だった。確かに北国の3月はまだ半分は冬。だけど今日は特別に暖かい。フェーン現象とかなんとか天気予報で言ってた。俺は、着ていた薄手のウィンドブレーカーすら暑くて脱いだくらいだ。


 彼は冬に死んで、そのことをわかってない。何かに激しい恨みを持ってるようにも感じないんだけどな。


<無視しないで。僕は神社でひいたおみくじを、枝に括り付けるのを忘れてしまって。あわてて引き返したのがよくなかったのかも。階段でウッカリつまづいて下まで転げ落ちてしまったんだ。>


 そして手を開いて、おみくじの紙を見せた。ただし俺にはほぼ見えない。何か手の上にあると感じるだけだ。


「まず、名前を教えてくれる?覚えてるかな?」


<もちろん覚えてるさ、自分の名前くらい...僕の名前は...ヘンだな。落ちた時に頭を打ったせいかな。僕は誰?ああでもいいや。とにかくこの”凶”と書かれたオミクジ、結んできて欲しんだ。オミクジは、彼女の合格祈願をした時にひいたもんで、”凶”なんて縁起よくないだろう?彼女がこれのせいで不合格になったらどうしようと、あせってるのに。僕ときたら、なぜか門の前で、跳ね返されてしまって>


 いくないだろ!自分の名前を忘れた事のほうが大事だ。開いた口がふさがらないぜ。それにしても、自分の名前を思い出せない事より大事なんだ、少しでも彼女に関係した事は。


 必死に彼は俺に何度も頭を下げてる。


「階段から落ちた時の事、思い出せるか」

<そんなのどうでもいいじゃないか。雪で足を滑らして、下に落ちただけだよ。頭を打った時、すごく痛かったけれど、すぐ収まったし。>


 なるほどね。そん時にお亡くなりになったか、意識不明になったかだ。とにかく今は死んでいる。肉体と魂を結ぶ糸も切れてる。


 俺がいろいろ考えてグズグズしてる間、彼の態度が変わった。まぶしそうに手を顔の前でかざし、体を丸めえて、門から離れていった。おい!オミクジはいいのか?。で、後ろはというと、神社の禰宜が立っていた。白の和服に水色の袴姿だった。


 店に来る禰宜さんのような、そうじゃないような。とにかく威圧感が半端ない。


「これは花屋の方。お手数をかけもうした。そこの暗がりに身を隠した魂に、桜の枝を渡してほしい。我は出来ぬのでな」


”はぁわかりました” 見えてるなら自分でやれよと、内心

毒づき、言葉遣いがへんに古風なのも気になった。春に多い”心が可哀想な人”か。逆らわないほうがいいだろう。大切なお得意様だし。


 俺はボックスから桜の枝を取り出した。まだ蕾も多いし3分咲ってとこの枝。


 物陰に隠れてる彼に、桜の枝をさしだした。その途端、後ろにる門の内側いいる禰宜が、歌いだした。


「舞い上がれ サクヤコノハナ 天駆けよ 旅立ちの時ぞ」


 振り返ると、禰宜さんが、扇子を上下させてる。普通なら、空気のゆらぎさえ感じない距離のはずが、暖かい風、春風が俺にまとわりついた。そして回りが桜の花の精霊で一杯になった。枝の桜が満開になったんだ。花びらが魂だけになった彼を包むように渦巻いてる。枝の花びらにしては多すぎるな。なんのイリュージョンだ。


<やった~。彼氏ゲット~>

<ずるいわよ、抜け駆け禁止>

<皆さん、騒がしいですわよ。>

<だな。しっかり先導してやらねば>


 魂だけになっても彼女の事を心配する彼は、賑やかな精霊達と花吹雪に包まれ空へ消えていった。


「礼を言う。あの者は、時どき社に参っておった。我がそばによると、魂が散りそうでな。さてもこれで天に還る事が出来たであろう」


 この禰宜さん何者?目力が半端ない。この人の周りだけ空気が別って感じだ。まず、扇だけで春風をおこし花を咲かせ、魂を強制送還させた。説得もなにもなしだ。


 とりあえず、桜の枝は花が散った状態。これはもう一度、店に戻らないといけないかもしれないな。あの禰宜さんに事情を訊いてみないと。


 やれやれだ。門を見ると、あの禰宜さんが、階段で倒れてる。ウワ!これは無視できないよ。



「大丈夫ですか。救急車よびますから。」


 禰宜さんの顔はさっきと全然違う。いや、顔だちは同じだけど、まとってる空気がさっきと別物。彼は、う~んといいながら、起き上がったが顔が青白い。


「大丈夫です。ちょっとした貧血です。よくあるんです。で、僕、何かやらかしましたか?」


 やらかしたって、覚えてないんだ。稲荷神社の七不思議の一つになるな。俺はさっきの桜のことを、ざっと説明した。


 

 禰宜さんはめまいがするらしくフラついてる。俺は肩をかして、社務所までの階段をのぼった。重労働だ。途中、彼は熱が出てきたらしく体が熱くなっていた。宮司さん(彼の父親でもある)は、会議で出張中だそうで、家には誰もいなかった。彼を布団にねかせ、頭を冷やしたりした。


 彼の話した処によると、彼は時々、記憶と意識がなくなるそうで、そのたびに、すごく疲労するんだそうだ。今日は風邪気味だったので、家の中で寝てたそうなのだが、もちろん、いつ和服を着たのかも覚えてないとか。


 

 結局、俺はしばらく彼につくはめになった。解熱剤どころか、めぼしい食料も飲み物もなかったので、コンビニと薬屋へと走った。単に風邪でも一人でいるのは心細いものだ。


 


*** *** *** *** ***


 飛鳥先輩にしつこく聞かれたので、説明した。桜の精霊の事はわかってもらえるだろう。ただ瞬時に桜が満開になった出来事は、どういってもウソっぽくなる。なにせ俺自身まだ信じられないのだから。


「あそこの禰宜さんは、特別かも。二重人格というより、しいていうなら、何かの依代のような?信じられないけどね。それより代金もらってきた?」


 しまった。ドサクサにまぎれて忘れた。それに食品代・薬代は俺の出費。これ”お得意様へのサービス”の名目で、経費でおちないだろうか・・・


 


 


 


 







水曜日か木曜日の深夜1時~2時に、更新します。

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