合格祝いで宴会 ① 俊の決意
大学、専門学校への合格がきまった悟と淳一。水瀬花屋では二人のため合格祝いの宴会を開く事になりました。それぞれいろんな想いをかかえてるようです。
今夜は、淳一と悟君の合格祝いの日で、僕も買い物を頼まれた。ケンタのチキン。バケツ買いだ。
チキンバケツを持って、2階のリビングに入ったが、誰もいなかった。店は夜の6時で早じまいしてたようなのに、店長さんもいないのは買い物かな。
仕事は去年・秋の収穫時期あたりは、目が回るほど忙しかったけど、今は倉庫管理だけなので、楽といえば楽なんだ。正社員なので、突発的な残業があったり、フォークリフトの免許を持ってたので、重宝されてる。いいように使われてるともいうかな。
思えば、どうしても最後に敦神父さんに会いたくなって、北海道にやってきた。神父さんは僕がしようとしていた事にすぐ気が付いたようだった。仕事を与えられここに下宿させてもらい、そのまま働いて来た。去年、両親の墓参りの時、思い切って住所もこっちに移した。
それにしても進学か~。僕は考えた事もなかったな。お金もなかったし、とにかく早く自立したかった。情緒不安定の母親から離れたかった。幸い、勉強はさして好きじゃないし。淳一君と悟の進学をうらやむ気持ちはまったくない。
4月からは二人は札幌へ行くので、大人数でワイワイやってたので、すこし寂しい。特に悟とは、生い立ちも家庭の事情もまったく違うのに、なぜか気が合った。悟はコンビニで忙しく働いてる時も、受験勉強で忙しいだろう時も、なぜかノンビリムードのオーラ満点で、そばにいて気持ちが楽だった。
10分くらいすると、二人分の足音が聞こえ、店長さんと敦神父さんが疲れた顔で戻ってきた。敦神父さんは、茶色いバスローブのような服が、泥で汚れていたが、かまわず床にゴロンと横になった。
「何か、土木工事にでも行ってきたような感じですけど、大丈夫ですか?敦神父さん」
顔を覗きこむと、”心配ないから”と手をヒラヒラさせた。顔色が悪いんだけどな。
「心配ありませんよ。兄の鍛錬不足が原因ですから。おまけに裾を踏んで転びました。まったく情けない兄です。」
そう言う店長も、少し疲れ気味の顔だけど、服は汚れていなかった。花屋の店長の時とまったく違う雰囲気だ。いつもの笑顔はなく、目が鋭く冷ややかだった。
「ああ、俊君、買い物ありがとう。後の3人もおっつけ来るでしょう。それまでコーヒーでも飲んで待ってましょう」
店長さんがコーヒーを入れようとしたので、慌てて僕が変わった。ありがとうと店長が、ローマンカラーという神父の制服?のようなものを脱いで、テーブルの前に座った。
コーヒーの香ばしい香りが部屋中にただよう。やっぱりインスタントだと、こうはいかないんだよな。
「ところで俊君、もし俊君が進学したいのならば、私と兄とで全面的にバックアップするから、遠慮なく言いなさい」
店長はそれがごく当然と、サラっと言ってコーヒーを飲んでる。僕は実は敦神父とは顔見知り程度で、店長さんにいたっては、まったくの他人、いやもう今は大事な恩人なんだけどさ。
「僕はあまり勉強が好きじゃないし、普通に働いて食べていければそれでいいと。将来、結婚出来ればいいなとかは思ってます。そのくらいで、今は他に考えてないです」
結婚って言葉に店長さん、ガバっと身を乗り出した。
「え、でお相手はどんな方?」
「違います違います。恋人が出来ればの話しで・・」
「なあんだ、そうか。ま、結婚する時は新郎の父親の役をさせてもらうよ。兄は、式では神父だからね。ふふ」
結婚。家庭を持つのもいいかもしれないと、最近、思い始めてる。今までの非正規雇用・雇止め→無職 の苦い経験から、何か資格をとったほうがいいかもしれない。
ただ、無職になっても、ここ水瀬花屋が僕の帰る”家”だろう。そこは安心だ。職場の寮を追い出されるなんて自体にはならない。
ああでも、水瀬花屋が倒産したらどうしたら・・・その時は僕がなんでもして店を助ける。うん、そうだ、そうする事にする。
敦神父さんに後で相談してみよう。今は寝息をたて本格的に寝にはいってる。
また足音がして、悟が料理をもって帰って来た。店長といえば、”起きろ”と、敦神父さんを足蹴にしてる。
兄弟って、少しうらやましいかも。
それにしても,二人とも疲れきってるけど、どこで何をしてきたんだ?何も言わない所が余計に謎。
水曜か木曜の深夜午前1時~2時に更新します。
今回は一話が短めなので、二話まとめて連投します。




