表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/75

結婚式が中止になる時

結婚式の飾りつけに出かけた淳一君と店長。が、式の前に不穏な空気が...


今回の話しは、淳一君目線で書いてみました^^)

「どうもいやな予感がする」


 式場から一旦帰って来た水瀬店長は、今度は式場へ持ち込む花と用具をチェックしながらつぶやいてる。

店長の直感はよく当たる。今日の結婚式で何か起こるのか?


 今日は土曜日。結婚式は、ホテルが提携してる郊外の教会で午後4時にある。水瀬花屋は、花嫁のブーケと式場の飾りつけを任され、大忙しだ。


 ブーケのほうは、前から水瀬店長が注文を受けてたらしく、午前中に仕上げてた。その間、店は俺が留守番。


 ふ...俺の週末は、いつもバイトで消える。しかも長時間拘束+研修つき。


「淳一君、この花入りバケット、車の後ろに積んで。後、リボンとか小物の箱と用具類もね。

で、一緒に教会で式場の飾りつけ、補佐よろしく。」


 まだ終わらないっすね。俺のバイト時間。


「なんだかさ、生花で式場を飾って欲しいってリクエストがあってね。今日の午前中に言われてあせってる。淳一君が来てくれて助かったよ。なんとか間に合いそうだ。」


 しかたない。式場の飾りつけ済んだら、早めにあがらせてもらおう。俺もそろそろ期末テストがあるしな。少しかは勉強しないと、婆にどやされる。


「それと、明日の午後なんだけどさ。花屋の組合主催のフラワーアレンジメントの講習会に出るから、明日もよろしく頼みますね。今はクリスマスと正月を控えてるから、店長たるもの、少しは勉強しておかないと」


 式場に向かう車の中で、笑顔で軽く言われた。どんなお客にも神対応の店長は、実は鬼だ。

*** *** *** *** *** ***


 式場の飾りつけは、まず、祭壇に花を飾る事から。


 この教会にある、祭壇専用の花器に、店長が花をさしていく。今回は真後ろの花姿は考えなくていい。正面と横が、綺麗に花が揃うように、華やかにみえるように、正面は高くもって、横は長く。花も種類も色も多く持って来てる。俺は店長に言われた花を渡し、不要になった茎や葉を、床を汚さないように、新聞紙に一旦置く。後で必要になる茎もあるかもしれないので、簡単にゴミ袋に捨てられない。


 1時間もかからずに、豪華なフラワーアレンジメントが出来上がった。


 バージンロードの横に、ポールが両側にある。そのポールに花を飾り付ける、それが俺の仕事だ。全部で16か所、飾る花は、ある程度、形は決まってるが、現場でもう一度、チェック。



 店長のイヤな予感はあたったようだ。式が始まる事になって、一番後ろの右隅の席に女性が座っているのを俺は見つけた。いや、正確にいうと、”女性のようにみえるもの”か。半分透き通っていて、全体に水色っぽい。それだけじゃない。アメーバーのように形を変化させている。式場全体を薄く覆ったり、細長くなって消えそうになったり、色も水色に、時には赤や黒、黄色などいろんな色が混じる事もあった。


 彼女は人間でも化け物でもない。いわゆる生霊ってやつだろう。形が不安定なのは、本人の状態のせいだろうか。店長が飛鳥先輩のほうを連れてきていたら、ひと悶着あったな。先輩には彼女がどう見えるのかが、見当つかないが。


 仕事も終わり、撤収の準備をしてると、俺は、又、いやなものを感じがした。うなじがビリビリするこの感じは、学校で喧嘩がおっぱじまる前のある種の緊張感だ。


 式に愛人でも乗り込んでくるとかか。なんでもいいが巻き込まれるのは、面倒だ。

そそくさと、用具類、残りの花やゴミをもって、車と式場を行き来してると、緊張感だだもれの子供を見つけた。列席者らしいけど、制服を着てないので、小学生6年ぐらいか。紙袋をもって、必死に隠そうとしてるが、俺にはまるわかり。


 「よう、ぼうず。何持ってるんだ」と声をかけるなり、それを素早く取り上げた。


「何するんだ。返せよ!」

「へ~~ケチャップ持ってきたんだ。はは、お前、やらかすつもりか」


 ケチャップは、ここでは”人にかける”しか、俺は思いつかない。それにしても、全身敵意むき出しってのが、俺には気に食わないな。


「子供を苛めてはいけませんよ」


 穏やかだけれど、毅然とした声は、上から響いてきた。誰だ!


 声の主は180cmはあるだろうガタイのいい男だった。ノボーっと立っている。

顔は声のとおり、優しい顔。細い目でおせじにも、イケメンじゃない。白くて長い服を着ている。もしかしてこの人が神父という職業の人か。


 その人は、”健吾君”とよぶと、スミのほうで二人でなにやら話し始めた。

*** **** *** *** ***


 式が始まった。予想に反して、健吾とかいうボウズはおとなしくしてる。後ろの片隅に座ってる”女性の生霊”は、あちこちに、触手を伸ばしてる。きっと何かの想いがあるのだろうけど、

残念ながら、俺と店長以外、その存在は誰にも気がつかないだろう。


 平服の俺は、エプロンをわざとつけたままにして、”スタッフです”という顔で、式場の後ろにいた。”式が終わったら、花の撤収作業になります”と店長に言われてる。


 司式をする神父さんの声は、シーンとした会場に響いている。


 その言葉を聞いて時、瞬間、俺はびっくりした。


「...二人の結婚に異議のある人は、今ここで名乗り出て下さい」


 キリスト教の結婚式では、こういう剣呑な言葉があるんだ。と感心してると、


「僕は、この結婚に反対だ。”僕にお母さんが出来る”ってお父さんは言ったけど、僕のお母さんは、病院に入院してるお母さん、一人だけだ。」


 健吾が走って祭壇に上がり新郎新婦を見下ろしてる。花婿(父親)は、”何言ってるんだ、はやく降りろ、”と、カンカンだ。列席してる人はガヤガヤと騒ぎだし、話し声が飛びかう。

そんな会場でも、あの生霊女性は、相変わらず、形と色をアメーバーのように変化させてる。



「この人は、お母さんの事を、”料理がまずい””ノロマ””役立たたず”とか言って、毎日苛めていた。僕は、学校でのイジメのようだと思った。悩んだ母さんは病気になって病院にいる。」


 ”愛人が乗り込む”程ではないけど、結婚式で親子がもめる、店長の悪い予感は、これだったのかな。そういえばさっきから姿が見えないけど。


 花嫁は、冷静だった。花婿に詳しい説明を求めた。


「ああ、確かに前の妻は病気で入院してるけど、俺のせいじゃない。あいつはもう入院して1年になるが、退院のめどもたたない。だから俺が子供を引き取って・・」


「入院して1年?私とあなたは2年前にはもう付き合っていたわね。で、病気になった奥様を見放した。私も病気になったら離婚されるのね。そんな人とは思わなかった。」


 花婿は、その言葉で、かっときたのか、自分の息子・健吾の胸倉をつかみ頬を殴った。”お前さえいなければ上手くいったのに”

 

 クズ野郎だな、こいつ。健吾は、殴られた勢いで壁まで飛ばされた。そこに神父がやっとそばによってきて、列席者に


「これは虐待ですね。子供への暴力は許されませんよ」


*** *** *** *** *** ****


 ヘビーだったな。花達も可哀想だよな。花の精霊・花精たちも、ちじこまってるようだ。

結局、結婚式は中止、列席者は控えのホテルへそれぞれ向かって行った。


 もう教会内には、新郎新婦関係者は、健吾以外は、誰もいなくなった。彼は父親から置いていかれたようだ。生霊の女性は空中をふわふわとんだり、座ったりと相変わらずだ。


 花を片づけながら、俺は少し心配になった。父親の処にもどれないだろう。かといって、病気の母親にはこの子をみるのは無理だろう。こういう場合、誰がどうやって彼の面倒をみるのか。


「あ、その祭壇の花、安く売ってくれませんか?」

あの能天気さで神父が声をかけてきた。俺に言われてもどうしようもないし。”店長”と呼ぶと、事務室からでてきた。神父さんを見るなり、苦虫をかみつぶした顔で、


「おや、風来坊神父の敦お兄さん。いやな予感がしてたんですが、あなたが原因でしたか」

「水瀬花屋は、まだつぶれてなかったんですね。亘も元気そうで」


 二人は兄弟?そのわりに、トゲトゲした雰囲気があふれてるような。


「また、結婚式をつぶしましたね。これで何回目ですか?それに、この子、健吾君。どうするつもりですか?勝手に連れ帰ると、誘拐罪ですよ。」


 この場合、父親が訴えればそうなる。子供が未成年だからだ。子供を守るための法律が、逆に子供を不幸にすることもあるかもしれない。


「もしかしたら、こっちに帰ってくるかもよ。少し待つってのはどう?その間、あの人をなんとかしたほうがいいんじゃね?」

俺は、隅の生霊のほうを向いた。生霊はは何も見てないようだが。



「ああ、その女性は大丈夫。そのうち帰るでしょう」

のん気に答えたのは、神父だった。へ~~この人も視える体質なんだ。神父のほうは、しまったという顔で、頭をかいた。


「別に隠してたわけじゃないです。特に聞かれなかったし。」

「ホーホー。じゃ、バチカンには、兄さんが行けばいいですね。私は還俗願いは取り下げげるつもりは毛頭ないですし」


 仲が悪そうでいいのか?まあどっちでもいい。俺は花の中から、赤いカーネーションを一輪引き抜き、健吾に渡した。不思議な顔をして、俺を見てる。


「ぼうず、この花を隅の席に置くんだ。そしてこう言う”もう病院に帰ろう、お母さん”って」

健吾は、驚いて固まってたが、俺が”早くすれ”と脅した。


”もう病院に帰ろう、お母さん” 健吾の言葉に、生霊は、アメーバーのように不定形だったのが、触手のようなものをシュルシュルっと縮め女性の姿に戻った。そして健吾を抱いて涙を流してるように見えた。


 その時、カーネーションの精霊が飛び出してきた。ど派手は赤いピラピラのシャツを着てる。

俺の顔を見ると親指をたて片目をつぶり、”任せろ”とばかりに、彼女の手をひき、天井をぬけて消えていった。


 やれやれだぜ。健吾の母親が魂だけ抜け出してきたんだな。


「いやいや、すみません。本当は僕や亘の仕事でした。それにしても君はすごいですね。どうです?神父になってみませんか」


「ならねえよ。」ったく訳わからん。

*** *** *** *** *** ***


 その後、健吾の父親は失踪してしまった。多額の借金があったのだとか。結婚は、花嫁の実家の資産目当てだったらしい。神父の働きかけで、健吾は母親の入院してるA市の施設で保護される事になった。母親は結婚式のあの日から、急速に回復に向かってるのだとか。


 神父はしばらくの間水瀬花屋に滞在。店長と陰険漫才を繰り返し、飛鳥ちゃんをキレさせた。

「どうでもいいけど、店長、仕事してください。それにそこのあなた、家族なら、家業を手伝うのは当たり前の事です。働いてください。」


 大喝だった。おおコワ。

 

 ”神父になりませんか”というしつこい店長兄からの俺への勧誘は、しばらく続いた。


 




 


 

基本、更新は水曜日深夜(木曜日午前1時ごろ)週一のペースです。一話完結です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ