結婚式が中止になる時
結婚式の飾りつけに出かけた淳一君と店長。が、式の前に不穏な空気が...
今回の話しは、淳一君目線で書いてみました^^)
「どうもいやな予感がする」
式場から一旦帰って来た水瀬店長は、今度は式場へ持ち込む花と用具をチェックしながらつぶやいてる。
店長の直感はよく当たる。今日の結婚式で何か起こるのか?
今日は土曜日。結婚式は、ホテルが提携してる郊外の教会で午後4時にある。水瀬花屋は、花嫁のブーケと式場の飾りつけを任され、大忙しだ。
ブーケのほうは、前から水瀬店長が注文を受けてたらしく、午前中に仕上げてた。その間、店は俺が留守番。
ふ...俺の週末は、いつもバイトで消える。しかも長時間拘束+研修つき。
「淳一君、この花入りバケット、車の後ろに積んで。後、リボンとか小物の箱と用具類もね。
で、一緒に教会で式場の飾りつけ、補佐よろしく。」
まだ終わらないっすね。俺のバイト時間。
「なんだかさ、生花で式場を飾って欲しいってリクエストがあってね。今日の午前中に言われてあせってる。淳一君が来てくれて助かったよ。なんとか間に合いそうだ。」
しかたない。式場の飾りつけ済んだら、早めにあがらせてもらおう。俺もそろそろ期末テストがあるしな。少しかは勉強しないと、婆にどやされる。
「それと、明日の午後なんだけどさ。花屋の組合主催のフラワーアレンジメントの講習会に出るから、明日もよろしく頼みますね。今はクリスマスと正月を控えてるから、店長たるもの、少しは勉強しておかないと」
式場に向かう車の中で、笑顔で軽く言われた。どんなお客にも神対応の店長は、実は鬼だ。
*** *** *** *** *** ***
式場の飾りつけは、まず、祭壇に花を飾る事から。
この教会にある、祭壇専用の花器に、店長が花をさしていく。今回は真後ろの花姿は考えなくていい。正面と横が、綺麗に花が揃うように、華やかにみえるように、正面は高くもって、横は長く。花も種類も色も多く持って来てる。俺は店長に言われた花を渡し、不要になった茎や葉を、床を汚さないように、新聞紙に一旦置く。後で必要になる茎もあるかもしれないので、簡単にゴミ袋に捨てられない。
1時間もかからずに、豪華なフラワーアレンジメントが出来上がった。
バージンロードの横に、ポールが両側にある。そのポールに花を飾り付ける、それが俺の仕事だ。全部で16か所、飾る花は、ある程度、形は決まってるが、現場でもう一度、チェック。
店長のイヤな予感はあたったようだ。式が始まる事になって、一番後ろの右隅の席に女性が座っているのを俺は見つけた。いや、正確にいうと、”女性のようにみえるもの”か。半分透き通っていて、全体に水色っぽい。それだけじゃない。アメーバーのように形を変化させている。式場全体を薄く覆ったり、細長くなって消えそうになったり、色も水色に、時には赤や黒、黄色などいろんな色が混じる事もあった。
彼女は人間でも化け物でもない。いわゆる生霊ってやつだろう。形が不安定なのは、本人の状態のせいだろうか。店長が飛鳥先輩のほうを連れてきていたら、ひと悶着あったな。先輩には彼女がどう見えるのかが、見当つかないが。
仕事も終わり、撤収の準備をしてると、俺は、又、いやなものを感じがした。うなじがビリビリするこの感じは、学校で喧嘩がおっぱじまる前のある種の緊張感だ。
式に愛人でも乗り込んでくるとかか。なんでもいいが巻き込まれるのは、面倒だ。
そそくさと、用具類、残りの花やゴミをもって、車と式場を行き来してると、緊張感だだもれの子供を見つけた。列席者らしいけど、制服を着てないので、小学生6年ぐらいか。紙袋をもって、必死に隠そうとしてるが、俺にはまるわかり。
「よう、ぼうず。何持ってるんだ」と声をかけるなり、それを素早く取り上げた。
「何するんだ。返せよ!」
「へ~~ケチャップ持ってきたんだ。はは、お前、やらかすつもりか」
ケチャップは、ここでは”人にかける”しか、俺は思いつかない。それにしても、全身敵意むき出しってのが、俺には気に食わないな。
「子供を苛めてはいけませんよ」
穏やかだけれど、毅然とした声は、上から響いてきた。誰だ!
声の主は180cmはあるだろうガタイのいい男だった。ノボーっと立っている。
顔は声のとおり、優しい顔。細い目でおせじにも、イケメンじゃない。白くて長い服を着ている。もしかしてこの人が神父という職業の人か。
その人は、”健吾君”とよぶと、スミのほうで二人でなにやら話し始めた。
*** **** *** *** ***
式が始まった。予想に反して、健吾とかいうボウズはおとなしくしてる。後ろの片隅に座ってる”女性の生霊”は、あちこちに、触手を伸ばしてる。きっと何かの想いがあるのだろうけど、
残念ながら、俺と店長以外、その存在は誰にも気がつかないだろう。
平服の俺は、エプロンをわざとつけたままにして、”スタッフです”という顔で、式場の後ろにいた。”式が終わったら、花の撤収作業になります”と店長に言われてる。
司式をする神父さんの声は、シーンとした会場に響いている。
その言葉を聞いて時、瞬間、俺はびっくりした。
「...二人の結婚に異議のある人は、今ここで名乗り出て下さい」
キリスト教の結婚式では、こういう剣呑な言葉があるんだ。と感心してると、
「僕は、この結婚に反対だ。”僕にお母さんが出来る”ってお父さんは言ったけど、僕のお母さんは、病院に入院してるお母さん、一人だけだ。」
健吾が走って祭壇に上がり新郎新婦を見下ろしてる。花婿(父親)は、”何言ってるんだ、はやく降りろ、”と、カンカンだ。列席してる人はガヤガヤと騒ぎだし、話し声が飛びかう。
そんな会場でも、あの生霊女性は、相変わらず、形と色をアメーバーのように変化させてる。
「この人は、お母さんの事を、”料理がまずい””ノロマ””役立たたず”とか言って、毎日苛めていた。僕は、学校でのイジメのようだと思った。悩んだ母さんは病気になって病院にいる。」
”愛人が乗り込む”程ではないけど、結婚式で親子がもめる、店長の悪い予感は、これだったのかな。そういえばさっきから姿が見えないけど。
花嫁は、冷静だった。花婿に詳しい説明を求めた。
「ああ、確かに前の妻は病気で入院してるけど、俺のせいじゃない。あいつはもう入院して1年になるが、退院のめどもたたない。だから俺が子供を引き取って・・」
「入院して1年?私とあなたは2年前にはもう付き合っていたわね。で、病気になった奥様を見放した。私も病気になったら離婚されるのね。そんな人とは思わなかった。」
花婿は、その言葉で、かっときたのか、自分の息子・健吾の胸倉をつかみ頬を殴った。”お前さえいなければ上手くいったのに”
クズ野郎だな、こいつ。健吾は、殴られた勢いで壁まで飛ばされた。そこに神父がやっとそばによってきて、列席者に
「これは虐待ですね。子供への暴力は許されませんよ」
*** *** *** *** *** ****
ヘビーだったな。花達も可哀想だよな。花の精霊・花精たちも、ちじこまってるようだ。
結局、結婚式は中止、列席者は控えのホテルへそれぞれ向かって行った。
もう教会内には、新郎新婦関係者は、健吾以外は、誰もいなくなった。彼は父親から置いていかれたようだ。生霊の女性は空中をふわふわとんだり、座ったりと相変わらずだ。
花を片づけながら、俺は少し心配になった。父親の処にもどれないだろう。かといって、病気の母親にはこの子をみるのは無理だろう。こういう場合、誰がどうやって彼の面倒をみるのか。
「あ、その祭壇の花、安く売ってくれませんか?」
あの能天気さで神父が声をかけてきた。俺に言われてもどうしようもないし。”店長”と呼ぶと、事務室からでてきた。神父さんを見るなり、苦虫をかみつぶした顔で、
「おや、風来坊神父の敦お兄さん。いやな予感がしてたんですが、あなたが原因でしたか」
「水瀬花屋は、まだつぶれてなかったんですね。亘も元気そうで」
二人は兄弟?そのわりに、トゲトゲした雰囲気があふれてるような。
「また、結婚式をつぶしましたね。これで何回目ですか?それに、この子、健吾君。どうするつもりですか?勝手に連れ帰ると、誘拐罪ですよ。」
この場合、父親が訴えればそうなる。子供が未成年だからだ。子供を守るための法律が、逆に子供を不幸にすることもあるかもしれない。
「もしかしたら、こっちに帰ってくるかもよ。少し待つってのはどう?その間、あの人をなんとかしたほうがいいんじゃね?」
俺は、隅の生霊のほうを向いた。生霊はは何も見てないようだが。
「ああ、その女性は大丈夫。そのうち帰るでしょう」
のん気に答えたのは、神父だった。へ~~この人も視える体質なんだ。神父のほうは、しまったという顔で、頭をかいた。
「別に隠してたわけじゃないです。特に聞かれなかったし。」
「ホーホー。じゃ、バチカンには、兄さんが行けばいいですね。私は還俗願いは取り下げげるつもりは毛頭ないですし」
仲が悪そうでいいのか?まあどっちでもいい。俺は花の中から、赤いカーネーションを一輪引き抜き、健吾に渡した。不思議な顔をして、俺を見てる。
「ぼうず、この花を隅の席に置くんだ。そしてこう言う”もう病院に帰ろう、お母さん”って」
健吾は、驚いて固まってたが、俺が”早くすれ”と脅した。
”もう病院に帰ろう、お母さん” 健吾の言葉に、生霊は、アメーバーのように不定形だったのが、触手のようなものをシュルシュルっと縮め女性の姿に戻った。そして健吾を抱いて涙を流してるように見えた。
その時、カーネーションの精霊が飛び出してきた。ど派手は赤いピラピラのシャツを着てる。
俺の顔を見ると親指をたて片目をつぶり、”任せろ”とばかりに、彼女の手をひき、天井をぬけて消えていった。
やれやれだぜ。健吾の母親が魂だけ抜け出してきたんだな。
「いやいや、すみません。本当は僕や亘の仕事でした。それにしても君はすごいですね。どうです?神父になってみませんか」
「ならねえよ。」ったく訳わからん。
*** *** *** *** *** ***
その後、健吾の父親は失踪してしまった。多額の借金があったのだとか。結婚は、花嫁の実家の資産目当てだったらしい。神父の働きかけで、健吾は母親の入院してるA市の施設で保護される事になった。母親は結婚式のあの日から、急速に回復に向かってるのだとか。
神父はしばらくの間水瀬花屋に滞在。店長と陰険漫才を繰り返し、飛鳥ちゃんをキレさせた。
「どうでもいいけど、店長、仕事してください。それにそこのあなた、家族なら、家業を手伝うのは当たり前の事です。働いてください。」
大喝だった。おおコワ。
”神父になりませんか”というしつこい店長兄からの俺への勧誘は、しばらく続いた。
基本、更新は水曜日深夜(木曜日午前1時ごろ)週一のペースです。一話完結です。