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犬のオモチャと謎の男

飛鳥ちゃん視点。彼女がクリスマス用品を片付けていたとき、外にいる幽霊らしき母子をみつける。どうしようか困っていたときに、奇妙な男性に助けられ・・

 25日も過ぎたらすぐ、クリスマス気分はお終い。水瀬花屋も店内のクリスマス関係の小物の片づけ最中。すぐに正月用に店内を演出しなくては。


 私は、まず。ウインドゥーの飾りから片づける事にした。メインにクリスマスブッシュのアレンジ花。脇には蝋燭だの、クリスマスカラーのリボン、サンタ人形におもちゃ。花にはまったく関係ないけれど、雰囲気をもりあげるアイテムが飾ってある。


 そう広いスペースでもないのが、かえってよかったのか、ディスプレイは、我ながら上手くいったと思う。


 商店街のおもちゃ屋さんから借りた木のオモチャが好評だった。”これ、どこで売ってるのですか”と何度か聞かれた。



 片づけながら、ふと窓の外を見ると、男の子が母親の手をひっぱりながら駄々をこねてる。母親は子供をなだめてるようだけど、さかんに母親に窓を指さして泣きながら地団太ふんでる。3歳くらいかな、あの子は。もしかして、飾ってあるオモチャでも欲しがってるのかもしれない。


 ちょっと様子を見に、外に出て、母子の服装にビックリした。朝はー20度にもなるこの頃なのに、コートを着ていない。そういえば、二人の後ろに影がないし、よくみると体もなにやら薄っぺらい。


 二人は、幽霊の母子だ。


「あの、寒くありませんか?よかったら店の中で少し休んでいきませんか?」


 とりあえず声をかけたけど、今日は私一人。淳一は今日は家の手伝いで休み。店長は、ホテルで、正月用の花の仕事で留守。ちょっと心細い。


「あの~、申し訳ないのですが、この窓の処にある木のオモチャを安く売ってもらえませんでしょうか。」


 それは木製で、母犬と子犬が紐でつながり、ひいて遊ぶだけの単純なオモチャだった。


 これは幽霊には渡すのは無理だろう。しかも借り物で、汚れや傷をつけないように返さないといけないし。


「ごめんなさい。このオモチャは借り物なんです。」


「そうですか。残念です。これを欲しがってさっきから駄々をこねて、いう事を聞きません。早く帰りたいのに。」


 帰るって、魂だけで還る処は一つなのに。わかってるのだろうか、このお母さん。


「余計なお世話かもしれませんが、還る道はおわかりでしょうか?」


 母親は、ため息をつきながら子供の手をギュっとにぎった。


「それが、どこか路地を間違えたのか、見覚えのない処にきてしまって、そのうち日が暮れて真っ暗になってしまって。この辺にあるのは、花屋さんだけなんですね。」


 ああやっぱり、わかってなかった。今はちょうど午後4時前、まだ日が暮れてない。


「あのよく思い出して下さい。ここに来る前は、どこにいましたか?」


「どこって・・・覚えてない。どこにいたのかしら」


 いろんな事を聞いてみた。何も記憶がないようだ。少し困ってるとき、後ろから声をかけられた。


「お子さんのほうは、まだ生きてますよ。魂が抜け出てしまっただけです。母親が恋しいのでしょうかねぇ。」


 見覚えがあるかもしれない若い男性が立っていた。


 とりあえず、彼の言葉の通りだとすると、子供には体ににながる紐みたいなものが、あるはず。・・・・あった、しっかりと。


「ほら、ぼく。早くもどりなさい。」


 キョトンとする子を前に、”そっか、この年齢なら言ってもわからないか。仕方ない。”と 榊の枝をまっすぐ差し出した。枝からは、白い光が出て、男の子はあっというまに、光に包まれ、姿を消した。


 すごい!店長も私も花の精霊に頼んだりしたけど、こういう力技が出来る人がいるんだ。榊で少し思い出した。稲荷神社の宮司さんに似てるんだ。あの宮司さんがキリっとしたら近くなるかな。でも、雰囲気が別人、ここにいる彼は、オーラがあるというか、彼のまわりだけ空気のニオイが違う。


 母親のほうは、泣きだしてしまった。子供がいなくなったショックで、自分が死んだ事を思い出したようだ。


「ウチは母子家庭で、生活が苦しく、私もかなり無理をして働いてました。風邪が治らないなと思ったら肺炎で、そのまま子供を残して死んだみたいです。でも、子供の事が気にかかって、影ながら見守ろうと思ったんですけど。」


 風邪は万病のもとというが、ほんとに怖い。心残りがあるのは、母親としては、当たり前かもしれない。まだ生きてる段階で連れてたのは、どちらも何もわからなかったからね。


「飛鳥さん、すみませんが、その犬のオモチャ、売って下さい。母親を送り届けてもらいます。代金は後で払いにきますので。」


 普段なら信用しない。お客さんでもお得意さんでもない。後で自腹をきらないといけないかもしれないけど、彼の言葉に逆らえない。私は犬のオモチャを店からもってきて、渡した。


 彼はそれを撫でるように、犬の頭に手をふれた。するとたちまちのうちに、2匹の母子の犬の姿になった。


「この2匹が、あなたを天に案内してくれます。そこで子供の様子を見る事が出来ますよ。」


 2匹の犬は仲良く走り出して、母親はこちらに頭を下げると、その後をついていった。


「やれやれ、ちょっと荒業だったけど、犬のオモチャに木の力が残ってたので、助かりました。犬には道案内の役割があるんですよ。」


 さわやかに笑う彼を見て、私は唖然としてうなずくばかりだった。



 次の日、稲荷神社の宮司さんがやってきて、お金を払ってくれた。いや、顔は似てるけど別人なんだけどな。丁寧に断ると、宮司さんは、のほほんと、”いや、なんかここでオモチャを買う夢を見たんで。たまに見るんですよ、何かを買う夢。そういう時はかならずお金を払いに行くようにしてるん

です。”


 は?そんな理由で?大丈夫かこの人?


 犬のオモチャは、木の精霊?がぬけたせいか、別物のように私には思えた。それでも神社の宮司さんは顔は似てるけど昨日の彼とは別人。お金を払ってもらうわけにはいかない。固辞したら、シオシオと引き下がってくれた。


 結局、自腹で3000円払った。懐は痛いけど、それであの母親が幸せになるなら、安いと思う。


 宮司さんが来た日の夢は、奇天烈なものだった。


件の男性が出てきて、頭を撫でてくれた。すごくうれしくて、尻尾をふってる。それも狐の尻尾だ。


 この所忙しかったから、疲れてるのかも。淳一に夢の事以外の出来事を話したら、”ああそれ、ありかも”なんて当然って顔してる。稲荷神社で何かあったのかも。今度、聞きだしてやる。


 



木曜日か金曜日の午前1時~2時に更新します

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