クリスマスリースの準備
クリスマスにむけて、水瀬花屋は大忙しです。そんな中で淳一は自分の事をふりかえります。
「休みはこっちに帰って来るから、店を手伝う?」
店長は、クリスマスリースの材料をもくもくと並べて、返事はない。俺の言葉を冗談だと思ってるようだ。俺も同じ作業をしながらの言葉だからかな。
「っていうか、正直、12月と3月は完全に手が足りないでしょう?俺、冬休みと春休みは家に帰って来るし。あ、店長、このドングリ、下準備してあるものですか?」
ドングリをリースにつける場合には、まず拾ったものを煮沸して(出ないと虫が出てくるときがある)、帽子をいったん取ってから、改めてグルーで接着する。
「煮沸はしてあります。あと、帽子の部分の処置をよろしく」
店長も忙しい。出来れば飛鳥ちゃんにも手伝って、ついでに俺の話しを聞いてほしかったけど、彼女は彼女でホームページの更新や店のペーパーを作成中。手が空いたら来てくれるかな。
「ふふふ、去年、夏にあった自称不良高校生とは別人ですね。あの時は、坂崎先生の手前、”この子には無理”って言えなかったですからね。カッコだけ不良のクセに、空っぽな印象をうけましたから。よくて、友達と夜遊びして補導される系?もしくは、もっと悪い友達を紹介されて、悪いハッパに惑わされる系?」
えええ!俺ってそういう男子だったのか?なんだかカッコ悪いしヘタレてる。
「確かに、あの時はマジで1日でバックレるつもりだったですけど」
店長は干して水にさらし乾燥させたサンキライの枝を、土台にすべく、綺麗に輪にしてところどころアイヤーでとめてる。手早い。
「まあ、言葉遣いはまだまだですね。専門学校で矯正してくるといいです。さてと、とりあえず、今日はリースの土台と、サンプルだけ作ってしまいましょう。10時までには帰る事が出来るようにします。遅くなってすみませんね。残業手当はずみます。」
「店長!俺って中身がないというか何も考えてないように見えたって事?」
俺のしつこい質問に、店長はため息をつき、話してくれた。
「そう、徹底的に遊んでやる。グレて恐喝して金をとるとか、そんな意気は感じませんでしたね。もちろん、”不良の皆さん、かかってきなさい”というタイプでもなかったです。かといって、ラップだかという音楽?心から好きそうに見えなかったですよ」
そう言われると、ラップは好きだけど、今から思えば生け花ほどじゃない。小さな時からの習ってたから、ば・・ばあちゃんにすでに心の奥は洗脳されてたんだ。
「ボヤっとしてない。今年はクリスマスブッシュやドライフラワーを使ったリースを作りますよ。そこの麦のドライフラワーをとってください。」
俺はあわてて、つるしておいた麦を、外そうとした。が、うっかり手がすべり麦まみれになった。店長がそんな俺を見て呆れてる。
「あーあ、すこし傷んでしまいましたね。どうも心ここにあらずですね。ズバリ言いましょう。淳一君の場合は、もともと好きなものは決まっていたのを、ここで働いて思い出しただけです。坂崎先生の指導のおかげですね。」
くそ、やっぱ、ばばぁの策略か。でも残念ながら、すっかりトリコになってしまった俺は、もう華道家になるべくこれからも必死こかないといけない。
店長は、水に浸したドーナツ状のオアシスを持ってきた。これにグリーンや生花をさしてリースにするのは去年もやった。ただし店で飾るだけの非売品。
「飛鳥ちゃんに、まず最初にこれを作ってくれと頼まれてるんです。店全体がクリスマスッぽくするのに必須だそうで。
言われてみればそうですけど、先に言われたのが少し悔しいですね・・・」
先輩は、確かに花束を作るのは不器用だけど、店を繁盛させるために、いろいろ策をねってる。なんていうか経営者みたいだ。店長は店員っぽい。笑える。
「笑ってないで、ドングリの下準備、終えて下さい。次回のリース作りの講習会は、こっちで材料を持って行かないといけないんです。」
店長は苦笑いしながら、グリーン土台の生花のリース完成させてる。手早いし上手い。花の配置が絶妙だよ。こういうセンス、俺にも少しはあると自負してる。
「ところで店長、これらの材料って、値段どうするつもりですか?下準備労働分も入れて計算してください」
「うん、私にもわからないから、飛鳥ちゃんにおまかせ。多分、ドングリだと拾ったものだから労働分+ワイヤーなど材料費、サンキライとかは店のものだったので、その分のお金が上乗せされるでしょうかね」
めちゃ、面倒だ。労働分、上のせすると、リースはすごく高いものになる。もしかして、公園や山で拾ったものは、ただ同然になるかも。
「こういう計算は、彼女の得意分野です。ところでさっきの話しですが、淳一君は、幽霊がみえるとか精霊がみえるとか。普通は見えないので、視えないふりをしてきましたね」
「そういう事言うと、親にすっごい怒られたし、友達も引くから。店長はどうだったんですか?」
”私の事はよろしい”と作業の手をとめない。
「よかったですね。ここでバイトできて。視える人ばかりで、気が楽になって少し自分をとりもどせましたね」
・・・グーの音もでない。ばあちゃんはいつからこの店と取引してたんだ?その時から俺は、話のタネになってたのかも。
「店長、リースの作り方ペーパー作ります。材料を並べて写真とりますから用意してください」
「はいはい飛鳥ちゃん、こういう感じでいいかな」
周りを少しかたづけて、写真撮影会が始まった。ブログにものせるし、それを印刷して店に常備する。
なるほどね。出来た製品を売るのは利益にはなるけど、労働時間が半端ないしそれなりの値段だ。お客さんが自分で作れるように材料だけ売る。それって地道だけど時短になるな。サンキライの土台だけ作れば、あとは飾るのは難しくないしな。
「淳一君、ボンヤリしないで手を動かす。あ、それと淳一君が帰省中の時は、手伝いはいりませんよ。顔だけだしてくれるだけで充分です。それより、休みの時は札幌の花屋でバイトするなり、美術展とかで審美眼を磨いて下さい。」
審美眼ね・・・俺なりのはあるが、問題は、それをラフスケッチにするのが、超苦手な事だな。作業効率が悪くなると、なんと悟に指摘された。どうなるのかな~俺の学校生活は・・・
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