表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/75

花束の役目と行方

前半は店のお客さん目線、後半は飛鳥ちゃん目線です。


演奏会のために買った花束は、不要といわれてしまった。宙にういた花束の役割と行方は?

「桃ちゃん、ソリストへの花束だけど、今年からやめることにしたのよ。知らなかったの?役員会で決まったんだけど、ラインかメールかいかなかったのな」


 連絡は来なかった。そんな細かい気配りをしてくれる団員がいないのが、悲しいけど私の現実なのだ。


 私、一宮桃子は、新米の小学校教師。中学校の時から吹奏楽部でクラリネットを吹いてる。今は社会人の吹奏楽団・HNBに所属。でも、ウチの団は吹奏楽のコンクールを目指すほど上手で、練習日も週3回で厳しい。


 団員数も70名超(幽霊団員を入れたらもっと多いそうだ)。残念ながら、私はコンクールを目指すメンバーじゃなくて、いわば2軍。もっぱら雑用事を多く頼まれる。去年は花束係だったので、今年もそうだと思いこんでた。買う前に確かめなかった私が悪いのだけど。


「すみません、私、ソリストのサックス奏者に渡すものだと思い込んでました。」

「ソリストの佐川さんは、花束はいらないって主義なのよ。演奏会後、すぐ自宅に帰れるわけないからってね。よく考えると、ソリストの多くがそうだから、経費節減のために廃止したの。桃ちゃんももう少し練習に出る事が出来れば、役員会の報告を聞き逃さずにすむのにね」


 事務局の佐藤さんから、皮肉まじりのため息をつかれ、私は体が硬くなる。


”あの、これどうしたら・・”とおずおず尋ねたが、佐藤さんは他の用事で呼ばれ走って行ってしまった。団の運営にかかわる事務局は、めちゃめちゃ忙しいのはわかるけど・・・


 4000円の自腹はキツいな。領収書を見ながら、部屋には花瓶がない事を思い出した。

職場にでも持って行こうか。でも嫌味な指導教諭に何か言われるかもしれない。花瓶のレンタルとかないかな。明日、花束を作ってくれた水瀬花屋に相談してみようか。


*** *** *** *** *** *** ***

<だから、あの女性は、とっても疲れてるの。心の細かい処はわからないかったけど、ここにいる間も、緊張してた。他の花の精霊も緊張感は、感じたはず。それに私は、ちょっとだけ”彼女の孤独”を感じたの>


 金魚草の精霊の訴えが続いてる。精霊の心配してる女性は、25歳前くらいの真面目で地味な感じの人だった。今日の夜にある演奏会で、ソリストに渡す花束を店長に作ってもらってた。予算は4000円、さすがに私には無理なので、もっぱらリボンや薬剤を用意したり、店長のアレンジを見てた。


「よかったら聴きに来てください」と、チラシをもらった。”スカラムーシュ”という曲で、サックスがソロで活躍するのだそうだ。


 しばらくすると、グロサリオの精霊が、慌ててやってきた。


<やばいよ。飛鳥ちゃん。俺たち、用なしになりそう。今年から花束廃止だって。買ってった桃ちゃんって子は、今、途方に暮れてる。それにすごく落ち込んでる>


 金魚草とグロサリオの精霊は、淳一と同じ高校生くらいの姿、二人して(?)”どうしよう”と深刻な顔をしてる。


<ソリストの演奏を賛美するための花束なのに、出番がなくて、俺たちどうしていいかわからなくなる。>


「でも、うちは返品は受け付けないわよ。鮮度はそれほど下がってないけどね。彼女が返しにきても断るしかないわ」


 4000円の自腹は、可哀想だとは思うけど、一人そういう前例を作ると、収集がつかなくなるから。


*** *** *** *** *** ***


「あの、ごめん下さい。昨日、花束を作ってもらった者ですが...」


 若い女性の声で、作業を中断してとんでいった。桃ちゃんだろう。どうなったのだろう、花束は?


「ありがとうございました」

「いえあの、結局、花束は渡す事は出来ませんでした。でも、ソリストはすごく素敵な演奏をしてくださり、私個人で花束をあげたいくらいでした。であの、うち花瓶がないんで・・」


 私は少しホっとした。彼女がその気持ちなら、花の精霊たちは、役目を果たす事が出来ただろう。ソリストに賛美と感謝をささげたと思う。


 花瓶は、あれだけの花を入れるのは、ちょっと高いものになる。さすがに懐に響くだろうか。


「花瓶じゃなくてもいいのよ、花を入れるのはバケツでも。ウチでちょうど空いてる花入れがあるので、それを貸しましょうか?」


 業務用の器が、ひとつ空いてる。2週間くらいなら、一つくらいなくても、なんとかなるでしょう。


「いえ、あの花束が入るくらいの花瓶を下さい。あまり使う機会もない気もしますが、花が終わった後も、花瓶を見て花束の姿を出す事にしました。きっと昨日のソリストの音もセ一緒に頭の中に入って来る」


 まあ、素敵な考えだわ。心の中にずっと花束があること同じ。それも音楽付きで。


 私は満面の笑みで彼女に花瓶を売った。サービスで金魚草をつけた。精霊は彼女の事を心配してたんだから、傍にいることが出来て嬉しいと思う。


 

週一更新


まる一日遅れました。申訳ありませんです。(途中でPCがフリーズして、操作できなかった)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ