マダム・ダリア
淳一君目線。ダリアの精霊にお願いされた事、教会の裏で小さな女の子が泣いている。
{今、ダリアの精霊に文句を言われてます。助けて!}
店で、胡蝶蘭の鉢を手入れしてると、悟からラインでSOSがきた。確かにダリアは難しいけど、助けてだなんて、大げさな。
ちょうど手があいたので店長に了解をとって、俺は悟のいる三条教会へいった。自転車で5分、冬は徒歩になるけど。
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「悟、ダリアの手入れは俺が...」
と、声をかけてビックリした。玄関に、人間にすると体重は100kgを超すだろう巨漢の精霊が、座っていた。
精霊の本体のダリアは、小さい子の顔ぐらいある大きな黄色の花で、そのせいか寂しい玄関が、明るくなったようだ。それにしても本体が大きいと精霊も多きくなるのか?
「ねえ、花屋のおにいさん。お願い。なんとかし。私、せっかく大事に育ててもらったのに、切り花になった途端、もう死にそうよ。」
太ってもいるが背も高い。水商売風のドレスなんだろうか。服は、ゆったりしていてなんだかところどころ消えかけてる。本体が弱ってるせいだろう。なるほど、助けるのはダリアのほうな。
ダリアは、水揚げが難しい。それに一旦、状態が悪くなると回復が難しいんだ。
手伝いに、とついて来る悟に、”独りで出来るから”と、台所に急ぐ。湯をわかして50度くらいの温度にして、そこへダリアをつける。花瓶の水を取り替え、除菌液を入れ、ダリアも他の花も切り上げて入れなおした。
どうかな~。花自体は大きいわりに、形もしっかりしてるし、茎も太い。さっき大事に育てられたと言ってたのは間違いないようだ。ただ花を切ったのは、あまり花の事を知らない人なのかもしれない。作業が終わり少したつと、精霊がの姿がハッキリしてきた。水揚げが上手くいったようだ。
<ありがとう。やっとひと心地ついたわ。もう逝っちゃうかと思った。それとね、お願い聞いて。悟君っていうの?あの子に言っても話しが通じなくて。裏にね。子供が二人いるの。泣いていて可哀想で、なんとかしてあげたかったけど、ホラ、さっきまで私、死にそうだったし。>
悟に話しが通じない?あいつは花の精霊は見えても、人の魂・幽霊は見えないんだよな。
つうことはだ。
裏にまわってみると、小学校低学年くらいの男の子と、泣いてる小さな女の子がいた。もちろん幽霊ってやつだ。透き通った体から赤い血が出てるように見えた。
「マ~マ~どこ?明にいちゃ~ん。」
「泣かないで、ゆっちゃん。今、僕が明にいちゃんを探しに行くから、ここで待っていて」
「や、一緒に行く。」
”ゆっちゃん”は、泣きっぱなしだ。
<ね~?もうあたし可哀想で聞いてられなくて。でも動く力もなくて。なんとかしてあげてよ>
俺に出来るかな?店長のほうがいいんじゃん?それとも敦神父...は今いち頼りないか。声をかけてみるか。駄目そうな時は店長に任せる。この手の事は俺より年上なぶん、経験豊富だろう。
「二人とも、このおばさんについて行ってくれるかな。後からお前たちの兄さんが来るから。大丈夫。3人とも行くところは同じ。先に行くだけだから」
”おばさんとは何よ”とダリアの精霊から、肘でこずかれフっ飛びそうになった。
「やあだ、明にいちゃんと一緒じゃなきゃ。それにママもいないとやだ。」
ゆっちゃんが、ことさら大声で泣き出した。ゆっちゃんの体がだんだんどす黒い色に変わって行く。
まずいな。こじらしたらこの子地縛霊になりそうだな。
俺は比較的冷静な男の子の方に声をかけいろいろ聞いてみた。詳しい事は覚えてないようだし、無理に思い出す必要もないと思い、そこらへんはスルーした。
「最初は、博にいちゃんと一緒だったんだけど、気が付いたら兄ちゃんだけいない。ママは最初からいないだ。呼んでみたけど。それにここどこ?」
「わかった、まずな、名前押してくれるかボク?」
「僕は、朝日小学校3年2組、菅 翔太」
「翔太は、エライな。もう少し頑張ってくれな。とりあえず、二人を探してくれそうな人の処へ行こう。このオバ..いやマダムに連れて行ってもらうおう。俺もすぐ行くから。」
「って事でよろしく。ウチの花屋の場所わかるだろ?」
ゆっちゃんは泣き止まないけど、店に連れて行く事にした。俺よりも精霊のほうが、そういう仕事は得意だろう。今までの経験からするとだ。
<当たり前じゃないの。あれだけ明るいんだから>
マダム・ダリアは、二人をかかえ、その服の中に隠すようにして消えた。俺も急いで戻らないと、あのマダムにこっぴどく怒られそう。
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<遅いわよ。もう>
マダムが口をとがらして、仁王立ちしてる。へ~へ~すみません。これでも全速力で自転車こいできたんだけど、肉体があると不便な時もあるんだな。飛鳥ちゃんは音楽オールへ花束の配達(徒歩で)。店には店長一人だった。
「淳一君、だいたいの事は精霊から聞いたから。兄妹3人の事件は知ってるだろ?」
「いえ、すみません。知らないっす。」
店長は、少しあきれ顔で俺に新聞をよこした。
そこには、父親が妻と三人の子供を惨殺したニュースが大きくのっていた。苗字は菅だった。
遠く本州で起きた事件だけど、死んだ後は距離は関係ないようだ。
普通は、不意の事故・事件にあった子供なら、天に直行できる。残念な事に親に虐待され末に死んだ子は、たまに迷う事があるんだ。
「事件のあった所には、多くの花束が置かれてるそうだ。その精霊に聞いてみるか」
<任せて下さい>と胸をはってでてきたのは、お供え用の菊と白百合の精霊だった。
精霊たちが消えて少したった後、少し大きな男の子がやってきた。体の半分が黒い。連れて来たのは、小菊の精霊。見た目は、ゆっちゃんという子に似た小さな女の子だ。
「僕は、ママと一緒にいたかった。パパはママを殺したんだ。その物音で目をさました僕を、パパいやあの男が僕を刺した。妹と弟も眠ってる所を殺された。絶対許さない。」
あちゃ~この子悪霊になりかけ。小菊の小さな精霊、よく連れてこれたな。
<あのね、このお兄ちゃん、私を見て何か思い出したようなの。だから”一緒にきて”ってお願いしたの。いやだと言われたので、悲しくて泣いたら、すごく慌てて。で、向こうのお供えの花の精霊たちに、風を立てて送ってもらった>
”ゆっちゃん”に似た精霊に、気が付いたんだな。まだ悪霊までは行かなくて済みそうだ。
翔太君に説得してもらうのが早いかな。店長にまかせるか?
「明にいちゃん、怪我してるの?血が出ていたそう。ゆっちゃんが、痛いの飛んでけのおまじないしてあげる。」
いつのまにか泣き止んだゆっちゃんが、明にいちゃんの背中を撫でてる。
「ごめんゆっちゃん、翔太。おにいちゃん、助けてあげられなくて」
明にいちゃんは、泣きながら二人を抱きかかえた。明にいの体が次第に透明になっていく。
よっしゃ!悪霊にならずにすむ。やっと弟妹の事を思い出してくれた。後は送るだけだ。
「会えてよかったね。このおばさんが、皆を天国へ連れて行ってくれる係だから。」
店長!”おばさん”はNGワード。ぶっとばされると思ったけど違った。
<よろしく~。マダム・ダリアです~。はい、3人ともここに来て>
彼女の下には、丸くて黄色い絨毯があった。3人は、不思議そうにしながらも、その上にのった。途端、風が吹いて来た。店内から外のほうに。その風にのって、飛んでいった。
「おばさ~ん。よろしく頼むわ。」
<マダムよ。花屋の青二才君。私、力だけは強いのよ>
...ま、花も横綱級だからな力はあるか。そういえばゆっちゃんは、店ではもう泣き止んでた。
子守の才能があるだ。
店長は、やれやれと背伸びしながら、午後の作の段取り表を確認してる。
「ダリアは、天竺牡丹の別名があるんです。牡丹は、”忘れ草”の別名がありますから、彼女の力であの3人は、つらい事は忘れてくれるでしょう。今回は事件現場に献花された花の精霊に助けられました。」
ダリアのおかげで、今回は私は楽でした。なんて笑いながら言う店長は、テキパキと仕事を始めた。
週一更新(木曜日午前1時~2時)
更新時間、遅れてすみません。




