飛鳥ちゃんの願い
一人で留守番の飛鳥ちゃん、俊君に閉店準備を手伝ってもらいますが・・・
6月、7月と水瀬花屋の売り上げは、さんざんだった。8月のお盆には、さすがに、前の月よりは売り上げはよかったけれど、メインの菊の卸値が2倍になり、ピ~ンチ!。さすがに売値を2倍にする事は出来なかったから。
店長の方針では、ウチでよくでる500円の仏花は、値段据え置きになった。購買層は年配者だそうで、固定客もいる。値上げは、生活に響くだろうという事で説得されたけど、正直、大変だった。
販売数は少なくても、ウチは弱小なので経営に響くんですけどね。8月でやっと息はつけたけど、それまでは自転車操業のようなもんだったし。
私がPCの帳簿相手にうなってると、星が丘高校生の真里亜ちゃんと美鈴ちゃんがやってきた。もう夕方5時近いけど、なんだか、二人とも動きやすい恰好でリュックをしょってる。どこかへ出かけたんかな?
「どこかにお出かけしてたの?」
「ええ、家族で旭岳へ泊りがけで行ってきました。」
「寒かったです。次の日は雪がちらついたりして」
いいないいな。私も旭岳なら行きたい。3人で女子トーク。二人は旭岳で撮った写真を見せてくれた。真里亜ちゃんは主に花を、美鈴ちゃんは煙ののぼる旭岳を。美鈴ちゃんもすっかり写真のトリコになったよう。趣味に没頭できるのは、いい事だ。
そういえば、私って趣味ってナイ。しいて言えば”目指せ、売り上げ倍増”か。趣味を見つけるヒマもなかった。午前中に起きられないので、学校は卒業するのがやっと。しばらくは夜間教室に通い、いろんな免許(簿記とか情報処理とか)とった。でも、正社員の求人はなかった。
そりゃ、そうだね。シフト制の仕事でも”絶対午前中は無理”という条件だと、パート扱いになる。母さんのツテでこの花屋に就職できたけど、それでもパート扱い。というか正社員を雇うほど、ウチの店、売り上げないし。
「ね、真里亜ちゃんと美鈴ちゃん、将来は何になりたい?やっぱりプロのカメラマン?」
聞くと同時に、ドっと笑いがかえってきた。そんなヘンな事、聞いたかな。
「プロなんて、ごくごく一部の人がなるもの。ま、その手の専門学校へ行けたら嬉しいけど、お金がかかるしね。専門学校へ行くなら、就職に有利な資格の取れるところかな。ね、真里亜ちゃん」
「私も美鈴ちゃんと同じ。資格のとれる専門学校へ行って、それを武器に仕事につく。写真は仕事の合間、趣味で楽しむ。」
二人とも現実的というか、夢を追わないんだ。それに比べると淳一は、華道家目指し一直線だよな。就職とかまるきり頭にない。
「淳一君みたいなタイプは、学校でも珍しいかも。うちの高校でも、A組でピアノで音大目指してる子いるけど、東京にレッスンに行くのによく休むし、美術部の先輩でも美大目指す人は、個人的に先生についてるみたい。」
なるほどね。趣味=仕事にするには、並大抵の努力じゃ無理なわけね。淳一は、店でバイトだなんてボサボサしてるほうじゃない?
二人の撮った写真でお気に入りを、店に飾る事を約束した。これも地域活性のためになるし、はは、なにより私が、その写真で癒されながら楽しく仕事したい。
二人はキャラキャラと笑いながら話しをしたあと 夕暮れの町の中を帰って行った。かわいい二人組。飛び跳ねるように歩く姿がウサギのようだ。暗くなる前に家につくように。
さて、そろそろ閉店準備。店長はなんだか花屋会議?だかでさっき出かけたから、早めに閉めよう。そだ、悟君と俊君が帰ってきたら手伝ってもらおう。バイト代は...だせないな。
頭の中で帳簿をやりくりしても、無理という回答しかでない。しゃあない。晩御飯を作るという事で、バイト代の代わりにしよう。
<結局さ、飛鳥ちゃんの趣味って仕事だよね。アレンジの腕はともかく、店長や淳一、悟がとりこぼしてる仕事をこなしたり、私たちのお世話も、かなりしてもらってるもの。>
吾亦紅の花の精霊が、心から感謝をしてくれたのだろう。でも、聞きようによっては、アレンジでは今いちって事よね。精霊は正直だから、とほほ。
「ありがとう。花がなるべく長く持つように、水がちゃんとあがるよう、気を付けてるし、温度・湿度管理もまかせて。売れ残っていく花を見るのはつらいものだし。」
花は冷凍保存するわけにいかない。本来なら、仕入れが早いほう(時間がたったほう)から売って行くべきなんだろうけど、そこは店長はよしとしないみたい。もちろん、オーダーをうけてから花束を作る運営方法もあるらしいけど、それでは地方の花屋はやっていけない。
それに、花屋に花が飾ってあるのを見て、少しでも心が癒されるといいなと、最近思う。それが花屋の醍醐味で宿命じゃないかって。結局、私は仕事人間なのかも。嫁に行き遅れるかもしれないけどね。
「飛鳥先輩、ただいま。忙しそうだけど何か手伝いますか?」
「ありがとう、俊君。ウィンドウ用ってメモが貼ってある花入れを、ウィンドウの近くに持ってってくれる?店長が帰りしだいアレンジ花を作るから。淳一は、今日はお休み。試験だって。」
菊以外で、お盆用に使える花を入れたものの、売れ残ってしまったのだ。それを店長が、アレンジしてショーウィンドウに飾る。
「ありがとう。俊君。ただ廃棄するだけだと花も可哀想だしね」
「その窓のアレンジの花って、そのまま売るんですか」
確か、そういう希望が出た時は、事情を話して、同じようなものを新しく作り直す。ウィンドウ用のアレンジは、実は真後ろは、結構地味にしてる。(見えないから)
「花は枯れたら、生ごみですね。少し可哀想ですが。」
「何いってるの。花屋からは、茎や葉も多くでるのよ。ゴミになんて出さないわ。もったいない。店長の持ってる小さな畑に、たい肥にするのに埋めるのよ。売れていった花には、元気で頑張ってって声かけるし、運悪くたい肥用になった時には、ごめんなさい、いい土を作ってって送り出すの。」
そこでアッと思い出した。俊君は精霊が視えない人だった。今のはちょっとファンタジーな発言っていうか、私、あぶない人に思われたかも。
「大事にしてるんですね。でも、そこまでいくと自己満足?。」
<違うったら>という精霊たちの声が重なって聞こえる。
「僕も自己満足だけで面倒みてもらってるのかな......」
ムっと来て、頭を叩いてやろうと手がでたところ、ちょうど帰ってきた店長にその手を止められた。
「何を言ってるんですか?今月は仕方ないとしても、来月から月3万、下宿代としてお金いただきます。家族でも働いてるのなら食費・光熱費は入れるじゃないですか。それと同じです」
俊君は、その”家族”という言葉にピクっと反応した。店長もおそらく神父も、そう思ってるのだろう。はたして俊君のほうは、どう考えてるかは、私にはわからないけど。
週一更新。基本、一話完結です。
遅くなってすみません。




