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ニゲラ…夢で逢いましょう

店長は、ある霊と出会いました。それは凶悪犯の霊魂で、まだ完全に死んではいないようです。そこで店長のとった策は・・

途中、凶悪犯視点の話が入ります。

 綱渡りのような一日だった。結婚式も終わり、私は明日の入荷に向け、在庫確認。

この分だと、切り花の入荷を増やさないといけない。今年は天候不順で卸値が結構高い。


 飛鳥ちゃんが”菊が2倍もするんです”と嘆いてた。この分だと今月は結婚式の分の売り上げをいれても、若干、赤字になる。まずいな、9月は、イベントが多いから、そこでなんとか挽回したい。


 俊と悟が、手伝うといってくれたが、入荷の予定を立てるのは、彼らには無理だ。


 もう夜の10時だ。終わったら、まだ教会で事務仕事してる兄を手伝うことにしよう。それにしても、今夜はイヤな予感がする。店の外はもう誰も歩いていない。そして妙に静かすぎ。

こういう時、面倒な幽霊が来たりするんだ。そして私のイヤな予感は当たった。


「ここは、どこです?」


 ほら来た。その次は、私は誰?とかか。


「私は自分の信念にもと、革命を起こすべく蜂起しました。日本の真の夜明けがくるよう。なのにこの暗さは、私の目が悪くなったのか?」


 30代くらいの姿の男性。輪郭がわりとクッキリしてる。よく見ると、後ろに糸のようなものがついてる。(糸は肉体につながってる)つまり、彼は意識不明か昏睡状態でここに来た。

革命だかなんだか知らんが、早めにお帰りいただこう。


「あなたは、まだ生きてますよ。肉体から魂が抜けた状態ですが、まだつながってます。後ろの糸を頼りに、お帰りなさい」


 業務用スマイルで、優しく教えたが、返事はNOだった。


「私は悪霊となり、庶民虐げてきたヤツラを呪うことを願う。その後ろの糸だかは、私には見えないから、切ってくれないか?」


 悪霊になっても、殆ど生きてる人間には干渉できない。そう説得しても聞き入れるかどうかは、疑問。それより男の顔になんとなく見覚えがあった。知り合いじゃない。いかつい顔に鋭い眼の男。しばらく考えたが出てこない。人の顔を覚えるのは得意だったんだけどな。


「あなたは、自分の事を覚えてますか?」


「私は、新川 一馬。革命家だった。」


 思い出した。彼は潮田小学校で、刃物を振り回し、子供を10人、教師を1人殺した凶悪犯罪者だ。確か精神鑑定のため留置されてるはず。TVのニュースでさかんに報道してた。


「単刀直入に聞きます。新川さん。なぜ潮田小の子供を惨殺したんですか?子供に恨みがあるとは思えないのですが。」


「今の日本は一部の富裕層が日本を牛耳って、下のものを搾取してる。労働者を安い賃金でこき使い、あがった利益を、内部留保という形で労働者に還元しない。潮田小の子供は、そんな経営者の子供たちだ。殆どの子供が、毎朝、外車で通学してる。どう考えてもおかしいだろう?潮田小の子供を殺すことで、労働者を搾取してる経営者の目を覚まさせる。」


 淳一君のよく使う、”ムカツク”って、こんな気持ちですね。関係のない子供を殺して、何が革命ですか。


「新川さん、あなたのやった事は、社会に衝撃を与えましたが、それが革命に結びついてはいません。それより、人を殺しておいて、捕まらないとでも思ったんですか?」


「私は、俺の信念を裁判で主張するつもりだった。それが精神鑑定をうける事になった。俺は精神は健全だ。どこもおかしくない。それでも鑑定結果を待って留置場で過ごす日々だった。で、ある日、朝起きると同時に、胸に激痛がはしり息が苦しくなり、気を失った。で、気が付くとこのありさま。頼みます。糸とやらを切ってください。」


 彼の主張はある面正しいけれど、行動は著しく常軌を逸脱してる。いっそ、死んだほうが世のためか?そんな考えが一瞬、頭をかすめた。とりあえず私は、彼に最もふさわしい花を2本渡した。ニゲラという花だ。ニゲラの精霊は双子のような小さな女の子と男の子。新川のような犯罪者だと荷がおもいかもしれない。それでも彼らは”頑張るから”と力強く答えた。


 ニゲラの花言葉は、”夢で逢いましょう”。子供を大勢殺した新川には、どんな夢が待っているのやら。


*** *** *** *** *** ***


 突然、暗闇の中に放り出された私は、最初、茫然としてた。真っ暗闇で自分のことすら見えない。遠くに明かりが見え、試しに自分の手をかざして見てみると、透きとおって、向こう側がすけて見えた。ひょっとして私は死んだのかもと、そこで少しわかった気がした。


 光のもとは、何かの店のようだった。コンビニじゃない。まぶしすぎて中に入ることができなかったが、店主らしき男性が出てきて、私に”まだ生きてるから帰れ”と行くべき方向を示してくれた。ただここで私は考えた。このまま幽霊になって、労働者を虐げてきたヤツラを呪うってほうがいいかと。


 そう告げると、店主はそうですかと、花を2輪わたした。なんのつもりだろう。葬送の花?

空色の華奢な花を握ると同時に、右のほうに、あかるい部屋が見え、そこに引きずられるようにして入った。これでやっと暗いだけのおかしな処から逃げ出せたと、その時は思った。


 そこは教室だった。そして私はなぜか小学生になってる。視線が低い。国語の授業で、子供たちが順番に教科書を朗読してた。俺は、そのクラスの女の子の一人の心の中に居候してる。彼女の考えてる事がよくわかった。


 授業は退屈だけど、ノンビリとすぎていった。彼女が、退屈と感じ始めた時、突然ガラっと戸を開け、男が刃物を持って入ってきた。それは”私”だった。冗談じゃない。自分に殺されるのか?女の子は、あまりの事に、体が動かず震えるだけだった。”お母さん助けて”って、心の中で叫んでる。”私”は容赦なく包丁で突き刺した。


 痛いと感じるより、声が先に出た。苦しい、息が出来ない。そして目の前が暗くなった。


 気が付くと、また、同じ教室にいた。私は教室を走って逃げる男の子の心の中にいるようだ。

”私”は、すでに何人か襲撃したようだ。男の子は走って逃げてる最中、躓いて転んだ。そこに

”私”が、包丁を振りかざした。瞬間、目の前がクリーム色一色になった。担任の女の先生が、男の子をかばったのだ。”私”は、躊躇なく、男の子をかばう教師に包丁を突き刺した。その間に男の子は逃げようとした。だが、無理だ。この後の展開は覚えてる。男の子は”私”に追いつかれた瞬間、振り返った。”私”は、下卑た笑みを浮かべ、男の子を襲った。


 男の子の恐怖の気持ちも、刺された痛みも感じる。それどころか、一緒に苦しんだ。即死じゃなかったんだ。永遠とも思える時間を苦しくてうめきながら、男の子は教壇の机の中に隠れた。そこで俺は、また目の前が暗くなった。


 

 目をさますと、そこはさっきのやたら明るい店の外にいた。目の前には店長。私は2本の花を握りしめてる。立って夢でも見ていたんか?


「どうです?夢で逢う事はできましたか?あなたのいう革命の志に燃えた”あなた”に会えましたか?」


 ここで、胸をはって”会えた”という事が出来たらよかった。でも俺は知ってしまった。殺すことに喜びを覚えてる獣以下の自分の姿を。襲われた子供の恐怖と痛み・苦しみを。


「私はこのまま死んだほうがいい。何もわかっちゃいなかった。地獄はどっちですか?}


 その途端、俺はものすごい力で後ろから引っ張られた。なんだ、今度はどこへ行くんだ?


「ああ、肉体のほうが、なんとか状態が落ち着いたようですね。よかったですね。あなたは死ななくてすみますよ。ああ、もしかしたら、このニゲラの見せた夢を忘れないでくださいね。彼らは頑張りましたから。じゃあ、お元気で。行先は地獄かもしれませんが。」


 冷ややかな笑顔の店長さん。あんな夢は二度とみたくない。むしろ死んだほうがましだ。


 白い部屋で目を覚ました私は、体が動かなかった。縛られてるわけでもない。しばらくしてから、それが脳の酸素不足の後遺症だと聞かされた。私は、半身不随の体になった。


 あの恐ろしい夢は、何度か私を苦しめた。誰か助けて、いや死なせてくれ。鑑定結果、精神には問題がないということで、裁判が始まった。私は小学校を襲い子供を殺した理由を、黙秘した。私の主張に同調する者がでないように。


*** *** *** *** *** *** ***


「店長、ニゲラが2本、クタっとしてるんですが。精霊たちがいうには、店長が持って行ったと。どうしたんですか?これ注文品ですよ。」


 しまった。ニゲラは坂崎さんところから注文された花だった。注文数より3本多くかってあったので、ギリギリセーフだ。


「その顔は、身に覚えがあるんですね。じゃ、2本で税込み632円です。毎度、ありがとうございます。」


 ああ、飛鳥ちゃんの笑顔が痛い。懐にも。今回は無駄遣いとは思わないけど、経費でも落ちないな。”悪霊志願の幽霊の相手をしてました”だなんて、誰も信じないだろう。はあ。


 

週一の更新です。基本、一話完結です。

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