学祭の展示。淳一、指導者になる。
前回に続き、淳一の学校での話しです。学校祭で華道部とかかわりが出来た淳一。ところが直前になっても、展示する生け花が出来てません。指導に駆り出されたのすが。。
「ネジバナだね。人気の野草で栽培が難しいんだ」
店長は花については博識だ。野の花を生け花にする事もあるだろうから、俺もこの分野の勉強が必要だろうな。
「そうそう、淳一君。今日は君の高校の華道部の子達が、坂崎先生と店に来る事になってる。
明後日の金曜日から学校祭なんだってね。展示するのに必要な花を選びに来るそうだ。」
あれ?ばあちゃん、うちの高校の華道部、指導してたか?確か、草月じゃなく池坊の先生がきてた気がするんだが。
「淳一、ボっとしてないで手を動かす!今月と来月、お盆だからね。お供え用の花に、リキ入れなきゃ。最近はアレンジでバスケットに入れたお供え花も人気だしね。頑張って作らないと」
飛鳥先輩に、ヘーヘーと返事をして、花のチェック。仏壇、お墓に入れるお供え用の花束(同じ物を二つセット)、ちょっとゴージャスなお供え用花束、小さなバスケットにいれたアレンジ花。そのうち、仏壇・お墓詣り用の花束は、コンスタンツに売れる。バスケットに入れる花は、若干、洋風の花も入れてある。数を数え、傷んでる花がないか再度、チェック。
(それにしても、なんでここはお盆が2回もあるんだ?わけわかんね)
”チリリン”というドアベルで、俺は作業中の中腰のまま、顔だけ入り口に向けた。
「いらっしゃいませ」
飛鳥先輩と声が重なる。愛想だけはよくしないとな。接客は第一印象が大事だ。
「あれ、坂崎じゃん、何でここにいるん?学祭の仕事は?」
げ!同じクラスの戸倉じゃん。やべえ、サボってるのバレた。
「はいはい、こんにちは。今日はよろしくお願いします。店長さん、この子達にアドバイスしてやってください。私は今回は、出来る限り口をはさまない事にしましたから」
「毎度、ありがとうございます。坂崎先生。一人につきご予算は、いかほどでしょうか?」
生け花を習うのには、お金がかかる。花代がかさむからだ。確か、華道部では、ペーパーフラワーなどの造花で、形や型の勉強をしてると聞いた。生花を使うのは、少ないらしい。
「一人頭1500円です。部費から500円、学校から特別に1000円出ますんで。後、うちの庭の花で使えそうなもの、持ってきてます。」
「庭の花を使うのは微妙ですね。害虫の問題とかありませんか?」
「大丈夫、うちの嫁は、ガーデニングが大好きなのに、虫が大嫌いでね。しょっちゅう、消毒かけてるみたいだから」
そういえば、今朝、うちの庭の白のデルフェニウムが、なかった気がする。母さんが丹精こめてるのに、切っちゃっていいのか?後で嫁姑問題に発展するのは、勘弁してほしいが。
「ばあちゃん、ウチの高校の華道部、教えてたっけ?」
「ああそれは、ちょっとね。」
ばあちゃん、ごまかした。訳ありなのがバレバレだ。見れば華道部の4人も、さっきまでと違い、笑顔が一瞬消えた。まあいい。俺には関係ねえし。
花選びが始まった。女子高生4人で、店の中は賑やかだ。店長は事前に種類を多めに入荷していた。花の種類が多いのもかえって、決めずらいものなのか、時間がたっても、ちっとも決まらないようだ。
「戸倉、生け花のデザイン、ちゃんと決まってるのか?」
「う~ん、どの花も素敵で目移りしちゃって。花を見てその場で考えようと思ったのだけど、思い浮かばなくて」
そりゃ、そうだ。花を見て”これよ、こういうデザインで活けたいわ”とピンっとくるなら、それは天才の部類だな。
「うちらの華道部も今年限りかもしれないから、学祭くらい華やかな生け花にしたいよね」
「そうそう、カンコ先生の花って、いつも地味だよね。」
「由紀!」
由紀という子は、他の二人に睨まれ、しまった!って顔をした。
4人とも3年生なので、彼女らが卒業したら、華道部もなくなるかもな。華道部に限った事じゃない。男子羽球、陸上部、とか生徒が少なくて廃部になった部も多い。これも”少子化”ってやつの影響?
もう夕方の6時近くなったのに、決まらない。店長は、ある提案をした。
「明日、もう一度いらっしゃい。もう遅いですから。家に帰って、自分でデザイン画を描いてくる事。花の種類と実際の値段を見て、ある程度決めて来ること。そのほうが、出来もいいでしょうし、時間のロスも少ないです。」
デザイン画と聞いて、4人ともポカンとしてる。もちろん、手に花を持って、長さを調整しながら、デザインを決めるのもありだけど、それは慣れた人のやり方だ。初心者で、かつ、手本がないのであれば、絵を描いたほうが無難。
「これ、こういう風に簡単でもいいですから、花の種類と色、位置を簡単に書くだけです。」
あ!俺のデザイン帳がさらされてる。デザインはともかく、花なんかは、 ○ や ◎、▽ とか、ほぼ記号だ。まじハズイ。
「淳一君、ごめん、無断で借りちゃった」
途端、ワっと笑い声で店が埋まる。店長、わざと名前を出したろう。油断ならねぇ。
「坂崎君って生け花やってるんだ。何かアドバイス頂戴。」
「戸倉、お前な。自由にやりたいけど、アドバイスがいるって、勝手だな。まあいい。俺のわかるのは、店長の言った事+生け花の形を決める事くらいだ。」
結局、4人とも俺の形の話しを、熱心に聞いてる。お前ら、カンコ先生(本名?)に、さんざん、型を教わったはずだろうが。意識してなかったんだろうか。
*** *** *** *** *** *** ***
学祭の仕事をさぼった事で、リーダーにさんざん叱られた。たかだか、劇の大道具じゃん。もう殆ど出来上がってるし。罰として、展示の手伝いをやらされた。今年は、なんか燃えないな~。去年は、クラスでの出し物・お化け屋敷作りに熱中、1年の時は、誘われてた軽音楽部の発表にゲストで出て楽しかった。
クダクダと仕事してるフリしてる時、戸倉が、戸を勢いよく開け、俺の手をつかむと、強制連行。まさかの 女子から拉致監禁される?
「坂崎君、ごめん。坂崎先生が腹痛で急に来られなくなったって。華道部の生け花、手伝ってよ。」
ばあちゃんが腹痛?少なくても、朝は元気に卵かけごはんを平らげてたけど。
理科室で花を活け、教室に展示。その理科室には、広い机に花が乱雑におかれてた。明日からなのに、全然、出来上がってない。もう午後の4時近いぞ。
戸倉達、華道部の子には見えないだろうが、花の精霊たちが、腕組みをして、睨んでるのがわかる。花器に入れずに放置されれば、機嫌も悪くなるわな。
「おい、どうして何も出来てないんだ?」
「うん、花はね、一応そろった。でもデザインをみると結局、みんな同じ花で、同じ形になりそうだったの。で、一旦、作業を中止したとこ。ね、お願い、何かいい方法ない?」
おいおい、事前にデザインのすり合わせをしておけよ。困ったあげく、ばあちゃんの代りに泣きついて来たのか。ったく。この部は3年間何をやってきたんだ?確か、池坊は、部活で3年間、真面目にやると免状がもらえるくらいなのに。
池坊には、”花甲子園”なんて大会もあるし、今はネット花展なるコンクールも開催してる。高校生同士で競うという考えは、この4人にはなかっただろうな。4人にその事を聞いてみると、”カンコ先生から勧められたけど、ウチらノンビリやりたかったから”と、断ったそうだ。それもアリとは思うけどさ。
「仕方ねえ。少しかは手伝える。その前に、なぜ前の先生、カンコ先生はやめたんだ?うちのばあちゃんでも、わるかあないけど」
「ウチラのせいなんだよね。最後の学祭だから華やかな生け花にしたいって。先生は純和風の生け花を考えてたみたいで。。」
どうもカンコ先生の事になると、戸倉達のハギレが悪い。
池坊の華道は、草月に比べると、若干、古風な雰囲気を受ける。歴史が古いという事もある。もちろん、自由花といわれるのも多いのだけど。戸倉達はまだ習ってない(お金の関係で無理)のだろう。
デザインを見せてもらうと、花束を花瓶にさしたようなデザインに近い。1500円とうちのデルフェニウムでは、これでは無理。このデザインにあわせて花を買ったとしたら、予算はオーバーのはず。
「これだけの花なら、予算の範囲内で収まらないはずだけど」
「超過分は自己負担よ。いいじゃない、うちら、年に一度の事だし、これで終わりだし」
これは、外部講師のカンコ先生と生徒の関係が前から上手くいってなかったのかもしんない。
今更しょうがない。俺は頭を切り替えて、フル回転させた。
4人には花の中から、メインの花を選んでもらう(色違いはだめって事で)。後は、生け花の型を、割り振った。三日月形、トライアングル、オーバル、ドーム。でもやはり、足りない花は出て来た。脇役の小花とグリーンが足りない。
俺はあわてて水瀬花屋に注文の電話をした。飛鳥先輩は、優しい。仕入れ値で売ってくれるそうだ。俺は合計2000円あまりの支払いを確約。後、花が余っても返品なしだそうだ。とほほ。
あわてて作業に入る4人。花器だけは、俺が選んでおいた。後は、なるべく口を出さないようにして・・・でも見てて”ここはこうじゃない”と、うっかり強く注意しそうになるのを、我慢。ここは、俺はお花の先生で、4人はお客様兼生徒と、心の中で無理やり設定した。
2時間かかってやっと、形になった。それにしても女の子を教えるのは、難しかった。俺に、なんでも聞いてくるのも困る。逆に、あきらかにヘンなのに、”私はこれがいい”と主張されると、引き下がるしかない。
生け花とは、所詮、自分の美の感覚がものを言うんだ。また見る人も、”華やかでキラキラしてる”って褒めてくれる人もいれば、”ワビ。サビがない”と酷評する人もいるだろう。
教室に展示して終わり。やれやれと思ってると、今頃になって、ばあちゃんがやってきた。
遅いっつうの。
「はは、淳一、悪かったね。まあ、そこそこ上手く出来てるじゃないか。なんとか指導できたようだね。」
展示されてる生け花をみながら、どうしてもヘンな所は生徒と話しあいの上、手直ししてる。
わざとやったな、ばばぁ!ちょうど、俺自身の生け花のレッスンは、”指導方法の基本”の箇所。黙って、俺に実習させたな。ったく。4人に申し訳ない。俺はまだ半端もんだっつうのに。
華道部の生け花は好評で、学校のHPの部活紹介で、今年の生け花の写真を入れる事になった。来年も希望者がでるといいけど。
ネジバナの事で俺をテストした、生物教師の水戸が、うちのばあちゃんの教室に通うようになった。目指せ師範4級。免状をとったら、ばあちゃんの代わりに、水戸にスパルタ教育してやろう。ふふ。
更新が遅くなり、ご心配おかけしました。




