淳一、一人でお留守番。迷子を預かる。
淳一君、一人で留守番です。そこへ迷子らしい男の子がやってくるのですが・・・
今日は、店のウィンドーに飾る花をアレンジをまかされた俺。飛鳥先輩からは、”あまりお金をかけないように”と厳命された。6月の売り上げが悪かったからか。この頃、機嫌が悪い。
駅前の来月オープン予定のホテルで、打ち合わせ兼会議。店長は、”ロビーに飾る花”を任された。すげー!店長。顔もまあまあだし、TVとかに出たら、売れるんじゃね?
飛鳥先輩は、E市まで花の配達。生け花教室の講師が、さらにグロサリオという花を追加注文。しかも午後の教室で使うという。飛鳥先輩はあわてて花を揃え、E市に向かっている。
今日は日曜日なので、敦神父は、一日教会を回る予定で、水瀬花屋2階に居候してる悟は、今日は、教会系列の老人ホームで、ボランティアだそうだ。悟はコンビニのバイトは今日は、入ってなかったそうで。せっかくの休みが、ボランティアという労働?。敦神父に押し切られたなんて、どんだけ気が弱いんだ、あいつは。
という事で、今日は正真正銘、俺一人きり。店主になったようでうれしいような、何か面倒がおこったら対処できるかどうか不安なような。もっとも、一日は平和に終わりそうだ。
飛鳥先輩の言う通り、6月からこれまでヒマな日が多い。客がこねえ。
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ウィンドーに飾るアレンジ花は、カーネーションをグラディーションにして活けてみた。外側は白で段々、色を濃くしていく。オレンジにクリーム色、黄色、真ん中は赤で。
カーネーションは売れ筋の花だけど、さすがにお客さん不足では、賞味、ぎりぎりの花もあった。花の数も少なくした。これで飛鳥先輩は納得してくれるだろう。
やれやれ、ひと段落して、時計と見ると、もう2時半だ。先輩、昼に店に来る早々、あわただしく花を届けにいったのに、遅いな。ちょいメールしてみるか。
苦めの缶コーヒーを飲み干し、夜までの仕事を少し早めにかたそう。さっきまで中腰で作業してたので、腰がだるい。体を動かして働こう。店の外においた園芸用品も、少し手入れしておこう。ちなみに、今日も、一つも売れなかった。駐車場完備の大型店で揃えてるのだろう。
外には、白い椅子と机が置いてあり、ところどころ剥げてる。金属製だから余計目立つ。もう、売り物じゃなくなったな、これ。あと、先輩苦心の作(本当は母親が後ろで指示してるらしい)の寄せ植えの鉢に、水をやり植物の状態を確かめた。今日は一鉢売れたんだよな。
ひと段落して、ふと気配を感じ振り返ると、男の子が椅子に座っていた。
まだ十分に明るい。”幽霊は夜出る”は間違いだな。正確には”夜になると幽霊を見る事が出来る人が多い”だ。
「よう、ボーズ。どうしたんだ?」
「道に迷ったみたい。お母さんがいない。周りは暗いからはぐれちゃったのかも。怒られるかな。妹は、どこへ行ったんだろう?」
「ここは明るいから、見つけやすい処だけど、先に行って待ってるってのは?」
飛鳥先輩には、普通の人に見えるらしい幽霊も、俺には2重に見えるときもある。この子は、首に赤いヒモが巻き付いたような跡がある、そして、体が真っ黒でところどころ皮膚がはがれてる。ハッキリ見えるわけじゃない。生前の健康な姿の後ろに、その姿が見えた。
悲惨だな。首を絞められて殺され、火をつけられたのだろう。子供だ。この子は7,8歳くらいかな。俺はこの子が見えたとしても、殆どなにも出来ないのだ。こうして、天に還る事を勧めるくらいしか。こういう姿になってしまう前に、周りはなんとか出来なかったのだろうか。
「僕、一人で行くの?どこ?怖いし、お母さんと会えなくなるん。」
「まず、お母さんは、かならず来る。ちょっと時間がかかるかもしれないけどな。ボーズが先に行けば、”ミチシルベ”になるから、お母さんはもっと早く来れる。暗い道を一人で行くのが怖いだろうから、案内をつけよう、それとボディガード。」
俺は店にあった、小さな犬の置物を持ってきた。こういう小物を庭に置いて、ガーデニングを楽しむ、そして花の球根などの目印にしたりするのだそうだ。
「ほら、ワンコだよ」
男の子にあげると、それは白い小さな犬に変身、尻尾をふって動き回ってる。男の子の側をぐるぐる回ってる。
「それと道案内だけど、店の中の花で、ボーズの好きな花を一つあげる。それが連れて行ってくれる」
うそ・ほんと?みたいな顔で、ボーズは、すぐ店の中で花を見まわしてる。俺は後を追う。
入り口を開けずに通過なんて事はもちろんできない。
「僕、この花がいい。”母の日”に、花紙でつくったんだ。」
男の子が指さしたのは、今日、俺が作ったカーネーションのアレンジ花。その中の赤いカーネーション。一本くらいなら、この子にあげても構わないだろう。
子供の言葉に反応するように、花の精霊が姿をあらわした。さっき、俺がアレンジしてる時は、”売れ残ったのね、私!”と、落ち込んでいたが・・・
精霊の姿は、さっきはJKで黒髪の綺麗な子だったけど、今は、30代くらいの小太りの女性になっていた。下はジャージ、上は半そでブラウスにエプロンと、働き着スタイル。
男の子は、その精霊に抱き着き
「スミレ先生!先生、僕の妹を探してくれるのかな?」
<ええ、一緒に探しながらいきましょうね>
犬は散歩してもらえるのがうれしいように、はしゃいでる。男の子はスミレ先生と呼ぶ精霊と手をつないで、後ろをむいた。そのスミレ先生って、俺には小学校の先生というより、保母さんに見える。
「ぼーず、その先生というのは?」
「僕の幼稚園の時の先生、今は妹の星組の先生だよ。」
<ええそうなの。この子の妹がきたら、よろしくね>
スミレ先生に姿を変えた精霊は、打って変わって態度がデカイ。”この子の妹が、ここに迷ってきたら、お前がなんとすれ”と、小声で耳打ちして、そして二人と一匹は消えていった。
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「やれやれ参ったわ。花を届けたら、生け花教室のアシスタントまでやらされて。ごめん、淳一、遅くなって。店は大丈夫だった?」
「お疲れっす。E市のあの生け花の先生は要注意ですね。店のほうは何事もなく、平和でした。お客さんは、4人ほどで・・」
俺の声が小さくなる。なんかすまないというか、でも花屋で”呼び込み”ってないだろう?
「あー!割れてる。淳一、これ落とした?小さな犬の置物なんだけど。」
なるほどな。自分の器を壊して、あの子についていったんだ。
「すんません。外で整理をしてる時、うっかりひっかけちゃって。」
説明するのも、まあ、面倒だしな。
夕方になり、店長がやっともどってくると、すぐ俺のアレンジ花に、批評をくれた。
「カーネーションには、いろんな色がありますからね。それを魅せるいい見本にはなってます。出来るなら、もっと多く花を使って派手にしたい所です。それがウチの役目ですからね。」
はあ~ん? 花をたくさん使って派手に?、そんなことしたら飛鳥先輩に怒鳴られそうだけど。ふむ。
”店長、ここの花屋って......”俺なりの推測は出来たけど、怖くて確かめられなかった。
水曜日深夜(午前1時~2時)に更新します。週一のペース。基本、一話完結です。




