サンダーソニアの祈り
俺は少し困っていた。
店長から、ショウウィンドーに飾る花のアレンジを任されたのだ。今回は制限なし。自由な発想OK。店長の目にかなわなくても、そのまま飾ってもらえる。今回は自腹で花代を払い家に持ち帰り、ばあちゃんから指導という名の説教をされなくてすむんだ。
ただ飾ってる間は、自分のアレンジした花を毎日見るって事、これって結構キツいものがあるんじゃえねか?”俺のアレンジって最高。”って毎日思えるなら、俺は華道家になるのを、やめた方がいいだろうな。
今週はこの地方にしては暑かった。俺は涼しさを演出するべくブルーのアジサイをメインにしたアレンジを考えていた。なのに今日・土曜日になって急に気温が下がった。最高気温でも10度ないなんて、そんなのありか?昨日は28度もあったのにな。
「何か悩み?珍しく真面目な顔だけど」
「うるせいです。飛鳥先輩。」
店長も師匠である俺のばあちゃんにも、生け花のセンスはゼロ(むしろマイナス)と言われた先輩に、相談するわけにもいかない。
「ボサっとしてないで、仕事してよ。する事は一杯あるわよね。」
「だーかーら、俺は今、考え中なの。店長にウィンドーに飾る花を、任されたんだ。」
「じゃあ、黄色い花を使ってよ。入り口に黄色いものを置くと金運がよくなるんですって。最近、ちょっと売れ行きが停滞気味だから。」
風水ですか、先輩。悪いけど俺、信じてない。でも、黄色の花でアレンジはいい案だ。春はミモザで店中が華やかになり、通行人の目をひいたっけ。
ラフスケッチでデザインを考えた。まず、ちょっと売れ残り気味のサンダーソニアとひまわり、あと、クリーム色のガーベラ、グリーンを回りにおくと・・・
やってみると、なかなか難しい。サンダーソニアは一枝に黄色い風鈴状の小さな花を、何個も咲かせる。サンダーソニアとカスミ草だけで、十分華やかで綺麗だと思うけど、ウィンドーに飾るには小さいだろう。そこでミニヒマワリをいれたいのだけど、結局、向日葵メインになるな。
奥でデザインを煮詰めてる間、飛鳥先輩の”花束ですね。5000円のご予算でおまかせで”
その言葉で、俺はすっ飛んで行った。花束のアレンジを自由に出来るなんて、すっごいいい勉強の機会だ。
「いらっしゃいませ。で、どのような方に贈るのかよかったらお聞かせください」
「あの、今日、吹奏楽団の定期演奏会があるんですけど、ゲスト指揮者の人への花束です」
そういや、うちの高校の吹奏楽部も6月定演でチケットまわってきたな。吹奏楽って今頃、定演の処が多いんだな。まずは、薔薇にガーベラ、カラーと定番の花をもってきて、花が引き立つように、遠くからもよく見えるようにアレンジ。
手早くまとめ、飛鳥先輩にバトンタッチ。先輩はラッピングとかメッセージカードとか、その辺は、慣れてるんだよな。会計にも明るいし、何より気が利く。今もその演奏会のチラシをもらって店の入り口に貼ってる。正直、この定演への宣伝効果はないだろう。ただ、花束を注文してくれたお客さんには、この店の印象は残る。
こういう処は見習わないといけない。来年、進学するつもりの専門学校にも花のアレンジなどのほか、こういう接客や会計の科目もある。
俺はデザインもそこそこに、実際に花のアレンジにかかった。サンダーソニアは切らずに丈は高く、足元には短くした向日葵、後、適当にグリーンを入れてカスミ草を入れて。うん、今回は悪くない。白いトルコギキョウの蕾を入れたけど、最後までどの花にするか迷った末だ。
生地屋さんから無料でもらった緑のチェックのクロスを、台の上にかぶせ、その上に慎重に花器を置いて、花を整え、外に出てチェック。もう一度、手直し。
やれやれと思ったら5時だ。いつのまにか小雨が降っていて、灰色の雲に回りが無彩色に見えて来る。そろそろ出張中の店長も戻るだろう。
一息ついていると、”いらっしゃいませ”の先輩の優しく明るい声。何か注文するって雰囲気じゃないな。いろいろ世間話してるようだ。ま、店もヒマだしな。
「まぁ、リストラという名のクビ。次の仕事もなくてね。女房は子供連れて出て行った。もう小学校4年生と1年生。どっちも女の子。可愛くてね。」
「そうですか...」
男の口調に何かいやな予感がして、振り返ると案の定だった。
その男性は鼠色の作業着を着てる痩せた中年の男性だった。そして生きてる人間じゃない。幽霊って事だ。この花屋は、いつから幽霊のための店になったんだか。
(先輩、いいっすか?その男性、もうとっくに亡くなってますよ)
(え~~!)
彼女を呼んで耳打ちしたら、マジで驚かれた。本当に気づかなかったのか。あきれてると、先輩は、男性に駆け寄り、両手で男幽霊の手を握った。出来るんか?俺には幽霊は透けて見える。
「そうでしたか。あなた、もう亡くなられてるですね。どうか気を確かに持って。いつまでもここにとどまっていてはだめです。早く天国へ旅立ってくださいね」
うっわ、ど直球。悪霊の類ではないのだろうけど、怖くないのか?仕方ない。見て見ぬふりはできないし。今日に限って、神父も元神父も不在だ。家出中でここで寝泊まりしてる悟は、コンビニバイトだ。(あいつには幽霊は見えないから使えないけど)
「彼女の言う通りです。生きてる人間の世界にとどまってると、そのうち魂が消えます。」
俺は、幽霊のそばに行き、冷酷に未来を告げる。
「ええ、私は死にました。仕事が終わって、家でTVを見てる最中に急に胸が痛くなって、そのまま。気づいたら自分の倒れてる姿を見ました。過労死ってやつかもしれません。意識のあるうちに、せめて一目だけでも娘達に会いたい。そう思って探してるうち、あたりが暗闇になっていき、ここだけが光って見えました。娘達はどこにいるか知りませんか?一目でいいんです。」
知るかよ。ここは幽霊相談所でも道案内所でもないんだ。未練ってやつは本当に厄介だ。
花のアレンジが上手くいっていい気分だったんどな。黄色は幽霊よけにはならないという事がわかった。ため息をつき、話しを続けようとすると、俺のエプロンの裾を引っ張るものがいた。
やれやれ、花の精霊か。なんの用だ。
黄色のワンピを着た女の子は、サンダーソニアの精霊だ。なぜわかるかって?その姿に花がすけて見えるから一目瞭然。
<あのね、私でよかったら案内してあげる。サンダーソニアの花を彼に持たせて。少しは足元が明るくなるから>
「あのな、おっさん。俺らはあんたの娘の居場所なんかは知らない。当然だろう?あんたの事ですら何も知らないんだしな。周りが暗闇なら、それはもう会えないって事だ。この子がおっさんを案内してくれるって言ってるから、ついていくといいよ。ほらこの花を持って。」
”会えないって事”なんて断言したけど、根拠はない。少しでも可能性を残すと、それにすがってウダウダ居残るだろうから。
幽霊は、断言がきいたのか、サンダーソニアの精霊の手に引かれ、トボトボと歩いていった。かすかに光る道を見つけたようだ。
「淳一、すごいのね。神父さん顔負けじゃない。それにサンダーソニアの花言葉は”祈り”。娘達を心配する彼に似合うわ。別名、チャイニーズランタンともいうのよこの花。灯りにぴったりね」
ほーほー。それは知りませんでした。おそらくあの父親の娘を思う気持ちに、サンダーソニアの精霊が手助けしたくなったのだろう。
店長が帰って来て、俺は今日の事を報告し、アレンジ花を見てもらった。店長は何も言わず、笑ってるだけ。ううむ、目がちっとも笑ってないのは、不合格ってことなのかな。
水曜日深夜(木曜日午前1時~2時くらい)に更新します。基本一話完結。週一のペースです。
いろいろ忙しくて、更新時間が遅くなってます。申し訳ないです。




