表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/75

頑固な男の子と薔薇のラウンドブーケ

飛鳥ちゃん目線での話しです。


「飛鳥ちゃん、ドルチェに花束の配達お願いできる?」


 店長に頼まれたのは4時。淳一が来るころだろう。私がいなくても大丈夫ね。


 ドルチェはBGMにクラッシック音楽のみ流してる純喫茶で、前に花束の注文受けた事が縁で、マスターの百合香さんと私は仲良しでる。彼女は、私と同年代なのに腕の立つ料理人だった。マスターだった父親の跡を継いだ。そうそう、ドルチェでは、時々、地元のアマチュア演奏家のミニコンサートもしてるんだとか。私はなかなか行けないけどね。


「わかりました。どんな花束にしますか?」私が作るのかなとワクワクしてると、店長がすでにアレンジした花束を持ってきた。後は花瓶に入れるだけでいいように、バランスよく花が配置され、茎は固定されてる。


「まず、これはお店の飾るための花束。あとラウンドブーケを二つ。私が一つ作るから、もう一つは飛鳥ちゃんが作ってみて」


 やった!少しは店長に認められたのかしら。最初は、ミニアンレジ花でも”私の作った見本通りに”と、厳命された。淳一には、”美的センスがな”と、残念そうな顔で言われるだけ。

そんな私も、少しかは進歩したのね。


 花束で半円かほぼ球体の形をしてるのが、ラウンドブーケ。注文してくるお客さんは、ウチにはほとんどいない。店長がブライダルブーケ用で、作るくらいなもの。ただ、西欧では”花束”というと、ラウンドブーケが普通みたいだけど。


 実際に作るのは初めて。他の花束と違い、花の種類が少なくてもよさそうなので、私でも出来る...多分。


「妹さんの百合奈さんが、帰ってきたそうで、今日の夜、ドルチェで小さなコンサートコンサートを開くそう。ブーケはその時のためと思います。」


 百合香さんの双子の妹の百合奈さんは、ヨーロッパを基点に活躍するバイオリニストで、去年はリサイタルをこの街で開いた。今年は、韓国や中国を公演して回るそうな。


「で、花束なんだけど、一緒に作りながら覚えて行こうね。」


 私は、大急ぎで店長の持ってる花と同じのを揃えようとしたら、”花の種類は変えて”との事で、花を慌てて花を選びに走った。自分で選べるのって楽しい。


 店長の花は、ガーベラ(白、黄色、ピンクで、薄めの色ばかり)と、カスミソウ、赤い薔薇のスプレー咲きのもの。この花は普通の普通の薔薇より小さいので、隙間に入れるのかもしれない。


 私は、普通の薔薇とその蕾だけを各色、選んでくると、店長が申し訳なさそうに、選んだ花から2,3本とり、代わりに白の細身のチューリップを数本、加えた。同じ花をまとめればいいってわけじゃないのね。何がいけなかったのかしら。


 店長の説明では、ラウンドブーケは、花を斜めに交差させ、ワイヤーで止めながら丸く作っていくのだそうだ。


 花選びでチェックが入ったけど、花をまとめるくらいは出来る。そう思ったけれど、私は自分で考えているほど器用じゃなかったようで、かなり悪戦苦闘する羽目になった。ラウンドにならず、デコボコになったり。結局、店長に手伝ってもらうことに。トホホ。


 花と枝が円錐状になった真ん中をとめ、持ち易いように茎をまっすぐにしてとめた。花の下はグリーンを土台のように置くいいと、店長からのアドバイス。


「飛鳥ちゃんは、自然派ですね..まあ、ラウンドブーケは。店ではあまりリクエストがないので、普通の花束のアレンジをまずちゃんと覚えるほうが。いいかもしれませんね」


 気を使って言ってくれてありがとう、店長。淳一のおばあさま・私の生け花の師匠にも、”飛鳥ちゃんは自然派だね”なんて感心される。それって、褒め言葉じゃないよね、多分。


 ”いってきます”と出ようとすると、待ったがかかった。もしもの時のため、テープやワイヤーは、持ちましたけど。


「何か起こりそうな予感がするんだ。昨日の夢見も悪かったし...」

「なんですか?私の作ったブーケがバラバラになるとか?」

「...それもなくはないけど、もっと違う何か。私が呼ばれてるような、せかされてるような」


 店長にしては、口調がハッキリしない。それに夢なんか気にするんだ。迷信深いというか、ま、私も時々、変な夢みるけどね。


**** *** *** *** *** *** *** ***


 ドルチェで、まず、店用の花束を花瓶に入れる。さすが店長のアレンジ。直前に手早く処理したので、私はそのまま解いて入れ、消毒用の薬を少し入れるだけ。ブーケのほうは、コンサート終了後に百合奈さんと伴奏のピアニストさんに渡すそう。


 もう百合奈さんとピアニストさんは来ていて、練習をしてた。軽く挨拶して店を出ようとすると、男の子(8,9歳くらい?)と目があった。途端、その子にすがられた。


<お願い、僕の代わりに、パパに”助けて、ママが大変なんだ”って言ってよ。>

その子は私を見上げ、服を掴んで必死に頼んできた。


「待って待って。直接いえば..」

と言いかけた所で、気がついた。この男の子、まるきり外人で、日本語を話してる。というか私が彼の言葉がわかるんだな。その子の足元をみると薄くすけて、白い紐のようなものがのびてる。そう、この子、生きてるけど、魂が飛び出した状態なんだ。早く体に戻さないと。


「あのね、わかる?あなた、きっと病院で死にそうになってるのよ。はやく自分の体に戻らないと。ほら、花の精霊たちに送ってもらおうね」

<いやだ。母さんが父さんを呼んでるだ。僕は父さんを連れて行かないと>


 いやいや、無理だから。と説明しても聞いてくれなかった。ピアノの側で百合奈さんと打ち合わせしてるピアニストが、この子の父親らしい、他に男性はいない。店のドアには、”準備中”のふだが出てるので、当分、他の人は入ってこない。


その子は、ピアニストさんの処にいき、必死に訴えるが、まったく聞こえないし感じてないようだ。


<ねえ、どうしよう。誰も、お父さんも聞いてくれない。>

父親への説得をあきらめ、また私の処にやってきた。店長~~!確か、前に2回こんな事があって、迷ってる本人の好きな花の精霊が送っていったっけ?この子は、どうしたらいい?


 私が独りでオロオロしてると、カランっとドアベルがなって、店長が店の中へ入って来た。

ああよかった。


「ありがとうございます。水瀬花屋です。不備がないかどうか確認しにきました。百合奈さんこんにちは、お久しぶりですね。こちらは伴奏の方ですね。初めまして。もしかしてヨーロッパの方ですか?今はいろいろと大変な時のようですね。昨夜もパリでは地下鉄でテロがあったそうですよ」

 

 店長、この子、なんとかしてほしいんだけど。テロいえば、私は昼のニュースとか見そびれたのを思い出し、スマホでニュースサイトを見てみた。


 本当だ。パリでテロがあったんだ。ええと死亡者は5名、負傷者は40名ほど。まだ、負傷者は増えそうだ、というような記事だった。


 ピアニストさんは、店長の言葉を聞いて、慌ててスマホで確認、すぐに電話をかけ、何事かを、せわしなく話してる、そのうちその顔が真っ青になり、すぐ百合奈ちゃんに何事かを話して、”じゃ、すぐ航空券の手配をしないと”と、大騒ぎになった。


 それから店長は、その男の子を見て、小声で話しかけた。


「君は早く自分の体に戻りなさい。花の精霊に守ってもらうから大丈夫。君の父上は。上手く乗り継ぎできれば、3日以内にそっちにもどれるから。約束する」


 精霊が数人、男の子を囲むように立ち、店長は何かブツブツ唱えてる。日本語じゃないからわからないけど。その呪文(?)が終わるとすぐ、男の子はどこかに吸い込まれるようにして、消えた。戻ったんだ。多分。

*** *** *** *** *** *** ***


 後日、ドルチェの百合香さんが、店によってくれた。


「伴奏者のロベールさんは、領事館や大使館に問い合わせたところ、奥さんと息子さんが怪我をして病院に運ばていたのだそうです。息子さんのほうは頭を打ったのか、最初、意識がなかったそうで。」

 

 ああ、その時に飛んできたのね。あの頑固な男の子は。店長の力ってすごいんだわ。元神父だけある?


「彼はフランスに、即、帰りました。なんでも、父親に会えた息子さんは、”あのおじさん、約束守ってくれたんだ”なんて言っていたそうですが。なんの夢をみてたんでしょうかね」


 店長もあの子にかかれば、”おじさん”か。まあしょうがないんだろうけどね。あの子と会う事は一生ないだろうなあ。






 

水曜日深夜(木曜日午前1時ごろ)更新します。基本、一話完結。週一ペースの更新です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ