飛鳥と悟君と桜の花
確定申告の書類作成も終わり、後は店長に税務署に持って行くだけ。なるべく粘って、経費を認めさせてほしい。(実はちょっと無理めなものもある。店内を飾る置物とか)
私、飛鳥はよくやった。赤字寸前の花屋を、少しでも純利益がふえたと見せるため、経費でとせるものは、なんでも入れた。もちろん、今年度は収入も増えたけれど、支出も増えてるので、純利益は、昨年度より少しふえた程度。
さて、新しいバイトの子が来たそうだ。ただ午前の10時あがりなので、私は会えないか。と少し残念な気持ちで出勤してくると、まだ彼は店にいた。
瞬間、私の頭によぎったのは、超過分2時間1700円支出増ね・・・という事。我ながら、お金にうるさいというか、別に守銭奴ではない。私はこの店が大好きで、なんとか役に立ちたいのだけれど、午前中は無理だし、花のアレンジはヘタだし。一応、お花の先生(塚田さん、淳一君のおばあちゃん)に通ってはいる。時々ため息をつかれてる。
「こんにちは。津崎 悟君、お疲れさま。今日は超過勤務ですね。」
私は笑顔で、エプロンをつけるとさっそく仕事にとりかかろうとした。
「いえ、今日は自主的に...僕は花の事は、あまり知らないので、いろいろと教えて...欲しいと思って。ヒマな時にでも」
津崎 悟君か。なにか最初に会った時より、真面目そうだけど。前髪がメガネにかかって、少し印象が暗いかしら。客にだけは愛想のいい淳一と足して二で割ってちょうどいい。
店長は、12時すぎから1時間ほど休むので、その間、私はお客さんの対応をしつつ、手が空いたときに、切り花・鉢の手入れの仕方を悟君に教えて行った。ちなみに、今日、入荷の花鉢の育て方や注意点は店長に確認がいるので、後まわし。
切り花の仕入れは明日なので、今日は少し楽だ。私は売れ残ってるアレンジ花、400円(税抜き)のブーケを、調べていく。せっかく作ったブーケを崩す私をみて、悟君が、不思議そうにしてる。
「ああ、これね。持ちそうなものは切戻し、もう持ちそうもないものは、除去していくの。で、大丈夫なのをあわせて、またアレンジ。後、除去した分は、ミニブーケのアレンジ見本で展示しておくんです」
「飛鳥先輩、その”持ちそうもないもの”は、どう見分けるのですか?」
「ああそれは、直感ね」
ごめん悟君。こればかりは、私の特技のようなのよね。花を仕入れるうちに日数と花の状態で大体はわかるりょうになるからと、励まし作業を続ける。月曜日に作ったものなので、さすがに花も元気がない。売れ残り って事に自信を失ってる精霊も多い。私はミニブーケの子たちを励まし、仕事を続ける。花の水替えがまだというのでので、悟君に教えながら水替えしていった。
桜の枝木を入れてあるバケットに手をかけると、花が満開になっていた。ああ、咲いちゃったのね。私は見る分には綺麗で嬉しいけど、売り物としては...と考えてしまう。
<僕は、取り残されてしまいました。何のお役にも立てずに天に戻るのは、とても悲しいです>
その桜の精霊は、そう言ってうつむいてションぼりしてる。中学生くらいのその精霊、白いシャツの下はピンクのTシャツ。うっすらと桜色になってる。
<元気だしてね。今、窓の処に置いてあげる。きっと見る人は喜ぶわね。3月末だけど、まだ雪が多いし、白の風景にウンザリしてる人もいると思うの。だから満開のところを見せて、元気づけてあげて。後少しで春がくるってね。>
桜の精霊は、少し涙ぐんで恥ずかしそうに笑って、消えていった。
約束通り、私は満開の桜を窓の下のディスプレイの場所に置き、仕事の続きをしようとすると、悟君が、おずおずと質問してきた。
「あの、今のは桜の精霊っていうのですか?」
「ええ、そうよ。悟君、みえる体質なのね。」
「精霊と人間の見分け方のコツとか、精霊の花の種類とかどうやってわかるんでしょうか?」
真剣な顔で尋ねてきたので、つい可愛くなった。見分け方も何も、私も最初はわからなくてさんざん淳一に笑われたからね。と失敗談を彼に教えてあげた。”視える”バイト君で、私と同じで見分けがつかない。ふふふ。今度は馬鹿にされずにすむわ。
”見分けかたは、周りの状況と雰囲気。あとは直感よ”と教えたら、”直感って..."と悟君、ガックリきていた。
人に買われていく事もなく、売り時期を逃してしまう。そういう花がでるのは、仕方のない事。精霊たちも残念がって天にもどっていく。まあ、私は、また会う日までと元気づけるけど。
悟君は、せっせと水替えの仕事をしてる。真面目な人のようだけど、一人前になるにはまだ時間がかかるかも。なにせ花の名前は、最初は 薔薇とチューリップしか知らなかったと、いってたくらいだ。
花の精霊の見分け方は、実は私も詳しく教えてほしい。時々、自信がないときもあるし。
そこを淳一に笑われるのが、癪に障るのよね。
水曜日深夜(木曜日午前時だい)に更新。基本、一話完結です




