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津崎 悟 の暗い青春

今回はこれから花屋で働く新人のバイト、津崎悟君目線です。

「申し訳ない。市場開始が7時なので、6時半には来てほしい。それと、4月から夏時間になって、開始が6時半のになるのを忘れてました。」


 朝から母の愚痴を聞かずにすむし、少しでもお金が入る。それで水瀬花屋店のバイトのチラシを見て、飛びついた僕だ。”じゃあ、明日からよろしくお願いします”と言った直後、店長のこのセリフだった。


”しまった、うっかりしてた。やっぱり疲れがたまってるせいかな”と彼は頭かいてる。勤務時間は、本当にウッカリしてたのだろうけど。なにか頼りないというか、大丈夫だろうか、この店。


「仕事の最初は、花市場は卸売市場の北側の一角にあるけど。ええと、津崎君の家の近くかもしれない。見てみてくれる?どうかな。」


 一応、僕はその”花の卸売市場”の場所をスマホで確認する。よく行くコンビニがすぐそばにあった。


「ウチからは歩いて15分ほどです。」

「ああよかった。じゃあ、これからは、直接市場へ来てください。4月からは30分、早く始まりますけど、大丈夫ですか?あと、車は三条教会に置かせてもらえるよう、話しはついてますので。」


 つまりは直接、自分の車で市場に行って仕入れだかを手伝い、そのまま出勤、三条教会の前に駐車。そういう事ですよね。と店長さんに確認しようとしたら、もう目の前にいなかった。

お客さんがきていて、何やら大きな花束を作っていた。バイトの飛鳥さんという女性は、冷蔵室から花を取り出したり、切ったりとそれなりに忙しそう。


 明日、木曜日の7時までに市場に行けばいいんだろうし。若干の不安もあるけど。

** *** *** *** *** *** *** ***


 僕、津崎 悟は、19歳。今はフリーターという身分で、コンビニでバイトをしてる。卒業したら美術系の専門学校に進みたかった。イラストレーターになりたかったから。でも、親の許しが出ず、”就職するか普通の大学へ行くか”と、父親から限定された。


 結局、親のいうところの”普通の大学進学”の道を選んだ。プロのイラストレーターになるのは、父はとりあってもくれない。それでもあきらめきれずに、高校の美術部の顧問に相談すると”プロとして自立出来てるのは一握りに過ぎない”という現実を聞かされた。”一人で絵を描くだけで満足するのもいいだろう”と、自分に言い聞かせて諦めた。


 文学部を受験、見事に落ちた。予備校には行けなかった。家に戻り、コンビニで働きながら受験勉強できると思ったけど、働くうちに、大学へ行く気が失せた。何か大学なんて、どうでもよくなったんだ。


 そんな僕を、”覇気がない””お前には目標がない”だの、父は説教してくる。母は、”せめて正社員になるか、公務員試験を受けるか”と、遠慮がちだけど、ネチネチ言ってくる。


 ”僕の人生の目標って何?僕は何?”遅れてやってきた中2病にかかったのかもしれない。頭の中がいろんな考えでぐちゃぐちゃしてる。家での居場所がない。両親の言葉がウザイくて限界だった。


 コンビニの労働時間には、制限がある。会社の方針だか、労働基準法だとか。だから自立して生活できるほどの収入はなく、親に頼ってる状態だった。

 僕は、働いているコンビニと交渉し、シフトを調整してもらった。正直、あまりいい顔はされなかったけど、水曜日、土、日と、花屋のバイトは休みなので、なんとかお願いできた。


 こんな面倒な事情は、もちろん店長には話してない(コンビニバイトの事だけは話した)。店長もそれ以上は、聞いてこなかっし、ホっとした。

*** *** *** *** *** *** ***


花屋バイト初日。僕は市場へと車で出かけたけど、朝早いせいか食欲がなく、食べられかったのだけど、結果的にそれが災いした。


 市場は活気にあふれ、僕は店長を探して中を歩き回った。花屋という一見、女の子っぽい仕事も実際は、男性が殆ど。力仕事でダンボール、台車、カートが行きかってる。力仕事の現場だった。


「津崎君、おはよう。迷わず来れたね。今日は”鉢物の日”だから。よろしくね」

しまった。先に挨拶された。コンビニでも俺はこういう処、注意されたんだっけ。

「すみません。おはようございます。何もわかりませんから、指示、よろしくお願いします」

「そうだね。覚える事は山ほどあるけど、とりあえず、今日は私の後にくっついてきて」


 よかった。フランクな上司で。


 鉢植えを見て回りながら、値段の交渉をする。そう多くは仕入れないそうだけれど、”アザレア”という花の鉢を、多く買っていた。”蘭の鉢を3種類ほど。あと、サイネリアという花も。


 僕はなんとか名前だけは覚えようと、スマホにメモってたけど、後ろで台車を押しつつ、市場をまわってるうちに、余裕がなくなり出来なくなった。


 帰り際に、ここの偉い人のような、年配の人にひきあわされ、頭を下げた。その人は、僕のほうをじっと見ると”ううむ、力仕事向きの体型じゃないけど、何かセンスはよさそうだな”なんて店長にニカっと笑って言うと、事務室のような所に戻っていった。


 それから車に花鉢を積み店前で下す。僕は腰が痛くなったし、お腹がすいたせいかクラクラする。夏だったら完全に倒れてた。

*** *** *** *** *** ***


 それがひと段落した時、店長から”一休みするから”といわれ、ホっとした。そばの椅子にすわってクタってると、暖かいコーヒーが差し出された。


「今日は、ちゃんと朝食を食べてきたかい?少し顔色が悪いから倒れるまえに休む事。3分くらいならバイト代へらさないから」


 3分か。それでもありがたい。明日はちゃんと食べてこよう。コーヒーを飲み終え、奥にある休憩所へカップを戻しに行こうとうると、作業着の裾を引っ張られた。え?っと振り返ると、5歳くらいの女の子が、俺をジっと見て窓を指さしてる。オカッパ頭のかわいい子だけど、白の半そでワンピース姿だった。寒くないのだろうか、っていうか、店長って子持ちだったんだ。


「店長、お子さんが何か用があるみたいですよ」


「津崎 悟君、私は独身です。子供はいませんよ。」

「え、じゃこの5歳くらいの女の子は?」と指さす。

「白い半そでのワンピースで、おかっぱ頭だね」


 僕は”ええそうですけど”と答えると、店長は、”それは花の精霊だよ、チューリップの花でも咲いたのかも”と、女の子の頭を撫でながら、窓のブラインドを開けた。確かに、前に来たときは、緑の硬い蕾だったものが、一輪だけ、咲いてる。はは、同じ色だからといって、精霊なんてないない、と僕は全否定したけど、女の子はいつの間にか消えていた。


「はやく陽の光を浴びたかったんで、せがんだんだろう。悟君も見える体質なんだね。精霊は別に害はないけれど、普通の人には見えないから。そこんとこ気を付けて。周りから”危ない人”認定されるから。」


 店長、僕はもっと早くここで働くべきでした。もういろいろと、やらかしちゃってます。


 前にコンビニの深夜勤務で、”今日は綺麗な女性が多いですね”と言って不信がられた。

”お供え用の仏花の水を取り替えて下さい” という客と話しをして、同僚の女性店員におもいきり引かれた。僕は、”嫌われ避けられてる体質なんだ”と思ったほど。


 今、やっとその理由がわかりました。



 


 


 

水曜日深夜(木曜日午前1時ごろ)更新します。週一のペースです。基本、一話完結

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