新しくバイトを入れる?
”短時間のバイトを雇おうと思うんだ”
そう店長の言葉に”バイトに応募してくる人いるかな”口の先に出かかって、あわててとめた。
なにせ、ここは閑古鳥が生息する商店街の中の、小さな花屋で大口の顧客がいるわけでもない。
短時間とはいえ、財政的にきつい。バイトをするほうからは、朝の短時間バイトは、嫌がられるかもしれない。
私は、昨日の売れ残りのアレンジ花をほぐし手入れし詳細を尋ねた。
「短時間って、どの時間帯ですか?夕方は淳一君がいますし、朝は敦神父さんと店長でなんとかなってると思いますが,,,」
「飛鳥ちゃん、その敦兄さんなんだけど、本業の神父業のほうが忙しくて、もう限界。本人手伝う気満々だけど、4月は休みなしだと、言っていた。飛鳥ちゃんも気がつかなかった?最近、兄さん、顔色が悪くて食欲が落ちてるの。」
そうなのだ。なんだか不眠が続いたそうだ。桃の花も、そんな敦神父のために、店長は大振りの枝を買って来て飾ったのだ。効果はあったようだし、桃の花の香りで、私も余計に元気が出た。淳一が見たという桃の花の精霊は、すっごい美人なそうな。私も会いたかった。
”胸もバーンで大人の色香満載。俺が見た精霊の中では一番だな。”なんてニヤニヤして言ってた。年上好みなんだ。その桃の花も終わり、今は蕾のチューリップを飾ってる。
窓越しに見えるのは、緑一色の蕾と葉、黄緑の茎だけ。
蕾だけ飾ったのは、私の目論見。成功するといいのだけど。おっと、
「桃の花のおかげで、私も少し元気をもらいました。これから仕入れは、切り花を週に2回にしようと思う。これまで少量入荷即販売でやってたけど。人手がいるのは、その後の仕分けのほう。葉の処理や水切り、選別と、作業が山ほどある。確かに敦兄さんにも手伝ってもらって助かったけど、兄さんも泊りがけで会議が増えてきた。実際、私も一人でこなすのはキツくなってきたし。」
知らなかった。店長は、バイトの私や淳一に言う前に自分で動く人。午前中は忙しいって淳一から聞いていたけど、店長がギブアップするくらいだ。相当きついのだろう。
店の売り上げも徐々に伸びてきてるのも、仕事のハードさに拍車をかけてるかも。少し固定客が増えてきた。お花の先生からはもちろん。飲食店などの店におくアレンジ花やブライダル用の花。ブライダル用の花は、店長の時間がとられる。アレンジ代が取れるので収益はあがるのだけど。私が午前中は、殆ど寝てる。12時出勤でギリギリ。むしろ朝の3時のほうが起きいられる。母が言うには、この夜行性の体質は遺伝によるのだそうだ。
「すいません店長にばかり負担かけて。私が午前中、使い物にならないばかりに。夜で出来る仕事は、まわして下さい。」
「気にしないで、飛鳥ちゃん。君には十分、会計のほうで働いてもらってるし。午前中だけ、バイトに助けてもらおうと思ってます。時間は3時間。時給850円交通費支給、水、土、日休み。午前7時から10時まで。仕分けのほうを手伝ってもらいます。あと、下処理と。12時から飛鳥ちゃんがきてくれるので、その時間から私は休憩がとれます」
本当に私がこの店にバイトになるまで、一人でやっていた店長。すごい。今の売り上げは1,5倍に増えてるから(前年比)、それまでは一人でなんとかまわしていけたのかもしれない。
私は、店長にバイト募集の細かい条件を確認して、募集の張り紙を作るべくPCに向かった。バイトには、子育てを終えたような専業主婦層の人なら、なんとか応募しれくれるかも。朝の3時間は、主婦は忙しいかな。一日2550円(交通費別)で、来てくれればいいけど。
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その男子が入ってきた時、瞬間、”あれ?”と小さくつぶやいた。
「いらっしゃいませ。」と私が立ち上がると、彼は、店のフロントガラスの”バイト募集”の張り紙を指さして、”あの~短時間のバイト。まだ募集してますか?”ときた。
まじ?なんか、高校生に見えるんだけど、大丈夫かな。
”はい、まだ募集中です。店長~”と、後をまかせた。
何やら、いろいろ話してるようだけど、なんなんだろう~。ううん、聴きたい。あの年で3時間の安いバイトって、何かわけありそう。
話しも終わったようで、店長に軽くお辞儀してる。そして彼は店を出て行こうとして、私に聞いて来た。
「あの、さっき店に入った時、もっと人がいたきがしたんっすけど...俺の気のせい..ですね」
むむ、少くなくても敦神父より”見える”んだ。ちょうどその時は、私はいろんな花の精霊から、”窓のディスプレィで飾ってくれ”と談判を受けてた。3月も中運になると、日の光をもっとあびたいのか、日当たりのいい窓の処が特等席に見えるらしい。実際は夕方に急に寒くなる事があって、油断大敵な場所なんだけどね。
細身で髪の毛がボサボサのその男子、(いやもう青年かな)少し猫背気味で店を出て商店街をフラフラ歩いて行った。
「ほら、飛鳥ちゃん。美青年だからといって、がん見しない。彼は、津崎 悟 君。この間、高校を卒業したばかり。就職はまあ、今の処、フリーターのようだよ」
店長に笑われてしまった。顔がすこし赤くなるのが自分でわかる。
「そうそう、彼、少し見えるみたいだね。花の精霊。」
店長の採用基準は、そこだったのか。ある面、すごく厳しいような気がするけど。
水曜日深夜(木曜日午前1時ごろ)更新。基本、一話完結。週一のペースです




