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西王母の桃の花

 今日は店長について、市場の切り花の買い付けに同行。


 俺は冬休みからたまに、こうして仕入れの仕事を勉強してる。朝早くの仕事はつらいが、少し考えてる事があるので。仕事は殆ど、荷物持ち専門だったけど。


 帰ってすぐ、店のお客さんからの注文の花をわけ、すぐに配達に出かけてる。


 今、俺は、花を水切りし、バケツに入れる作業をしてる。余分な葉も落とす。とにかく一人だと忙しい。敦神父は会議だとかで、昨日から留守だ。飛鳥先輩はあと1時間もしたら来るだろうか。


 作業する目の前を、何か茶色のまるいものが横切った。幻覚?俺、もう限界か。寝る訳にはいかないので、一旦作業の手をとめ、コーヒーをがぶ飲みした。水で冷えた体が、少し温まる。気分がかわったところで、フっと顔をあげると、目の前に猿がいた。猿は俺のエプロンにぶらさがって、ブラブラしてる。大きさは、手のひらに載るほど。縫いぐるみのよう。


 頭の中が真っ白。猿の生きてる縫いぐるみ?と固まってしまった。


<これこれ、あまりオイタするでない。>


 女性の優し気な声が聞こえたと同時に、甘い香りが俺のまわりを包んだ。振り返ると、髪を高く結い上げた昔の中国の貴婦人風の女性が、ゆったりと歩いて来た。花の精霊だろう。今日、仕入れた花か?


<わらわを、見えるものがおるとは、なんと稀な事よ。そこの若者。わらわの猿が世話をかけもうした。>

<ああ、いえあの、ビックリしただけで。あのもしかして、桃の精霊さんですか?>


 独特の香りは、覚えがあった。それと彼女のその優雅な物腰に俺は圧倒された。楊貴妃ってこんな感じだったのかな。桃の枝をよく見ると、丸い蕾が多くついていた。店長が市場で買うのを見て、俺はちょっと高めの値段に、首をかしげたのだったけど。飛鳥ちゃんには悪いけど、こんな優雅な美女が精霊なら、俺は大歓迎。


<そなたに、お尋ねもうす。わらわは、わらわを買うてくれた者の想いをしかと確かめたいのじゃ。所詮、限りある身。悔いのないよう心をつくしたい。>


 店長に、何か考えがあったのはわかった。買った桃の枝の中に、一際、枝が広がった大きなものがあった。値段は2000円だったかな。”これは、窓のところに飾るから”と店長は言っていたけど、ウチの店で飾るだけにしては高価すぎるきがする。


 桃の精霊は、作業台のイスに優雅に座ると、ペット(?)の猿を、遊ばせている。輝くオーラで、他の花が肩身を狭くしてるのを感じた。

*** *** *** *** *** *** ***


「ごめんね淳一君、飛鳥ちゃんが来しだい、今日はあがっていいよ。おや、桃の精霊さん、早々にお出ましですね。さっそく花瓶にいれ窓の処へ飾りましょう」


 店長はテキパキと桃の枝をさばき、邪魔になる小さ枝は切り一輪挿しにした。後でアレンジ花に使えそうだ。


<窓際なので、夜は移動します。陽の光を浴びたほうが気持ちいいでしょう?兄が忙しくて最近、疲れ気味なんですよ。あなたの花の力で、少しかでも癒してあげてくれませんか?どうぞよろしくお願いします。>


<しかと、承りました。かならずやお気持ちに答えましょうぞ>


 桃の精霊は、微笑みながら消えて行った。


「店長~!俺、びっくりしました。美人で優雅で圧倒されましたよ。桃の精霊って、初めてみました。楊貴妃のようですね。」

「まあ、ちょっと値段が高いかなと思ったけど、いい厄除けになるし、兄がこのところ、不眠気味なんですよ。精神的なストレスが溜まってるみたいでね。そのための花です。売り物にはしません。飛鳥ちゃんに何か言われたら、お金は払いますよ。それで兄が安眠できるなら安いものですからね」


 俺は聞きなれない事を、たくさん聞いた。まず、元神父の店長の”厄除け”発言。それに敦神父が、あの頭が年中春のような神父が、ストレスで不眠。信じられないけど、飛鳥先輩がきたら、そこのところを、店長のために援護射撃しておこう。


*** *** *** *** *** ***


 次に日の夕方、敦神父は、確かに顔色が悪かった。俺は、桃の精霊の事を話すと、あいかわらず、ノンビリとした口調で、

「桃といえば中国の神話で、西王母の桃とその桃を守る猿が有名ですね。ああそういえば、昨日は少し眠れました。桃の香りのおかげでしょうかね」


 次の日、桃は満開になった。人を惹きつける花なのか、商店街を通る人は、外から桃の花を眺めて行った。”買いたい”というお客さんもいたが、ディスプレイ用ですのでと、店長は断ってた。飛鳥先輩、渋い顔をしてたけど、敦神父の体調の回復を助けるためということで、店長は卸値の半額の半額の支払いで済む事になった。




更新は水曜日深夜(木曜日午前1時ごろ) 週一のペース。基本、一話完結です

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