正月休み中の4人
今回は、正月休みの4人の話しです。
<淳一の場合>
やれやれ、バイトと軽く考えてたけど、年末は31日まで出勤。1月は3日から働くことになってしまった。ひでえよな。”高校生バイトで過労死”なんてニュースになったりして。
俺は二日間の休みを利用して、札幌に出てきた。ばあちゃんが札幌で開かれるクラス会に出るというので、一緒について来た。さすが都会。元旦でも営業してる花屋もある。おっと、今日は、仕事のことは忘れよう。っていうか、俺、高校2年生だから、まだ。
考え方がリーマンぽくなってるし。
元日の大通り地下鉄駅はそれなりに混んでいた。人込みの中を縫うように歩いていたら、突然、女性に抱きつかれた。”助けて”って。リアな女性なら危ない事に巻き込まれる可能性大だけど、女性は赤いワンピースのカーネーションの精霊。前方を見ると、ちょっと目がいっちゃってる女性がiいた。カーネーションの花束を歩いてる人に差し出して、売りつけてる。
花屋の営業じゃない。一本1000円のカーネーションなんて、ボリすぎもいいとこ。これは、新興宗教の勧誘と資金稼ぎかだ。誰もがそのことをわかってるらしく、花売りの女性を避けて歩いてる。
俺にも、花を差し出したので、まず根本を確認。水が不足しているようだ。水に浸したティッシュをまくだけでは、長時間は持たない。残りは3本。俺は女性に花の扱いに説教して、値段にクレームを入れ、3本1500円で買った。花売りの女性は、適正価格からどれだけ自分が高く売ってるのか、知らなかったようで、”まさか”って顔をしてる。騙されてんだよ、あんた。
というわけで、俺の小遣いは減り、札幌のチカホをテレテレ歩くだけで終わった。もちろん、3本のカーネーションは、ホテルに帰って水切りをしてやった。
ばあちゃんに、”淳一、この花はどうしたんだい”って、聞かれくわしく説明した。ばあちゃんは、”淳一は、花がやっぱり好きなんだね”のオーラだしまくり。無言で抵抗した。
俺は、花屋という職業病かも。くそ..
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<飛鳥の場合>
年末忙しくて、入荷あとの水切りや展示、接客で目がまわるほど忙しかった。残業当たり前(残業代なし)ほんとに”ブラック花屋”だ。
元旦はず~っと起きていて、デジカメ(一眼レフ)でとった写真を整理してた。そこそこに撮れてる写真があったので、思いついた。
花屋店員ブログ を作ろう。
思い立ったら、即、実行しないときがすまない性格の私。ブログを某サイトで開き、写真をアップした。店の宣伝をかねたいところだけど、そこは、店長の許しがないと無理なので、店名はカットしてる。
アップした写真の中で一番、キレイにみえたのは、店長が作ったブライダルブーケだった。何組かつくったうちの一つ。豪華ではないけれど、白とピンクのマーガレットカスミソウの値段的には安いものだった。このブーケは、できるだけ低予算でっていう要望で作ったはず。
店長は、安い花でも、たくみな組み合わせで豪華に魅せる。
決めた。私の今年の目標は、”店長の 花アレンジ力 に追いつけ”だ。
淳一には内緒だ。知られると、大笑いされたあげく、”花が無駄になる”とつっこまれるから。
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<店長の場合>
私は帳簿をみながら、ため息をついた。クリスマスリースが好評で、講師として呼ばれたりした。その講師代は、店の会計に入れず、自分の収入にあてた。これでなんとか息がつけた。
今年の一番の失敗は、坂崎先生の注文の花、バンクシアを外に持ち出したことだろう。
結局、飛鳥ちゃんにフォローしてもらったおかげで、その場はおさまったけど。
だいたい兄さんのせいだ。”迫力があって力のありそうな花”としつこく言ってきて、つい、選んでしまった。あのときの出費は痛かった。自営してるとはいえ、飛鳥ちゃんがきてからは、彼女に店の経理も半分以上はまかせてる。おかげで、店はギリギリの運営から少し黒字になったけど、そのぶん、私の給料は、少なくなった。(自分の店とはいえ、店の花を持ち出す場合は、原価を払う仕組みに飛鳥ちゃんがした。おかげで我が家の家計ほうは、貧乏になった。)
正月といえど、店内の花の世話は休めない。店のシャッターを半分だけあけて、作業をしてると、お客さんが、結構いた。結局、年中無休のようなものだな。
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<敦神父の場合>
今年は波乱の年だった。急になくなられた司祭のかわりに、私が臨時で派遣されたのだけど、受け持ちの教会間の距離が長すぎ。北海道だから仕方のないことだけど。本当は私はスーダン行きの申請中だった。もちろん、許可なんか下りなかった。
”南スーダンに行くつもり”と私が弟の亘に打ち明けると、一言”アホか”と言われ、修道会の規則のうちの”従順”が守れてない。 と厳しく糾弾された。修道会が上をとおして、私をここに派遣したのだから、途中で放りだすのは確かに従順でないか。
4月に人事異動がある。”南スーダン、妥協してもアフリか行き”の許可が出ないのなら、このまま、水瀬花屋で暮らす事になるかもしれない。いやちょっとまて、亘は、還俗願いをだしてるけど認められてない。しつこく上層部から”復帰するように”と、説得されてるはずだ。亘はまだ独身だ。もし誰かと結婚なんて事になると、なし崩し的に還俗完了だ。
でも、そうしたら私はお邪魔虫にあなるなあ。ここは居心地がいいんだけど。
飛鳥ちゃんって、不思議な子だ。ただ視える能力があるだけじゃない、何か別の気配が、彼女からただよってる。亘もその事にきがついてるだろう。一度、亘にその事を聞いた事があった”だからなんだ”と、不機嫌な声が帰って来た。
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