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悪魔祓いのその後

今回は、淳一目線の話しです。

俺は店に帰ってきた3人から話しを聞いて、キレかけた。

自覚のない、いろんな意味で天然の飛鳥先輩を、悪魔祓いだかに巻き込んだからだ。店長と敦神父の二人だけでやった、と思ってた。


「店長、敦神父、悪霊払いでも浄めの儀式でもどうでもいいけど、なんで飛鳥先輩を巻き込んだんっすか?天然で自覚のない分、危険な目にあうかもしれなかったっすよ」


「いえ、車に乗って待っているよう、厳命したつもりだったんですが...」


 店長が、心底、反省してますって顔だけど、少し隠し事があるような含みのある答えだ。はあん?全部、ゲロってないな。敦神父は、”これから会議があります。クリスマスも近いので、各、教会との打ち合わせです”なんて支度しだして、さっそく逃げの姿勢も入った。


「敦神父さん、あの空き地で何が起こったのか、詳しく教えてくれませんか?あそこは、俺も前から気になっていた所なんだ。すぐ近くの橋から、殺人者が被害者の女子高生の遺体を、川に捨てたという事があった。もう2年くらい前か。その時からいやな気があそこに集まり始めてたからな。」


 俺のこの話しは敦神父には初耳だったらしく、”そうだったんですか、だから”なんて言葉を濁した。


「殺された女子高生の怨念でも渦巻いてたんですかね」

そういいつつも、俺はそれはおそらくないだろうと思ってる。殺された所は別の処だしな。


「そうなんだ。でも、それらしい霊はいなかったよ。あの空き地にはね、黒いモヤのような霧のようなものが渦巻いてて、それをその場に拡散させないので二人は忙しかったようだし。そうそう、その黒いモヤから地面を這う黒い蛇が出て来たのには、びっくりした。でもね、大丈夫だったのよ。蛇の根元というか頭のような部分を、大きな足が抑えてくれてたみたい。私と胡蝶蘭の精霊は、抑えてくれた蛇を踏むだけだったから。白百合の花の精霊って、大きいのね。両足首しか見えなかった。」


 飛鳥先輩の話しは、店長と敦神父には、初耳だったらしく、目を見ひらいて ”え?まじ”と固まってる。そういう事だ。そんな大きな百合の精霊はいない。


「飛鳥先輩。ちゃんと調べましたっすか?”尊きお方”が誰だったか。大きな足首は、その人。教会にも像があるよな。敦神父さん。彼女に正しい知識を教えるのも神父さんの勤めだよな」


 ”私はまた助けられたのにお姿を拝見できなかった”とぶつぶつ言いながら

「イエス・キリストの母は、マリア様で、教会には白百合を手に持ち、足で蛇を踏む像があります。この場合、蛇は悪の象徴ですけどね。」


「加えるなら、あの黒いものは、純粋な悪意のかたまりです。外に出て人の心に入り込むといわれてます。それより、胡蝶蘭の精霊も蛇を踏んでましたね」


 ちょっと待て、それはうちでおいてある中で一番高い胡蝶蘭か?鉢ごと持っていったのか?あれ15,000円だぞ。飛鳥ちゃんじゃないけど、聞きづてならない。寒空の屋外に1時間以上放置したのか?


「店長、それまずいんじゃないんですか?1時間といえ、外に出しておくのは。夕方はもう氷点下近かったじゃないですか。その鉢、大丈夫っすか?」


 俺は、件の胡蝶蘭をみると、セロファンがかかっていて動かした気配がない。かわりに1万円の胡蝶蘭が、元気がない。凍るまではいかないけど、もう先端の花が2つほど枯れてる。昨日は満開だったはずだ。


「そうなのよ。胡蝶蘭の精霊がね”空気を清浄にするのは役目ですから”って、はりきてったけど、やっぱり寒さがよくなかったのね。花の代金は敦神父さんが”責任を持つ”そうだから。大丈夫。

それより、バンクシアが問題なのよ。今回、大活躍してくれたけど、この花って坂崎先生が注文された花でしょ?どうするんだろう。店長。精霊のいない花って、先生にはバレそう」


 なに!ばばぁが注文した花を、”浄めの儀式”だかに使っただと?それはまずい。田舎の師匠でもばばぁは、花に関しちゃ鋭いんだ。知らねえぞ。今日、取りに来るって、さっき電話がきてたな。俺はバンクシアをとりだしジックリ見た。だめだな、生気がないようなのは、一目でわかる。万が一、ばばぁが気がつかなくても、日持ちしねぞ、これ。


 俺は”怒れるばばぁ対策”を考えてるところ、本人がさっそく戸をあけて、入って来た。


「水瀬店長さん、こんにちは。注文したバンクシア、ピンクッション、カンガルーポー、入ってますでしょうか」


 店長の慌てた顔を見たのは、これが最初で最後かもしれない。店長は花を揃えたものの、渡すのを躊躇ってる。その花束の中のバンクシアを見たばばぁは、途端に厳しい顔になって、店長に詰め寄った。


「他の二つの花は申し分ないのですが、このバンクシアはどうしたんですか?店長らしくないですよ。配送途中に何か事故でもありましたか?それに花に生気が感じられません。これは、明後日のいけばな展には、出せないです。第一、もたないんじゃないですか?」


 ばばぁの処の門下生と合同で、明後日から1週間、生け花の個展を開く予定なのだった。どうも、熱帯の花に興味を持ったらしく、わざわざカタログから注文した。個展に出すために。


「あのさ、ばあちゃん、話すと長いんだけど」

「淳一、ここでは、私は客です。坂崎先生、もしくはお客様といいなさい」


 くっそ~、くやしいけど言い逃れ出来ないし、バンクシアの惨上をどう説明したらいいか。

本当の事を言っても、わっかんねえだろうしな。俺も困ってると飛鳥先輩が、頭を深々と下げた。


「申し訳ありません。私のミスなんです。そのバンクシアはウチに入ることも珍しいので、せっかくなので写真にとってました。そうしてるうち、戸がキッチリ閉まってないのに気付いたときは、冬の冷気にバンクシアだけ当たってしまう形になってしまいました。本当に申し訳ありません。南の花ということで、プロテアかヘリコシアなどは、どうでしょう?これは他店に在庫があるようで、すぐ提供できます。無論、今回は花代はサービスさせていただきますから」


 ばばぁは、カタログでその二つの花の写真をよく見て、

「バンクシア中心に考えていたので、他の花をと言われてもね。でも、仕方ない。この二つをどちらもいただくわ。やれやれ考え直しだけど、ま、これも修行の一つだわさ」


「坂崎先生、本当に申し訳ありませんでした。今すぐ持ってきます。後、それらに合いそうな花やグリーンも複数、ご用意させていただきます。」


 店長は脱兎のごとく、出かけた。敦神父はもうとうにいない(逃げたな)。ばあさんも帰ったし、俺と先輩で少しの間、店番だな。ま、坂崎先生様の怒り爆発がなくて、よかった。俺は安心して先輩に声をかけると、赤いオーラが見えるほど、先輩が怒っていた。


「胡蝶蘭の1万の鉢植え+個展用バンクシアの代わりの花代+α+持ち出した花の代金。きっちり品名と代金を書きだして、請求書を提示。かわいそうだから仕入れ価格で」


「個展の花代のサービスは、いいんじゃねえの?実費くらいとったら?」

「何をいってるの、坂崎先生は大お得意様よ。このくらいは当然、もし他店にとられて、うちの悪評が広がったら、もっと被害額が大きくなるわ」


 なるほどな。店長のミスよりも、バイトのミスのほうが信用を落とさないからな。でも腑に落ちねえな。別に誰かからお礼を貰うようでもないし。もっと適当に出来なかったのか?


 いろいろと後始末しながら、飛鳥先輩に何気に聞いて見た。


「淳一君、今回はあの二人と花の精霊で、なんとか悪魔の卵とかいうものを退治したのよ。あんなに面倒だとは、思わなかったわ。」

と、プリプリ怒って(誰に?)、閉店準備を始めた。


 悪魔だって?悪魔祓いか。じゃあ、敦神父ってエクソシスト?違うな全然。きっと店長のほうだ。前は神父だったというから。それにしても、悪魔祓いだなんて、この花屋、実は危険が一杯の職場じゃないか。悪魔祓いというのを、1度は見てみたいが、やはり”君子危うきに近づかず”の方針でいったほうが、いい気がした。





 

水曜日深夜(木曜日午前1時ごろ)更新してます 週一ペースです。

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