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クリスマスの前には悪魔祓いを

今回は、店長目線の話しになります。長くなりましたので、今回だけ2話で完結です。連投しますのでよろしくおねがいします。

「遅い、なにやってるんだ」

”ちょっとイヤな雰囲気の処があります。見てきます”と行った兄。もう30分も待っている。

確かに、私も気になっていた。この空き地にくる時、悪霊の気を感じたから。時間があれば私も様子を見に行くところだけど、今日はこっちが優先。ここの”気”を浄化するほうが、先だ。


 目の前の空き地には、黒いモヤが禍々しく渦巻いてる。暖かい日が続き雪が少し解けて、地面と雪とまだら模様になってる。本格的に積雪になるのは、12月末だろう。


 確か2年前に事件があった所の近くだけど、放っておいたので、さすがに悪い気がよどんで、加速度的に大きくなってきた。


 どれだけ花の精霊が頑張ったとしても、もし”禍々しい気”だけじゃなかったら、兄だけでは手に負えないだろう。報酬はどこからも出ない。頼まれてもいないし、悪霊は、その殆どは、生者には干渉できない。ただ、それが集まると、”厄介なもの” になりかねない。


 


 飛鳥ちゃんの赤い軽自動車が到着した。煙のでてる香炉と一緒に、兄さんが車から降りて来た。出来るなら飛鳥ちゃんには、ここに来てほしくなかった。兄が香炉を忘れなければ。


「すみません、亘。途中、人形を説教してる飛鳥ちゃんを見つけて、放っておけなくて、手助けしてました。ああ、飛鳥ちゃんには、車に乗ってるよう厳命しましたから」


 人形に説教だ?ああそうか。目の前のこの”禍々しい気の塊”の勢いが少し減った。この空き地の”禍々しい気”は、おそらく近くの悪霊や強い悪意などを吸収して大きくなってるのだろう。飛鳥ちゃんが、その悪霊とやらを説得し昇天させたのかも。兄さんはアテにできないしな。


 夏にこの近くで、一家心中未遂があった。数年前には殺人事件があり、その犠牲者の遺体がここの側の端から投げられている。そのせいか、ここに”禍々しい気”が漂うようになった。

願わくば、”気”だけで、悪の権化たる悪魔がいない事を祈る。


 確かに私は、還俗願いを出したとはいえ、元バチカンの退魔師エクソシストだ。

ただし、現役時代、本物の悪魔には出くわしたことはなかった。悪霊に出くわす事もあまりなかった。ただ、今回は手こずりそうな予感がする。


「兄さん、香炉をふって煙で”禍々しい気”を、空き地の外にださにようにしてください。向こう側は川ですから、天に行けなかったものも、水の流れで浄化されるでしょうから」


 兄が香炉をふりはじめ、半円を描くように歩く。私は聖句をとなえながら、聖水を目の前の”禍々しい気”にかける。黒いモヤのようなものだが、一般の人には見えないだろう。

普通は、こういうものは、自然消滅するのだけど、今回は、どんどん集まってきている。

そこが、不安材料の一つだ。


 ”気”は少し小さくなりながら、川に近づいて、少し安心した。何とか川に追い込めそうだ。寒いなか、汗をかき唱えてた聖句を、一旦、とめた。


 後ろからごそごそ音がし振り返ると、飛鳥ちゃんがいた。兄さん!”厳命”は、ちっともきかないよ。いや、こういう場合、私のいう事も聞かない子かもしれない。


 飛鳥ちゃんは、地面に新聞紙をひいただけのところに置かれた花を、バケツにいれ、水切りしていた。私と目があうと、厳しい顔だった。”花になんて扱いをするのよ。売り物にならないなら、お金払ってね”って、心の中で言ってるのがわかる。


 しまった。胡蝶蘭の鉢植え持って来てたんだ。胡蝶蘭は空気を清浄にする働きがあるので、役に立つと思ったから。あれはたしか1万の鉢だ。これも自腹となると、ちょっとキツい。年末は、店のほうは、総決算があり今年は黒字になるかどうかギリギリっぽい。足りない時は私の給料を減らして帳尻を合わせる。今回の花代も、私が一銭もださないですむ事は、ないだろう。


”ごめん、働いて下さい。そして耐えてくれ”と鉢の胡蝶蘭に聖水をかける。切り花よりは寒さには強いけれど、いかんせん、今日は夕方になって冷えて来た。花代は切り花のほうは兄に負担してもらう事になってる。が、兄は派遣元から出るお金の半分は教会の維持費に使ってるので、かならずしもアテにできない。


*** *** *** *** *** *** *** ***

 ”禍々しい気”からは、人の負の感情から出て来る。。


 ”許せない””殺す””あいつの足を引っ張ってやる””きもい、そばによるな”などなど。

汚く悪意に満ちた言葉が、頭に響いてくる。胸が悪くなるほどだ。


 少し黒いモヤが薄くなってきた。死んだ後、現世への未練で彷徨って魂もいるようだ。そういう魂がこの”穢れた気”に巻き込まれていたんだ。それらが少しづつ昇華している。花の精霊が賢明に働いている。そこに飛鳥ちゃんが、平然として何か口添えをしてる。



「飛鳥っちゃん、無理しないで車に戻りなさい。ここは危険です。」

「それより、こちらのご夫婦、お嬢さんを殺され遺たそうよ。犯人は逮捕されたけど。あまりに凶悪で最悪の結果だったから、私覚えてる。娘さんが見つからないのですって。店長、この方たちの娘さん、どこに居るかわかります?」


 わかりません!!天国のどこにいるかとか、そもそも天国ってどうなってるかも、私は知らないのだから。


<すみません、真っ暗な中でやっと光がみえ娘だと思ったら違いました。わしらの娘はどこにいるのでしょう>


 いや、だからわからない って言うわけにもいかないし。困ってると助け船で花の精霊が声をかけてくれた

<こちらの道、光ってます。ここをまっすぐ行けば、娘さんの処ですよ>


 体格がよく、頼りになる姉さんって言葉がピッタリの精霊だった。白いワンピで首のところがすぼんでいる。裾は黄色で広がってる。なんの花だ?ああしまった。バイカシアを持ってきてしまった。この花の精霊だ。坂崎先生からの注文の花だったのに。


「光の道が見える様になりましたね。尊き御方の力かもしれません。」


 道が見えたことで、迷える魂のほうは、昇華していった。”気”は、だいぶ小さくなったが、今度は地面を這うようにして出て来た。これはまずい、聖水をかけまくるが、ピンポイントであたらない。バケツ一杯、聖水を持って来て、散水機でまけば簡単かも。いやいや、これは飛鳥ちゃんに影響されてる。


「店長、こういうのは、足で踏んづければいいんじゃない?細い蛇のようだし、踏んだら消えるから」

といって、地面を踏みまくってる。アレは悪魔の触手のようなものじゃないか。そんなものに触れて体に異変はないのだろうか。


「飛鳥ちゃん、それに触らないように。危ないですから。私が聖水で消します。あなたは車にもどってなさい。」

って、私の言葉も聞こえないのか、夢中で地面を踏んでる。おや、彼女と一緒に蛇のような者を踏んでる女の子がいる。ああ、彼女は胡蝶蘭の精霊。1万円の。


「飛鳥ちゃん、目の前の黒いモヤの真ん中、何か視えるかい?そこから何か聞こえる?」

彼女は、目をこらしてみて答えた。


「なにか、黒いグニャグニャと形が変化してる球体がある。さっきよりだいぶ小さくなったけど。言葉も何もきこえないけど、いやな感じ。棒かなんかで叩き落とし、コナゴナにしたい。」


 少しホっとした。まだ”悪魔の卵”の段階だ。それなら聖水と香炉でなんとかなるか。


「飛鳥ちゃん、香炉の火がきえてしまったようです。車にあるライターもってきてくれますか?」

兄さん、足を引っ張らないでくださいよ。私は、こっち側で手いっぱいなんですから。


「すみません、飛鳥ちゃん、お願いします」


 彼女は、車にとってかえし、香炉にを火をおこすと、彼女は香炉を大きく振り回した。


「あの、そんなにふりまわさなくても、ゆらす程度で...」

「敦神父さん、雪がちらついてきたのよ。そんな悠長な事してたらまた消えるから。店長も水だか聖水だかかけるんなら、せめて、散水機をもってくるべきね。真ん中の黒い球体に充てたいのならね」


 散水機...どうも私は飛鳥ちゃんの影響を受けてるようだ。発想が同じだ。


 飛鳥ちゃんのふりまいた大量の煙のおかげか、黒いモヤは消えてしまった。そして、彼女のいったような黒い球体が、ボタっと地面に落ちた。ゴルフボール位の大きさだ。私にも見えるようになった。


 それを待っていたかのように、キタキツネが土手から下りてきて、その球体をくわえると、橋のほうへ飛んで行き、真ん中あたりで、くわえた球体を川に落としたところまでは、視えた。


「飛鳥ちゃん、彼に命令したんですか?」

「はぁ?なんのこと?何か転がって来たから、あのキツネ、食べ物か何かと勘違いしたんじゃない?」


 もうかなり暗いので落ちた黒い球体が、川でどうなったかはわからない。おそらく水で希釈されて海まで行くだろう。


「どうでもいいですけど、店長。これパンクシアで坂崎先生の注文の品じゃなかったですか?お高いんですよね。2000円。原価で1500円くらいですか?坂崎先生、この間のピンクッションを活けてから、南国の花のアレンジに凝ってらっしゃるそうですけど。どうしますか、この花。日持ちが短くなりそうですよ。」


 そこをつかれると私も、弱い。ひたすら謝って、最後は兄さんに責任転嫁した。悪魔祓いを力技で寧伏せるのは、もしかしたら飛鳥ちゃんだから出来たのかもしれない。


 兄さんが、香炉を忘れなければ、彼女は来なかった。じゃあ、今回は兄さんのおかげ?

それだけは、断固として認めたくないな。




水曜日深夜(木曜日午前1時ごろ) 更新します。週一更新です。

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