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松ぼっくりツリー

今日は朝から雪。商店街は閑古鳥が鳴いている。まあ、いつもの事だけど。


 私は、ちょっとした企画を思いついて、店長に相談。OKが出たのでさっそく今日から、準備作業を始める事にした。店の営業の邪魔にならず、通常営業に支障がでないように、レジの後ろの方を少し片づけて、小さな作業場にした。いつもは、リボンを作りおきしたり、ポップをかいたりする机だ。


 ”お花かリースを買ったら、ミニミニツリーをプレゼント” クリスマス限定企画。


ミニミニツリーは、松ぼっくりをツリーに見立てて、ビーズとかで飾りつけしたもの。母がこの工作(手芸?)が大得意で、秋に大量に松ぼっくりを集めてた。


 まず、小さな木を1cm位の輪切りにする。これが土台。その木にコルクを打ち付ける。コルクの上に、松ぼっくりをノリでつける。大きな実の時は、枝にみたてた開いたカサの処を、緑色に塗る。余裕があれば、金色や銀色のペンでポイントを入れる。雪にのように、綿を少しいれたり。

母に見本を作ってもらったので、それと同じように。(土台は父に作ってもらった)


 午後から忙しくなったせいもあるけど、目標20個の処、夕方になっても5個。企画のため最低でも50個は作りたい。


 午後、5時になり淳一が、”ちゅ~す”なんて、だらけて口調で店に出て来た。私の作品をみるなり、吹きだし、一息すって真面目な顔になった。


「一生懸命やってるのは、わかるんだけどさ。たとえば、これ。こっち側はカサの開き狭いのだから大きなビーズつけるより、小さな金銀のビーズを散らした方がよくね? 手本通りなのはいいけど、松ぼっくりが、全部同じ形ってわけじゃねえし、そこんとこ考えねえと。」


 う、言われてみると、そうだよね。ぐーの根も出ない。私は、ミニツリー企画の事を淳一に話して、”どうぞ手伝ってください”とお願いした。ここは我慢してだ。


「それほどは出来ないけど、協力するから、店のほうはよろしく。」


 く、くやしい。私は美的センスっていうのが、淳一より劣るようだ。工作では負けないと思ってたのにな。もう花のアレンジの腕前は、彼のほうが上になってきた。私だって本などを参考にして、フラワーアレンジの練習をしてる。


 二日前もアレンジした花を見てもらった。店長はギリギリ合格出してくれたけど、淳一からは笑われた。彼はお花の師匠である祖母に、中2の時まで生け花を習わされてたとか。こういうセンスって、小さい時からやらないと上手くならないのかしら。


 当然の事だけど、こういう練習は店の営業が終わった後、自主研修という形だ。


 さて、松ぼっくりツリーも淳一に笑われた所で、通常業務にもどる。花の水替えと一緒に、茎を斜めに切る水切り。元気のない花には、逆さにしてスプレーをかけた。はあ、これって売れ残るかも。ちょっとかわいそう。最悪、売れ残った時には、ドライフラワーに出来る花はそうする。


 今日は閉店後、ミニツリーを作りだ。店の中から外を見ると雪は止んでいた。閉店も近いし、少し店の前だけ雪はねをするべく、暖かく着こんで外へ出る。もう商店街には誰も歩いていなかった。車もない。


 は~っと白い息を吐く。冷えて来た。午後からバイトのこの店、私には居心地はいい。ただノンビリペースの仕事で年を越せるのだろうか。いろいろイベントや飾りつけで、商店街を利用する少ないお客さんをひきとめないと。


 雪は10cmも積もってなかったので、軽くワキによけるだけで終わった。やれやれと雪はねダンプを片づけてるところ、”うわ~ん、やだやだ”と子供の大きな泣き声が聞こえてきた。

4店先斜め向かいの玩具屋のほうからだ。何事?ととんでいく私も、野次馬根性まるだし。

そこには、石畳の上に寝転がる4歳くらいの女の子と、ちょっとくたびれた雰囲気の私と同じくらいの年代の女性が困った様子で立っていた。


”クリスマスツリーがほしいよ。ウチだけどうしてないの?保育所にはもうあるのに”

”我慢してね。由香ちゃん。来年、買ってあげるから。ね、ね”


 母親は必死になだめるが、一度、泣き出したら子供も、ひっこみがつかないのだろう。まだ、手足をバタつかせて、泣いている。


「あの、よかったらウチの店にいらっしゃいませんか?冷えてきたので風邪をひいてしまうでしょう」


 お客さんにはならないだろう。位置的にすでにウチを通りすぎてる。泣きわめく子より、オロオロする母親に、私は同情した。


 店では敦神父が戻ってきてた。事情を説明した。女の子、由香ちゃんは、母親の腕の中でまだ暴れてる。そこまでしてほしいものかな?クリスマスツリー。


「淳一君、ちょっとお願いがあるのですが」

「へ?俺?」

「ええ、この二人と、松ぼっくりミニツリーを一緒に作ってあげてください」


 親子を連れて来たのは私だ。敦神父がこんな事を言い出すとは思わなかったけど。助かった。淳一に手をあわせ、お願いポーズを作った。



”ここの処、その金のビーズにノリをつけて...そうそう、で軽く乗っけて...おし。上手く出来た。てっぺんには、この星型のビーズをつけよう。先っちょにノリを付けて...。最後は好きな所に綿を置いて。この綿が雪の代わりだ”


 淳一は、子供の機嫌をとるのが上手いのか、教えるのが上手なのか、母子二人は、ほんの少しの間だけど、工作を楽しみ、ミニツリーを完成させた。”出来た”と由香ちゃんは、手をたたいて喜び、母親もホッとした様子だった。


 ”もともとサービスでくばるつもりでしたから、お代は結構ですよ”と、母子を店から送り出した。まあ、母子ふたり明るい顔で帰っていく姿は、見ててホワっとうれしい。


「クリスマスに本当は、ツリーは必要ないんですよ。たんなる風習ですから。あの親子に必要だったのは、二人で楽しむ時間です。精神的にも余裕のない生活をしてるのでしょうね。」


「へー。まあ兄さんは、精神的に余裕ありまくりですから、クリスマスまでは、せいぜい働いてもらいましょう。あなたがとても不器用なのは知ってますから、リース作りは免除しますが」


 後ろから店長が、兄の敦神父に”もっと働け”指示が出る。だよね。大体、雪かきだって男の人のほうが、断然、効率がいい。今度からは、積極的に肉体労働を担当してもらおう。ウンチクではお金はもらえないのだよ。ここではね。

水曜日深夜(木曜日午前1時ごろ)更新します。週一更新です。

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