レベリング
異世界に来て二日目。
朝は目覚めてからすぐに街のギルドへ向かい、報酬金を貰った。
ついでに元々やるつもりだったグリスのドングリ採集依頼も受け、数時間かけて採集した。名前の通りリス型のモンスターで、頬袋に一個か二個のドングリを咥えていた。
なかなか遭遇率が低いモンスターらしい。実際私たちも数匹くらいしか見つけられなかった。
しかしグリスは木の下にドングリを隠す習性があるらしく、主にマークの活躍でその隠し場所を探し当てることができた。
おかげでドングリは14個集まった。
この二つの依頼を達成した結果、私には村の宿に一週間泊まれる程のお金が貯まっていた。
一週間分のお金がこの依頼二つで集まるとは思っていなかったけど、私の思う以上に難易度は高めだったらしい。
ピビットは私にでも倒せたことを考えるとそこまで強くないように思えるが、一般人からしてみれば結構危険なモンスターのようだ。私の場合はマークのステータス補正で攻撃力が高くなっていたので倒せた。
ドングリの方も、グリスとの遭遇率が低い分ドングリが手に入りにくいのだけど、隠してあるドングリの分が大きかったので、報酬金も高かったというわけだ。
さてこれから私はレベル上げをするつもりだ。
他にやりたいことといえば、パーティを組んでみたい。狩りゲーのように多人数で大型モンスターを狩るっていうのを体験したい。
そして魔法を使えるようにもなりたい。魔法を使える人もいれば使えない人もいそうだけど、私の平均的な能力を考えると習得自体はできるはずだ。どう覚えるかわからないから、誰かとパーティを組んだときにでも教えてもらおうかな。
あとは文字を覚えておきたい。その方が色々と便利なはずだ。
読み書きできない人も珍しくはない世界なので、覚えなくても大きな支障はないだろうが、毎度お世話になっているギルドの受付嬢さんの名前を自力で知りたいのだ。その方が受付嬢さんとも親睦が深められそう。
これはいたれりつくせりな村長に聞けば教えてくれるだろうか。そういえば村長の名前も聞いていない。
「さてと」
レベル上げに行きますか。一週間は宿屋に泊まれるから安心だ。三日ほどはレベル上げに専念していいだろう。
それでも手頃な依頼があるかもしへれない。往復に時間はかかるが、一日に一回ぐらいはギルドに寄るとする。
まず宿屋に向かい、安めのコースだが食事も朝晩二食ありで、一週間宿泊の手続きをしてから村から見える森に出かけた。
行きは徒歩で、帰りはマークに乗って帰ることにする。
道中、スライムとロックラブという蟹型モンスターに二体ずつ出会った。スライムは初めて複数で遭遇した。相変わらず命中しなかったが、昨日よりはマシになっていた気がする。ロックラブは甲羅とハサミが石になっていて、水辺に住んでいるわけではなく陸上型のようだった。
モンスターの名前がわかる理由はハンター証モンスターを倒してから一定時間のうちにハンター証を魔力更新すると、最後に倒したモンスターの正式名称が一時的に浮かび上がってくる。それで蟹型モンスターの名前もわかった。
ちなみにこれはその時に気付いたのだけど、レベルがいつの間にか6上がってLv8になっていて驚いた。これはピビットの分が大きいだろう。あのあと魔力更新するのを忘れていた。
「ふうぅぅぅぅ」
私は大きく息を吐いた。今は森に着いたところで、森に入る目の前にいる。正確にはわからないが一時間ぐらい歩いたのだろうか。さすがに特に体を鍛えていない私は若干疲れた。
レベリングを始める前にちょっと休憩。私はそこらへんの木を背にして座り、バッグからまだ余っていたお菓子と飲み物を取り出して口に含む。
休んでいる間、何もすることがないので私はボーっと辺りを見渡す。
充電は十分に残っているけれど、異世界じゃあスマホいじってもできることも少ないしね。電波がないこの世界でも便利に使えそうなものと言えば、メモとかカメラくらいか。暇つぶしになるといえばダウンロードされている音楽と、電波を使う必要がないゲームだな。
ゲームをするならゲーム機があるが、すぐ電池がなくなるだろうしやる気が起きない。小説もたった一冊しか持ってきていないので、数日で読み終わってしまうだろう。シリーズものだから読んだら続きが読みたくなって元の世界が恋しくなってきそう。
そういえばだ、元の世界ではどうなっているんだろう。私がいなくなったことで何か変わったこととかあるだろうか。
世界移動による影響とかもわからない。もしかすると私が存在しなかったものとなっているかもしれないし、行方不明になったってニュースになっていたりするかも知れない。
考えてみれば、そこらへんが心配だなぁ。帰れない以上心配しても仕方ないか。でもいつかは帰れると信じてる。あわよくば行き来できるようになりたい。
しかし草原に響く草のなびく音や風が気持ちいい。こうやって辺り一面の草原を見渡していると、なんというかさわやかな気分になるというか。来たときにも感じたが、感動で心が震えてくる。
今日はいい天気だし、ちょうど体がぽかぽかして眠くなってくるような時間。こんな場所では鼻歌を歌ったり、木の下で本を読みながら居眠りしちゃうのもいいよね。
実際にそれを感じて、私も本当に眠くなってきた。このままスーっと静かに昼寝してしまいたい。寝てる間に頭とか肩に鳥が乗ってきたりして、起きると鳥たちが一斉にお空へ飛んでいくの。そんな絵本のような童話の世界のようなファンタジーを想像して、心が安らいでくる。とても幸せな気分だ。
しだいに私のまぶたは重くなっていき、ゆっくりとまぶたが閉じてゆく。
だがそのとき頭に少しの衝撃が走った。そのせいで私の意識は完全に覚醒してしまった。もう一回眠りにつくのは難しいな。
「痛い、ちょっとだけど痛いからやめて!」
私が眠りにつくのを妨げたのはマークだった。私の頭を丸い部分で軽く叩いていた。
「むー、どうしたの?」
せっかくのお昼寝を邪魔されてわたくし様はご立腹だ。
マークのほうを見ると、木を挟んだ私の後ろ側に矢印を向けていた。
「なになに……」
その方を向いてみると何やらうごめく影が……それは小さめの人型モンスターだった。
ピビットとは違うベクトルで悪そうな顔をしていて、肌は赤茶色。腰になんか捲いていて、右手には棍棒を持っていた。角は生えていない。
名前は何だろう。私が知っているシルエットで近いもので言えばゴブリンかな。異世界あるあるのモンスターだよね。
ピビットと似たような、それよりも高めの声をあげて私のほうにてくてく走ってきた。足が短いから走り方だけ言えばかわいらしい。
私もマークを構える。基本モンスターと戦うときは最初は受けに専念する。経験を積みたいのもそうだし、慣れないのに先制攻撃をしても空振ってその隙に攻撃を受けるかもしれない。
マークは自分から攻撃する時のほかに、一定の長さから更に伸びると極端に攻撃力が減っていくらしい。なのでマークのリーチを長くして戦うのはあまり意味がない。逆に短くしていくと少しだが攻撃力が上がっていくようだ。
私が横に持って構えたマークに仮称ゴブリンの棍棒が縦にぶつかる。ガキンといい音が鳴った。震動がマークを伝って腕で感じる。
再度ゴブリンが棍棒を振り下ろしてきたので、それに合わせてマークをぶつける。
そうだな。ここまで見てると結構ゴブリンには隙が大きいように感じる。棍棒が重くてうまく扱えていないように見える。
「それなら」
私は三度振り下ろされた棍棒を横にはじいて、一度後ろに下がってからよろっと倒れそうになったゴブリンに攻撃した。
マークで殴った部分の骨が曲がって、ゴブリンは絶命した。
「こんぐらいなら余裕はあるね」
名前を確かめるためにハンター証をだして魔力更新をする。
名称:グリン とでた。
ゴブリンと似ているけどなるほど、このモンスターはグリンというらしい。
人型相手なのに今回は割と平然と倒していたと思うかもしれないけど、表に出していないだけで抵抗は残っている。しかしもう後には引けないからそこは割り切っている。しばらくは続いていそうだ。
「休憩はおしまいかな」
すっかり眠気は覚めているし、戦闘しちゃったからね。
なのでレベリングを始めようと思う。
置いておいたバッグを拾い上げ、森の中へと歩いていく。
「私の世界の森とは似ても似つかないなぁ」
まさに自然を感じる。
私の世界みたいに開発が進んじゃって、少ない森も人間の手が入っているところしかないから自然であって自然じゃないんだよね。
外国にはこんなところがあるかもしれないけど、それもやっぱ違うものだと思う。
ここはもっと何かこう自由というか、言葉には表わしがたいけれど正しい自然って感じ。自然に正しいも何もないと思うが。
よく見れば小動物のような可愛らしいモンスターもいっぱいいる。あんなのは私には狩れないな。敵の攻撃する気を失くすのは凄いと思う。
落ち葉を踏みながら歩く私をみんなじっと見ていて、進行方向にいるモンスターは近づくたびに逃げていく。微笑ましい。異世界に来てよかったと実感する。
そんな平穏もつかの間、当然モンスターとエンカウントする。
また同じモンスター、グリンだが唯一違うのが武器だ。今度は石でできた剣を持っている。それぞれ持っている武器が違うのかな。
突っ込んで来たグリンをさっきと同じように対処して倒した。
名称はソードグリンだった。扱っている武器によって名前が違うのか。棍棒がノーマルで、持ち変えたら名前も変わるのかな。
少ししてまたもやグリンと遭遇した。今度は横に小型モンスターがいて様子がいつもと違った。
「戦って……るのかな?」
武器は棍棒なので普通のグリンだろう。そのグリンがもう一匹のモンスターに棍棒で攻撃していた。もう一匹のモンスター、見た目はハムスターっぽい。ハムスターとしては大分大きいが、モンスターとしては小型か。こっちも反撃にとジャンプしてグリンに突進している。
一分ぐらい戦いは続いて、最後にグリンの棍棒がハムスターの頭に当たり倒れてしまった。
あぁ、応援してたのに。
グリンは倒したハムスターを引きずってどこかに持っていくようだ。
そこへすかさず私は現れ攻撃した。
「ハムちゃんの仇!!」
隙だらけだったグリンはギャっと叫んで倒れた。
よし、これでハムちゃんの仇打ちはできたな。
そして次に遭遇したのは、相も変わらずグリンだったが扱っている武器は、遠くてよく見えないが木の棒のようだった。
「なんだろう。あれで戦えるのかな?」
どうあがいてもあの武器脆いだろうけど、予想の斜め上を行く使い方でもするのだろうか。眼つぶしにでも使ってくるとか。
私は集中し、身構えて近づく。
相手も私の存在に気づき、木の棒を横に持ってもう片方の手のひらを木の棒に当てている。何をしているのだろう。
五秒ぐらいそうしていたかと思うと今度は木の棒の先を私のほうにむけた。
途端、その先には何かよくわからない球が何かを帯びて出現し飛んできた。なんて説明すればいいのかわからないが、その球は赤いような紫のような色をしていて、半透明になっている。スピードは決して遅くはない。
ビックリした私はバッと横に体をのけぞらせ、間一髪回避した。
後ろにあった木が少しだけえぐれた。
なにあれ!? 今のは魔法? 見た目は変わっていたけど、魔法にしか思えない。あの棒も物理の武器じゃあなく、杖だったのだ!
異世界に来て驚きだらけだ。
グリンは二発目を放とうとしている。一見威力で言えばピビットの風魔法のほうがありそうだ。あっちは風だから見にくいし。
それでも危険なことには変わらない。
放たれた魔法の球を上半身を低くして避けて、全力でグリンの元へ走る。
「えい!」
マークを突くように前に出して、魔法を撃つのを止めさせた。
後ろ向きに転がったグリンをもう一度吹っ飛ばして何とか倒すことができた。
てっきり物理攻撃しかしてこないと思っていたけど、魔法を使う個体もいたのか。
ところで今の魔法は何魔法だったんだ。赤かったからとはいえ火魔法なら、当たった木が燃えているはず。半透明でテカっていたから光魔法かもしれない。こんな光魔法は初めて見るが。
まぁいいや、今度村長に聞いてみることにしよう。
私はレベル上げを続けることにする。
私は片足を前に出そうとして、何か音が聞こえてきたので足を引き戻した。
「何の音?」
草をかき分けるような音だと自問自答する。
おそらく新手のゴブリンが隠れて攻撃しようとしてあるのだろう。弓矢かな? ガサゴソという音は右から聞こえてくる。
攻撃が来ても対応できるよう臨戦態勢に入る。
「…………」
あれ、おかしいな。ジッと待っていても中々攻撃が来ない。
仮に相手の武器が弓矢だとして、矢を落とせるよう丸い部分を体の中心にして音が聞こえる方にゆっくりと近づいていく。
「ギャ!」
「え!?」
キンッといい音がなって矢が地に落ちた。一瞬反応が遅れたが何とか対処することができた。
予想通り武器は弓矢だったが、場所が予想外だった。グリンは音がなった方向とはまた別の右方向にいた。まさか誘い込んだというのか。見かけによらず頭がいい。
いつも通り走って行って魔法使いのグリンの時と同じく、突き倒してから吹っ飛ばした。
「ふぅ、今のはちょっと危なかったかも」
しかし安心もつかの間、今度は後ろからザッという音が聞こえた。
その音を聞いて私は真顔の超高速で振り返った。
その姿を見て私は背筋を凍らせた。
そこには大柄の獣型モンスターが立っていた。身長は私と同じぐらいだ。二足歩行をしていて見た目は狼っぽい。
グルルルルルと喉を鳴らしている。お、お腹空かせてるのかな?
まさかさっきの音の犯人って……。
それにどこかでこんなモンスターを見たことがあるような……? 確か……ガルー? っていう名前だったっけ。
私の眼の前にいる獣型モンスターは鋭い目で私を睨みつけている。
「は、ハロー……」
とりあえず片手を上げて挨拶してみた。これ、非常にまずい状態なんじゃないの……?
すると獣型モンスターも片手を上げてくれた。言葉が通じた?
良かった。私はそれを見て少し安堵した。だがすぐに考えを変えることになった。
上げられた手は爪を立て、私めがけて振り下ろされた。
「ぎゃああ!」
攻撃を間一髪でかわして地面に倒れた。
「ぶへっ」
攻撃によってえぐれた土が飛んできて私に降りかかった。
モンスターがズシッと音を立てて、追撃を加えんと近づいてくる。
やばい! こいつはマジにやべーぜ……。
今度は手を上に上げる動作などせず、真っ直ぐに私をひっかいてきた。
「マーーーク!!!」
私は地に手を付けて走りながら立ち上がって全力で叫んだ。
避ける時に手から離れてしまったマークが私の元へ寄ってきたので、手で掴んで一気に森の外へ向けて突き進む。
「はぁ、助かったぁ」
マークに乗れて、私はそっと胸を撫で下ろして安堵した。
「今のはグレートなモンスターだった」
私は独り言をつぶやく。
「しかし何であんなモンスターがこの森……に……」
後ろを振り向きつつ言った。後ろにいるそれを見て私は硬直する。目を疑った。
さっきのモンスターが走って追いかけてきていた。
「おいおい嘘だろ!? この標識は時速60キロメートルくらいだぞ!? 多分……」
「グガァァァァァ!」
やばいやばいやばいやばい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!
雄叫びを上げながら追いかけてくる。おまけに言えば大きな足音すら立てずに走っている。それも人間のような走り方をしている。
やばいって! マジだよこのモンスター!
少しだがマークの速度の方が早いようで、だんだんモンスターとの間隔が開いてくる。
それでも油断はできない。
「マーク! もっとスピードを!」
グンとマークの速度が更に早くなったのがわかる。
そこからはドンドンとモンスターから離れていった。
私の髪と頬の肌が凄いことになっているが気にしていられない。
十数秒経ってようやく森の外に出ることができた。
「フゥゥゥ、ハァハァ」
私は地面に倒れこんで荒い呼吸を整える。私自身が走ったわけじゃないけど、緊張で心臓がバクバクなっていた。
も、もうダメ……今日は帰ろう……。
冗談じゃないよ、あんなモンスター。今のでドッと疲れた。
大の字に仰向けになって空を見れば、赤くなり始めの頃だった。
時間的にもちょうどいいのかな。
しばらく森の入り口で休んでから今日は宿に帰った。
偶然なのか、あのモンスターが周りのモンスターを駆逐していたからなのか、私が休んでいる間モンスターに襲われることはなかった。