クエスト
今はスライムを五匹倒したところだ。三匹目を倒したらレベルアップした。次は5匹くらいだろうか、あと二匹だ。
これでLv2になり、レベルアップをするという目標は達成された。とはいえもっと上げるつもりだ。
こうやって経験値を手に入れてレベルを上げて、レベルが上がるにつれ自分が強くなっていくのが感慨深い。ステータスとして目に見えることで、強くなっていく実感を得ることができるのが理由か。
今はクエストを受けるためにギルドの中にいる。来る途中、カードに魔力を流してステータスを反映させた。
戻ってきた時に時計を確認してみたら、出かけてからまだ1時間も経っていなかった。
結構疲れたので、体感的には1時間は過ぎてるだろうと思っていたが、いろいろとやらなきゃいけない私にとっては好都合だ。
いや、でもLv2になっただけか。
登録した時の受付嬢がまだいたので悩まずにそこに向かう。受付嬢は私の存在に気づいて、こちらに笑顔を向けてくる。
「スズナミ様ですね。本日はどのようなご用件でしょうか?」
どうやら私のことを覚えていたようだ。まだ1時間も経ってないわけだしね。
ふと私は受付嬢の胸元を見る。決して胸の大きさを確認しようとしたわけではないけれど……私のより大きい。いや、この人以外でもほとんどの人が私のより大きいわけだけど……ってそんなことじゃなくて!
私が胸元を見たのはそこに名札と思われるものが付いているからだ。おそらくそこに書いてあるであろう名前を読もうとしたが読めなかった……そうだよ、ここ日本じゃないんだった。
しぶしぶ私は目線を前に戻す。
「お金が無いので、クエストを受注しようと思ったんですが、私でもできそうなのは無いですか? 一応さっきスライムを5体ほど倒してきたんですが」
受付嬢は少し驚いた表情を見せる。
「結構倒しましたね。登録した時からまだそんなに経ってないですが、群れにでも遭遇したんでしょうか? 服も変わってませんし、武器も今は持ってないようですが……。スライムとはいえ群れを倒せるようですし、それなら——」
群れにあったわけじゃなくて、標識の索敵プラス移動力のおかげなんだけどな。今は何となく標識にはバッグに隠れてもらっている。隠す必要はないのかもしれないけどこの世界からしても武器として変わっているだろうし、説明もめんどくさい。クエストを斡旋してくれるようだから言わないでおこう。
私は二つのクエストを紹介された。
一つはまだ依頼がきたばかりのもので、ピビットというモンスターの討伐だ。俗に悪ガキと呼ばれているらしい。近隣の村を襲って迷惑をかける悪戯モンスターと言っていた。あくまでイタズラ好きなモンスターなので、こちらから手を出さなければ人命に危険はさほど無いらしいが。あとは風魔法を使ってくると言っていた。
もう一つはそれより下位の採集クエスト。グリスというリス型のモンスターが一匹一個ずつ持っているドングリを5個納品する収集クエスト。グリスの成長後モンスター、いわゆる首領系モンスターのドングリスのドングリを納品すると報酬がよくなるようだ。
私はとりあえずモンスターと戦いたかったので討伐クエストを受けようと思う。まだ依頼が残っていたら採集クエストの方も受けようかな。
「えーと、ピビットの討伐クエスト受けます」
私は受付嬢にそう伝える。懸念すべきは攻撃があてられるかどうかだ。スライムのときは小さくて当てにくかっただけだし、多分大丈夫だと思いたい。
手続きを済ませて私は早速ピビットを狩りに行く。レベル的には私よりも高いので、気をつけてくださいと言っていた。
今回依頼があったのはこの街から西にあるミセットという村で、他の国から来た商人や旅人、特に西のほうから来た者が一夜を過ごすことも多く、結構大きめな村だそうだ。徒歩だとだいたい1日はかかるらしい。しかしそこは速さが自慢の標識さんに連れてってもらおう。数時間くらいで着くと思う。ピビットは森に生息していて、その森はミセットの東南にある。
ギルドを出る前受付嬢に、きちんと準備していったほうがいいですよとも言われたけど、あいにくお金がない……。
特に準備することはないので、というよりできないわけなので、ギルドを出て、入ってきたゲートとは違う西のゲートから街をでる。
街から少し離れたところ、人がいないのを確認して標識に乗って村まで直行する。
途中、降りて休憩を入れる。ずっと標識に乗ってると体が痛くなってくるからね。街を出て3時間、おそらくミセット村だと思われる村が見えてきた。
思ったよりも結構大きいな。受付嬢が言っていたことは本当らしい。流石に街ほどではないけど、3分の1くらいあるかな。
左を見ると森が見えるけど、先に村に行くことにする。もしかするとピビットと入れ違いになるかもしれないし、今まさに襲われている最中かもしれない。探すのもめんどくさいしね。異世界の森がどんなのか気になるけど。
標識が見つからないように村に近づいたら途中からは歩いてきた。
幾つかの建物が破損しているが、今は特に襲われている様子はない。
なんだろう。こういうのって村の人にハンターですって伝えたほうがいいのかな。
「すみません、ギルドでピビット討伐の依頼を受けてきた者ですが——」
とりあえず道行く人に尋ねてみた。
「あぁ! ハンターの方ですか! 来てくださりありが……」
話しかけた村人は喋るのを途中で止めた。なんでだろうか。
「……あなた、本当にハンターなんですか?」
村人は私を若干蔑むようなジトッとした目で見る。
ガーン! 私はショックを受けました!
まさかそんなことを言われるなんて……。
やめて! そんな目で私を見ないで!
確かに武器も持ってないし、防具はただの服だし、嘘だと思うのも仕方ないけれど!
「ホント! ホントですよ! ほらこれ、見てください!」
そう言って私はハンター証を村人に見せた。
「確かに、確かにハンターらしいですね……しかし、あなたが依頼を受けたハンターですか……」
むすー何よそれ、悪かったわね! 確かに今日ハンターになったばかりの超新米ハンターですけど! ハンターに見えないっていうのは自覚してるけど! 残念オーラ丸出しですよあなた!
「まぁいいです。ランク制限なしの依頼だったわけですし、討伐してくれるなら誰でもいいです。とりあえず村長に顔を出して行ってください。家はあっちにある大きめの建物です」
村人は不満そうにしつつも私に村長に会うよう促す。
はぁ……なんか嫌な感じの人に話しかけちゃったなぁ……。
ランク1でも受けられるクエストは契約金無いんだから、とにかくハンターには誰にでもいい顔しとくべきなのに。依頼受けたハンターがクエスト破棄したらどうするんだか……。やる気なくなってきちゃうわ。
愚痴りながら私は言われた通り村長の家へ向かう。
周りを見てみると宿屋っぽいのが多いように見える。旅人や商人が泊まるためか。私もここに泊まろうかな。お金も街より安そうだし。
少し歩いて、大きめな家が見えてきた。多分あれが村長の家だろう。私はノックして依頼を受けてきたことを告げる。
「すみませーん! 街のギルドでピビット討伐の依頼を受けてきたハンターです!」
「おぉ! どうぞ入ってくれ!」
と、中から返事が来た。なんだろう。思ったよりも渋い声だ。というか鍵かかってないのか! 不用心だなぁ。村長だから訪ねてくる人が多くていちいち開けてられないってことなのかな。それともカルチャーショック? 日本とは違うってわけか。
言われるままに私は玄関を開け、家に入った。
「お邪魔します」
癖でお邪魔しますって言ったけど、これでいいのかな?
中にはガタイのいい日焼けしたおじいちゃんが立っていた。いや、おじいちゃんという程じゃない、おっちゃんて感じか。
「よく来てくれた! ってあんた本当にハンターか?」
うわ! 村長にまで言われた! しかもこんなにハッキリと!
「ホントにハンターですよ! これ見てください」
さっきの村人の時と同じようなセリフでハンター証を見せた。
「ほー、そうかそうか。まだランク1で武器も防具も持っていないところを見るとあれか? 家を追い出されてお金を稼ぐためにハンターになったとか……それにしては変わった綺麗な服を着てるな。没落貴族とかか?」
何か気さくな感じだけど失礼なことズバズバ言うなぁ。どっちでもないけど。
「どっちでもないですけど、お金が必要なのは事実です」
やや不機嫌に私は答える。
「おっと両方とも外れかぁ。これでも俺も昔ハンターをやっていてな、結構な手練れだったつもりなんだが今は色々あって引退したんだ。このハンターがどんなハンターかとかだいたい勘で当たるんだがなぁ。だが、いくらランク1で受けられるクエストだと言っても、あんたのステータスもそうだが、ピビットは武器もなしに戦える相手じゃないぞ?」
「武器なら持ってます」
やっぱり昔ハンターだったパターンか。何となく察しはついてた。
しかしどんなモンスターか詳しくはわからないけど、ピビットならいくら色々あったとしても勝てるんじゃないか? この人なら。
まぁ色々だから仕方ないか。
「そうか。宿屋にでも置いてきたのか? 武器は常に持っておいたほうがいいぞ。いざという時に行動できないからな」
標識を見せるつもりもないし、そういうことにしておこう。
「しかし今日依頼したばかりなのに随分と早いな。まぁこの村に何かあったら街の方も困るしな。金銭的な意味で。だが寄越したのは今日ハンターになったばかりの超新米だが。あんた大丈夫なのか?」
村長は不安そうに聞いてくる。
うーん。大丈夫と言われて大丈夫と答えられるような腕はない。実際今日ハンターになったばかり、さらに言えば今日この世界に来たばかり。自分でも不安だと思う。
「まぁ、何かあったら聞いてくれ。先輩ハンターとして、答えられるものなら何でも答えるぞ! 先にピビットについて教えようか。こっちとしても討伐してもらったほうがいいしな。武器は何を使ってるんだ?」
何でも聞いてくれって言ってるし、確かに良い利益になりそうだ。正直、私でも話しやすい人だし困ったり悩むことがあったら聞くことにしよう。
しかし武器のこと聞くかぁ。何て答えよう……。標識は棒があるし……棍って言えば大丈夫か。
「棍です。ちょっと変わったやつですけど」
もし見られたときのために事前に変だと言っておく。
「棍か、珍しいな。あんた見た目の割に結構危ないやつなのか?」
……何も言えない。
「まぁいい。俺も使ってたこともあるしな。で、ピビットとの戦い方だが——」
説明を遮るように、外から何かが崩れ落ちる音が聞こえてくる。そして後から叫び声が聞こえてきた。
「ピビットが来たぞ!」