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初めての戦闘 対スライム

 この街に入ってきた時のゲートから街の外へ出る。


 武器なんて所有していないので最悪素手かなと思ったけど、標識が、自分を使ってくれ! というので、扱わせてもらう。

 何でか知らないけど、自分が動いて攻撃するより、武器として誰かに使われないと攻撃力が低いようだ。自分自身を武器だと思ってるみたいだし不思議なやつだ。


 とりあえず近くに私でも倒せそうなモンスターがいないか探してもらうことにする。

 標識はOKと答えてバッグから出てくる。

 そうして標識は私の手を棒にくっつけた。

 あっ……。

 無言で私は標識に引っ付いた。これはあれだな、飛ぶのか。


「んんー」


 ビュンと標識は私を乗せて加速する。相変わらず風で顔は歪むが、叫ぶのはもう疲れたので少し声を漏らしつつ我慢する。

 そしてゆっくり減速していく。早速モンスターを見つけたようだ。

 停止した標識に跨りながら、モンスターがいると思われる前を向く。

 やや遠くに川が見える。

 ……あれって。


 半透明で緑色の体、中には核と思わしき丸い何かと、空気の入ってるようなぽつぽつがある。

 そう、そのモンスターはスライムだった。何だろう。スライムって言われると青いしずく型を思い浮かべるけど、何ていうかこのスライムは細胞って感じだ。ピクピクするニンジンとか捕食してそうだ。

 見た目はあれだけど、初めてのモンスターとの遭遇にまたも感動する。少し、ゲームの映像を見ているのではないかと錯覚を起こす。とてつもなく高画質。


 スライムの方もこちらに気づいているようで、地面を転がるように這いながらノロノロと近づいてくる。

 私は標識の上から降りて武器として握る。

 あの核っぽいのが弱点そうだ。

 いくらスライムとはいえモンスターを前にしているのに、自分に危機感がないということにちょっとだけ不安になる。


「よーし! 初めての戦闘だ!!」


 私はやる気満々で標識を構え、スライムへ走っていく。

 ちなみに標識はそんなに重くない。決して軽いわけではないが、振り回すには丁度いい重さだ。標識が調整でもしてくれているのだろうか。まぁ飛んでるくらいだしね。

標識の下の方の先端をスライムに向け攻撃の構えを取る。


「でりゃっっ!!っとと」


 しかし大きく振りかぶってそして振り下ろすその攻撃を、スライムは横へぴょんと跳ねて回避した。


「まぁ流石にゲームみたいにはいかないよねぇ」


 ゲームの場合だと自分の命中率、相手の回避率などが重要になってくるけど、あくまでもこの世界はゲームじゃない。確率なんて関係なく、自分の思ったように動ける。もちろんそれは敵も同じだ。


 次は相手の攻撃か。スライムがぴょんぴょん跳ねてこちらに突っ込んでくる。

 別にターン制なわけではないけど、相手の攻撃を待ってどんな行動をするのか、標識を横に構えながら観察してみる。

 私との距離がだいたい3mくらいに来たところで、スライムは一際高くジャンプして突進してきた。

 私はスライムの高さに合わせて標識を移動させる。

 元々構えておいたおかげですぐに反応できた。


「よし、これでだいじょう——ぶべっ!」


 防御できると油断していた私の意表をつき、なんとスライムは私が横に構えていた標識の上に乗り、顔にアタックしてきた。


「むぐー!!?」


 頬を中心にくっついていて、右目や右耳もふさがっているが、唇にも半分くっついていて口が開けにくい。

 私は一度標識を手放して、スライムをなんとか顔から剥がそうとする。

 うぉー! むにゅむにゅしてて剥がしにくい!

 10数秒間格闘した後、偶然核の部分を掴むことができ、やっとの思いで顔から剥がした。


「ぷはー!!この子もなかなかやるね」


 若干息を切らしながらも両手に掴んだスライムを見やる。むにゅむにゅしてて結構気持ちいい。

 何を思ったか、私は戦うことを忘れてスライムを揉み始めた。


 もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ


 少しの間揉みしだいた後、パチン! と弾くような音でスライムは私の揉み手から逃れた。

 あぁざんねん。


 そのスライムは逃げた後、何だが挙動不審な動きをしている。

 もしかして揉みすぎたせいで、体が今まで以上に柔らかくなって勝手が変わったとか? そういうことにしておこう。

 それっぽい解釈をしながら、明らかに動きが鈍くなったスライムに向けて、標識を手に戻して再び構える。


「えい!」


 今度は先制攻撃の時にならないように、薙ぎ払うように攻撃を仕掛けた。

 動きの鈍いスライムは、それでも何とかジャンプして私の攻撃を避けた。下の方が少しだけヌメッと触れたけど。

 まさかこれでもあたらないとは。私自身、正確に攻撃ができてないっていうのも当たらない理由だ。だって、傘ぐらいしか振り回したことないもの。


 しかしスライムの方から攻撃してくることはなくなったので、遠慮なく攻撃を続けることにする。

 避けられないようにジャンプ中に攻撃をしよう。まず横薙ぎの攻撃でジャンプさせて、上から振り下ろす。

 一通りの流れを頭で思い浮かべながら、三たび標識を構えた。

 よし、やるぞ!


「えい!」


 まず薙ぎ払いで上に避けさせる。案の定スライムはジャンプする。

 次にスライムが着地する前に、素早く確実に核を狙う。


「てえいっ!!」


 ……結果は失敗に終わった。いや、攻撃はスライムの中心に当たりはしたんだけど、狙っていた核のある場所とは違った。

 にしても中心に当たったんだから、飛び散るとかしないのかな。体積が減るとかさ。

 どうやらそんなことはなさそうだ。柔らかいという事はダイヤモンドよりも壊れないっ!! ということか。


 しかしそうなると決め手がない。もう一回もみもみして更に動きを悪くするとか。

 そんな私を見かねてなのか、標識に提案をされた。


「威力は低いけど攻撃してくれる?」


 悩むけどーまぁ全然当たらないし、一度標識自身に試してもらうのいいかな。

 そう伝えると、標識はわかったと言って急に動き出した。


「わっ! あっ! おっと……あっ、足が絡まって……危ないよ!」


 ビュンビュンビュンと素早く的確に標識はスライムの核に打撃を与える。私の右手は離れない。

 その標識の姿はまるで、未来の秘密な道具の、機械が内蔵されている自動で動く刀のようだ。

 だけどそれとは違って私の体は自動で動かないので、標識の動きに体を合わせるのはなかなかに難しい、そして疲れる。

 核には徐々にヒビがはいってくる。


 2〜3分経ったころ、手も足も出ないスライムをぶん殴り続けた結果、ようやく核がパッカリと割れた。


「はぁ…はぁ…はぁ……やっと、倒した……」


 その頃には私の疲労はMAXに達していた。

 標識を手放して、倒れたスライムの横に座って休憩する。

 正確に思ったところに、標識を当てられるようにするのもそうだけど、体も鍛えないとなぁ……。

 私は自分のスタミナの無さをしみじみと感じていた。

 確かに元の世界ではゲームをして、または小説やマンガでも読んでばっかりで、運動なんて体育の授業でしかやっていない。部活も文化部だ。

 ぶっちゃけ最近は受験勉強とかもあったし、授業外で運動するなんて尚更ありえなかった。言うほど勉強してないけどね。


 呼吸が安定してきた私が立ち上がって思い出したのは、スライムの感触。そして目にしたものは。

 幾度も揉みしだいたのであろう私の手のひらが、すでにそこに屑切れのように横に横たわるスライムの体を、揉み始める瞬間であった。


 もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ


「ふぅ……」


 このぐらいでいいかな。

 さて、このスライムの死骸はどうしたものか。さすがに売れそうにないけど……いや、でも結構使い道あるのかな?

 でも、私が倒せるレベルの敵の素材なんていらないか。超苦戦したけど。

 持ち帰るにしても、いくら感触がいいとはいえバッグに入れるのもなぁ。何か入れ物でも持ってくるべきだった。どこから持ってくるんだって話だけど、ギルドの人に聞けばそういうのくれるかな。


 そうそう狩猟系クエストを受けた場合だったら、ギルド運営がモンスターとか運んでくれるって言っていた。

 簡単なのでいいから、クエスト受注するべきかなぁ。

 いや、私はレベルを上げに来たんだ。クエストを受けるなら、せめてもう少し狩ってからにしよう。


 そう意気込んで狩りを続行した私だったが、そのあと標識任せにスライムを4匹倒したところで、この疲労と経験値が割に合わないことに気づき、結局クエストを受けに街に戻った。

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