ハンター登録
「おぉ……!」
この世界に来てから驚きっぱなしだ。しかし感動した時の言葉が毎回これなのもバリエーションがないか。
しかし、少し考えてみても、「わぁお!」とか「おふぅ!」とか「ほへぇ!」とかしか思い浮かばない……仮にこのどれかを使ってみても、十中八九なんだこいつって思われるだろう。
変に凝るくらいなら普通でいいか、そもそも気にする必要もないような。
ところで今感動したのは異世界の街を前に圧倒されたからだ。正面ゲートっぽいところの前に立っている。着いたのは移動し始めてから体感だいたい20分くらいかな。
ここから街に入って道をずっと真っ直ぐ進んだところ、おそらく街の中心部分だと思われるところには噴水があり、その更に先に行くとお城が見える。王国なのかな?
私はそんな中世らしいファンタジーな国を目の前にして、またもや感動していた。
この様子だと初めて武器を持つときとか、初めてモンスターと戦うときも感動しそう。
でも私が特別感動しやすいわけじゃないはずだよね。私じゃなくてもファンタジーに憧れを持ってる人なら誰でも感動するはずだ。
えっとまず地図はないか。この国の構造を理解したい。
と考えたところで突然体が引っ張られた。正確に言うと右に引っ張られたバッグに私の体が引っ張られた。これは傍から誰かが私のバッグを引っ張ったのではない。
実は今、私のバッグには標識が入り込んでいる。
どうやってはいったのか。ええ、 私もビックリしましたよ。どうやら標識は伸縮自在らしい。なので小さくなった状態でバッグの中に入っている。
ちなみに標識は体の一部をくっつけた相手とテレパシーをすることができると言っていたけど、あいだに障害物があっても少しなら大丈夫らしい。だからバックの中からでも私の考えてることがわかったようだ。
ただ、伝わる前に分散してしまって、断片的になってしまうこともあるそうな。
標識に引っ張られた方向には私の探していた地図があった。近づいてその地図を見てみる。
やっぱりさっき言った噴水は街の中心にあったようだ。端っこには合計4つの見張り台的な塔もある。
どうやらギルドと酒場っぽい場所もあるようで、この二つは隣り合っていて建物内でつながっているようだ。
他にめぼしいのは特になし。ところどころ道具屋やら鍛冶屋やらがあるぐらいだ。
もともとあるか気になってたギルドが一番気になるよね。というわけで早速ギルドに行くことにする。
向かう途中、のどが渇いてきたので私は手持ちのオレンジジュースを口に含む。
そうそう食糧問題も何とかしなければならない。できれば今日中に解決したいところだ。最悪は数日手持ちのお菓子だけで過ごさないといけないなんて事にもなり得る。
寝る場所も必要だ。外で野宿なんて急にハードルが高すぎる。ギルドがあるって事は魔物だって絶対いるはずだし、そんな所で一人夜を過ごすと想像するだけでもう……。
とにかく、異世界初日ではあるけど、今日は無理にでも頑張ろう!
噴水のある中央広場に着いた。噴水は、中央でとぐろを巻いた龍の像が上を向いて口を開けていて、そこから水が噴き出るようになっている。
ギルドも見つかった。地図通りここからすぐのところにあった。
「まずは冒険者登録でもするのかな?」
独り言をつぶやいて私はギルドに入っていく。
あまり中がどんな感じかは特に気にしていなかったが、入ってみればまさにギルドといった感じの場所だった。
木でできた丸いテーブルと椅子が何セットかあって、冒険者と思われる者たちがそこで談笑している。カウンターは3つ、受付嬢が3人並んでいる。
入り口から一番遠いからか、一番右のカウンターが空いていたので私はそこの受付嬢の前に行った。
「こんにちは。この度はどのようなご用件でしょうか?」
受付嬢が柔和な笑顔で尋ねてくる。かわいいんだけど営業スマイルなんだろうな、とか夢のないことがいちいち脳をよぎってしまった。
身長は私より若干低い。赤髪ショートの碧眼……こういうのを見ると改めて異世界なんだと感じる。
「えっと、登録をお願いしたいのですが」
「ハンター登録ですね、かしこまりました。ではカードを発行しますので、こちらにお名前と年齢、性別、そして自身を証明できる身体的特徴をご記入ください。その後は証明写真を撮りますので、記入し終わった書類を持って、あちらの部屋に移動してください」
受付嬢の返答を聞いて私はほっとした。何も考えずに登録とか言ったけど、そんなものが無かったら恥を掻くところだった。
私はこの世界について何も知らない。生活がある程度安定したら、この世界について学んでいきたい。
私は書類に目を通した。横には記入用のペンが置かれている。
そこで私は目を丸くした。話は普通に通じていたし、通りすがりの人たちの話しも理解できたので特に気にしてはいなかったが……。
「よ、読めない……」
思わず呟いてしまった。
そう、私は書類に書いてあるその文字が読めなかった。そういえばさっき地図にも似たような感じの文字が書かれていたけど……。
「あ、もしかして……文字読めませんか?」
受付嬢が聞いてくる。
これはまずいかもしれない。この見た目じゃ読み書きできないようには見えないだろうし。成長するのが超早くて年齢不相応の見た目の種族でもない限り。何か怪しまれない良い言い訳はないか。
「あ、あの……すみません、大丈夫ですか?」
私は表情を硬直させたままだったので受付嬢に心配された。これ以上待たせると確実に怪しまれるかもしれない。
その中で私は一つの言い訳を選択した。おそらくこれが一番無難で怪しまれないはず!
「あ、えっと……私、とある村の出身でして……。ここからやや遠めなんですけど、あまり外との交流もなく村でも文字を扱うことが無かったので、まだ少ししか覚えられてないんですよ……」
私的には、全く文字がわからないわけではない、と言ったところがポイントだと思う。
これでどうだ!?
「……なるほど、見たところなんというか……綺麗なのでてっきり裕福な家柄出身だと思ったのですが、どうやら違ったようですね。遠方からわざわざご苦労様でした。では、私が記入致しますのでで口頭でお願いします」
あれ……別に読み書きできなくても、大丈夫だった? な、なんだ、焦って損したよ。
それより綺麗って言われちゃった。なんでだろう、聞いたところ服装かな。確かに街行く人の服装を見ていたけど、何だか少し質素な感じだ。どちらかというと私の服装は目立つ。
私は日本から来たわけで、こういうサバイバルな異世界と比べるとデザイン重視だし、そういうことにお金を割いている余裕はないのだろう。
それこそそんなことができるのは貴族ぐらいなものかな。
とはいえ、まだ暑い10月にこっちに来た私の服装はラフなので、とても貴族には見えないとは思うけど。
「あ、わかりました。名前は鈴波鈴奈です。年齢は18歳女です。……あ、鈴奈の方が名前です。身体的特徴は黒髪黒眼……首の右側にホクロがあります」
そんな感じで私は受付嬢に答えていく。
日本と違って名前を先に言う形式かもしれないので、付け足した。
そんなところで標識が私に言葉を教えられると伝えてくる。じゃあ生活が安定した頃にでも教わろうかな。
「はい、リンナ=スズナミ様ですね。ではこれを持ってあちらの部屋へ移動してください」
案の定名前を先に言う形式だった。
私は言われた通りの部屋に入って、証明写真を撮った。当然撮影はカメラではなく、魔道具といいそうなものだった。
「では、このカードに魔力を流しこんで終了です」
証明写真を撮ったところの人にそう促された。
まりょく……魔力……?
「魔力……ですか?」
「はい、もしかしてこういったことをするのは初めてですか? 魔力というのは魔法を使える使えないに関わらず、生物や植物は全て持っています。魔力には精神や身体の情報が記憶されていて、カードに魔力を流し込みますと情報を更新することができます。誰もが無意識のうちに使っていますし、流し込むだけなら少し意識するだけでできますので」
……なるほど。ギルドの人はよく説明してくれて助かる。
私はカードに手をかざして意識を集中させてみた。なんとなく何かが流れ込んでいくのを感じる。
異世界人である私にも魔力があるんだなぁ。それともこの世界に来たことによって、私の体に影響が出てるとか。
するとところどころに文字が浮かび上がってきた。
「はい、これで終了です。スズナミ様は文字が読めないそうなので、どれが何の項目かだけ教えておきますね。他に何かわからないことがありましたら、いつでもお聞きください」
教えてもらったところ、カードに書かれているのはさっき聞かれた項目以外に、ナンバー、ランク、レベル、ステータス、発行場所が書かれていた。
どうやらこの国はグリーンデインというらしい。
ランクは1から始まって8まであるそうだ。
レベルは上限が確認されてないらしいが、私はLv1だった……安心できない。ステータスも全てが平均よりも少し低い程度の値らしい。何か突出したものがあるわけではないようだった。
登録が終わった私は、とりあえず部屋を出て空いてる席に座った。
一旦、これからやるべきことを整理しよう。
まず最初の目標として生活を安定させること。ハンターが普段どんな生活してるのかはわからないけど、私は宿屋に泊まりたい。当面の問題はお金か。
レベルを上げる必要もあるし、ギルドの仕事をするにもレベル上げは必須だ。
聞いたところによると倒したモンスターの素材を売ることもできるらしいし、今の私に一番良いのは狩りか。
一度行ってみようか。何かあったら標識が助けてくれるだろう。人任せはよくないけど。人でもないけど。
すると標識から意味が伝わってきた。
「私が強くなるのを手伝う?」
どういう意図があるのかわからないけど、どうやら手伝ってくれるようだ。
手伝ってくれるのはありがたいんだけど、というか勝手に連れてきたんだからそうしてくれないと困るんだけど、でも私はこの標識のことについて全く知らないから、いまいち信用しにくい。
私を手伝って一体なんのメリットがあるのか、どうして私なのか、もしかすると騙そうとしているのか……。
それでも何もかも全くわからない以上、標識に頼るしかないのも事実。
最初から疑いにかかっても何も進展しないと思うし、警戒はしつつも基本信じていったほうが良いか。
そもそも私がこんなこと考えてるのも標識には筒抜けなのか……?
うーん、とりあえず行こう。
ギルドの人にも言われたけど、装備というより服が服だから防御力が心配だけど行くしかない。
私は若干早歩きでゲートへ向かっていく。街の時計は日本時間でいう14時を告げていた。