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ちょっと変わった異世界転移

「な、何でこんなことに!?」


 私は混乱する頭を必死に落ち着かせようとするが、そんな落ち着きすら散らすかのように標識は飛びまわる。


 この際、このよくわからない状況について考えるのは後でいい、とにかく今は落ちて死なないようにしなければならない。

 こんな、人がゴミのように見えそうな高さから落ちたら、奇跡が起きない限りどう考えても生きてはいられない。ペチャンコだろう。

 状況もよくわからずモヤモヤしたまま潰れて死ぬとか、死んでも死に切れない。


 私は叫びながらも必死に標識にしがみつく。

 ゲーム好きの性なのか、こんな状況でもスマホやゲームの入ったバックが落ちないように抑えるのも忘れない。


 私の体は風圧を一身に受け、特に顔の皮膚が平べったく横に伸ばすように歪む。目を開けていられず、私はぎゅっと目を瞑った。


 しばらく飛んでいたかと思うと、今度はスピードを急に減速させてきた。そして標識は空中で停止し、私はというと慣性で一気に前の方に吹っ飛ばされた。

 しかし、空中に完全に放り出されるのではなく、常に標識にくっついていた右手が私の勢いを止めた。

 右手のくっついてる向きからして、今の吹っ飛びのせいで少し手首をひねってしまったと思ったが、運が良かったのか痛みはない。

 とりあえず、右手がくっついたままなおかげで落ちることはなさそうだ。


 少し落ち着いて気付いたが、標識が減速したあたりから、なんだか体がふわっとしている気がする……。

 気になって私は少しずつ目を開いてみる。そしてその目の前に広がるその風景を見て、一瞬頭がショートした。そして目をパチクリした。それほどまでに衝撃的だった。

 私はどうやら宇宙に来てしまったようだった。周りには無数の星が散らばっている。


 いや、星とは言ったがどうも何かが違うような気がする。散らばって見えるのは地球から見た星のような光だが、天体のようには見えない。いまいち遠近感も掴めない。近くにあるようにも見えて、遠くにあるようにも見える。掴めそうに見えて手を伸ばしてみても、結局手は何も掴めずに空振りする。


 じゃあ地球は? いくら標識の速度が速かったとはいえ、地球すら小さく見えるほど遠くには行ってないだろう。

 私は後ろを振り返ってみる。

 そこには一際大きな光とその中心から出る三重の輪が、大きくなるごとに私に近づく形で包みこもうとするように存在していた。

 こういうのを確かワームホールっていうんだったっけ。そんな感じだ。中心を見ていると吸い込まれそうになる。


 大丈夫、何となく頭は落ち着いてきた気がする。

 で、結局地球はなかった。もしかすると本当にはるか遠い宇宙に行ってしまったのかもしれないが、そもそもさっきから宇宙にいるのに私は破裂しないし、息もできている。正確には息をする必要がないのかもしれない。理由はわからないが、この時点で宇宙という可能性は限りなく低い。同時に、ここがどこなのかも全く見当もつかない。

 宇宙みたいなどこかとしか言いようがない。


「あー、もうぜんぜん理解できない……。」


 おもわず愚痴をもらす。といっても誰も聞いている人はいないけど。

 

 いったいどうやって帰ればいいのか。行きと同じ方法、つまりこの標識にどうにかしてもらうしかないが、どうすればいいんだろうこれ。

 私の手持ちにはスマホとゲーム機、携帯充電器、小説1冊、お金がゲーム2~3本買える程度、そして食料となるものは、少しのお菓子とオレンジジュース1本しかない。

 早く帰らなければ、私はここで餓死してしまう。早急に手を打たねばならない。

 しかし現状を把握しなければいい案も思い浮かばない。


 「えーと、あなたって生き物なんですか? それとも機械? できれば状況を説明ていただきたいのですが……」


 しかし返事はない。

 私をこんなところに連れてきたくせに何も反応がないことに少しイラッと来る。落ち着いてきたことで今度はイライラが募る。


「あの、これってどうなんですかね? どう考えてもこれって人為的ですし、何が何だか全く分からないんですけどさっさと教えてくれませんか?」


 私はやや口調を荒げて謎の多い標識をペチペチと叩く。

 そんな標識は、目を覚ましたかのように大きな一つの目のようなものを浮かばせ、パチクリさせてくる。


 その様子を見て、私は体をピクリと止める。当たり前だがあまりこの謎の標識を刺激しすぎると何をするかわかったものじゃない。


 私は少し上ずった声で、今度はずいぶんと丁寧に再度尋ねてみる。


「あ、あの、すみません。もしよろしければ、その……今のこの状況について教えてくれませんか?」


 標識は目を閉じる。

 すると標識に、人が棒に抱きついたような模様が浮かび上がる。

 さっきまでの私みたいだ。


 そして今度は標識が急に揺れ始めた。


「え? な、なに? なにが起こるの?」


 口ではそう言いつつも私はなにが起こるか察していた。

 何でそうなるのかな!?


「ちょ、ちょっと待って!? ね、とりあえず一旦落ち着いて私とお話でも……だからちょっ……! まっ! 待て! 待てって言ってるでしょー!」


 私の生死の言葉も聞かず、標識は再び高速で飛びはじめた。私は叫びながらもさっきと同じようにしがみついた。


 標識は一直線に散らばる光のうちの一つに向かっていく。

 遠近感の掴めみにくいこの空間でも、光がだんだん大きくなってくることで近づいてきてることがわかる。

 やがて光から三重の輪が現れ、ワームホールのようになる。

 そして光で目の前が真っ白になる。

 咄嗟に目を瞑ったが、そういえばこの光なぜか全く眩しくない。


 そして突然、誰かが私の背中に乗っかってきたかのような錯覚を起こした。どうやら重力が復活したらしかった。

 私は目を開く。

 光の散らばる謎の空間に来たばかりのとき同じ展開だが、私はその風景に再度衝撃を受けた。

 そこにはまるでゲームのような……ファンタジーな平原が広がっていた。その平原の上空に私たちは現れた。


 標識は今度はゆっくりと降りて地面に近づいていく。

 私の足が地につく高さまで降りてきたところで標識は、魔法のほうきにまたがるようにしがみついていた私に上から降りるように促す。

 言われるがままに……まぁ厳密には言われたわけじゃ無いけれど、私は標識の上から右手をひねらないように降りる。


「おぉ……!」

 そこまで長い間地面から離れてたわけじゃないけど、無事地面に足をつけられたことに軽く感動する。

 もしかすると死んでたかもしれないんだし、とにかく無事で本当に良かった。


 しかしここはどこだろう。でも何となくわかってきた。

 さっき入った光の中の世界がここなのは確かだと思う。

 そしてあの謎の空間に来たばかりの頃、真後ろにあった光にはおそらく私のいた世界があったのだろう。

 私はその光から出てきて、謎の空間に来たわけだ。光の中にはそれぞれの世界が存在しているのかもしれない。

 見た目も似ているし、あの謎の空間を例えるなら宇宙だろう。そしてそれぞれの世界が存在する光が天体だ。

 天体同士なんて別世界みたいなもんだが、あの空間ではまさにそうなんだろう。


 よし、ただの推測ではあるけど多分あってる。何となく状況も理解できてきた。相変わらず標識が私をこんな場所に連れてきた理由はわからないけど……。


 その標識はというと、私が状況をまとめるのを待っててくれてるのか知らないけど、下部分を地面に埋めて立ってたたずんでいた。


 いや、それよりもそんなことよりも……私の推測だと、要はここって異世界ってことだよね?

 最近、よく見かける異世界転移やつだよね!? まぁ転移した感がないのはともかくとして。まさか私が当事者になるとは思わなかったよね。創作の中だけの話だと思ってた。

 しかし創作物だと結構気苦労が多い作品も多々あるけど、とはいえこれから私の物語が始まるわけか。

 でもここはどういった世界なんだろうか。ファンタジーといえばやっぱり魔法だけどあるのかな。あってくれるとうれしいんだけど。


 私は私自身の今後の展開について妄想もとい推測をしていると、脳に何かが流れてくるのを感じた。


「正解?」


 そんな感じの言葉の意味が頭に浮かび上がった。標識の方を見てみると、浮かび上がらせた大きな一つ目で私を見つめている。


「私は触れている生物に意味を伝えることができ、そして逆にその生物が考えてることを理解することができる……?」


 なんかよくわからんが、どうやら脳に意味を送り込んできたのは標識のようだ。

 言葉を伝えるじゃなく、意味を伝えるというのがネックな気がする。事実、標識から伝わってきた意味は文章で成り立っているものではなかった。まぁ説明しにくいから、テレパシーみたいなものと考えてほしい。


「って、そもそもそんなことできるんだったら、もっと早く使ってくれれば良かったのに……」


 つまり私の推測は当たっていたということになる。ここは異世界ということだ。 私の好奇心が疼き急かしてくる。


 今まで標識にくっついていた私の手が離れ、解放された。

 それはこの世界を探索したいという私の意図を汲んでのことなのか、もうくっつけておく必要がなくなったからなのか理由はわからない。

 見たところ私、あるいは異世界の人物をここに連れてくるのが目的だったっぽいし、その理由もまだわからないけど、それより今は探索だ。


 周りを見渡してみる。あたり一面平原ではあるがやや遠くには森が、別方向に人工物らしきものも見える。


「この世界のこともよく知らないし、今のところ見当たらないけどモンスターに襲われたら大変だから、まずは街がある方に行ってみようかな」


 標識に確認を取るように自分の考えをつぶやく。標識はOKマークを作った手を映し出す。わかったとか大丈夫とかそんな意味合いだろう。

 標識の了解を得た私は街に向かって歩き出した。


 右に左とよく周りを見渡しながら、私は一歩一歩丁寧に大地を踏みしめる。そうして異世界に来たという実感を得るたびに感動する。

 思わず感嘆の声が漏れてしまう。

 おそらくこれから幾度と踏みしめることになるだろう、次第にそんな感動は薄れていくと思う。

 だから今は目一杯感動しておきたい。


 実感を得るたびに興奮で笑いがこみ上げてきて、今にもヒャッホー! とか言って走り出したくなる衝動を抑える。

 いや、それはそれでもったいない気もする。せっかく異世界に来たんだから楽しまないと。

 せめて走ろう。早く街も見てみたいしそれ程度ならいいだろう。


 ジョギング程度の速さで走り始める。草を踏むたびに聴こえてくる音が心地よい。標識も浮遊しながら私に並んでついてくる。


 ちなみにどうでもいいことだけど私が持ってるバッグはショルダーバッグなので両手を振りながら走りにくい。

 少しずつ街に近くなってきたが、まだ遠いか。

 早く行きたいなら標識に乗っていけばいいいと思うかもしれないが、私は自分の足でこの世界を見て回りたい。

 たまには頼ることもあるかもしれないが、正体不明なのもあって今のところそういうつもりはない。


「ん〜、街に着いたらまずどうしよっかな〜。ギルドとかあるのかな〜。そもそも街ってどんなところなんだろう。」


 感情が昂ぶってるせいか、つい考えが声に出てしまっていた。いろいろと想像を膨らませる。

 創作物だと冒険者だとかいう職業があって、登録すればギルドに仕事を斡旋してもらえる。ゲームだ直接困っている人から依頼を受けて、達成して報酬を貰うパターンか。

 後者はそもそもギルドが無いけど、前者の方が管理されているので楽だ。

 まぁフィクションの話だし、そんな感覚で現実と比べるのもどうかと思うけど。

 ……多分、というか決して死は珍しい事ではないだろう。


 そんなことを考えているうちにも、街の影はさらに大きくなっているのだった。

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