アンジェ視点
アルトリア国外の遠くの街で放り出された後、私は色々な街をさまよった。
家もなく、身元を保証できる者のいない小娘がつけるまともな仕事なんてなかった。
お腹が空いてフラフラしている時、身なりのいい男が私を拾ってくれたから、なんとか生き残る事が出来た。
本当に幸運だったと思う。
まあ、ヒロイン補正かもしれないけど。
本当に美人に産まれて良かったわ。
なんといってもこの世界のヒロインだしね!
少し磨けば私に敵う奴なんている訳ないのよ。
その後は色々な男を渡り歩き、彼等の援助でそれなりの生活が出来るようになった。
美しい私に惨めな生活なんて似合わないから当たり前だけど。
そうしていくうち、アルトリアとの国境の街に辿り着いた。
ここまで一緒に来た男は商人で、商品を持ってアルトリアに行くらしいから、ここで別れるつもりだったの。
レオンハルトとは会いたいけど、アルトリアに入るのは危険だと思ったから。
アルトリアには嫌なヤツらがいっぱいいるしね。
クソ女のコゼットのせいで別れることになってしまったけれど、レオンハルトは後悔するに違いないわ。
なんて可哀想なレオンハルト……
愛する二人が引き裂かれるなんて、まるで悲劇だわ。
国境の街でエリオットのイベントに遭遇したのは偶然だった。
画面越しじゃないエリオットを見たのは初めてだったけれど、特徴的な声ですぐにわかったわ。
エリオットはレオンハルトの次にお気に入りのキャラだった。
彼には裏の商人としての一面があって、ちょっとワルなところが素敵なのよね。
ゲームでは、レオンハルトの求婚を断るとアルトリアから旅立つことになる。
そこで辿り着いた国境の街で出会うのがエリオット。
いわゆる隠しキャラルートね。
エリオットの馬車がぬかるみにはまっているのを助けるのが彼との出会いイベントなの。
私は馬車のイベントをこなしてないのにエリオットが探しにきたのは主人公補正なのかしら。
レオンハルトのイベントもおかしかったし、バグなのかも知れない。
なんにせよ間に合って良かったわ。
こうなったらレオンハルトは諦めてエリオットルートを進むしかないわね。
ああ、私を許して、レオンハルト……
私はエリオットの男らしい横顔をうっとりと見つめて、彼のこと肩に頬ずりした。
「そういえば、あの時貸してくれたハンカチなんだが……」
ハンカチ?
ああ、馬車のイベントの時に渡すんだったかしら。
確か、主人公の友達の小鳥の柄なのよね。
「私のところによく来る小鳥さんを刺繍したのです。私ったら動物さんに好かれやすいみたいで」
てへっと笑った。
まあ、鳥なんて来たことないけど。
こういうゲームの主人公って大体鳥に好かれてるのよね。意味わかんない。
「……そうか」
エリオットがジッと私を見つめた。
なんだか真剣すぎて怖いくらいの眼差しだわ。
私は黙ってそっと目を閉じた。
……あれ?
いつまでたってもキスがおりてこないから薄眼を開けると、エリオットは先に歩いて行っていた。
ええっ!ちよっと待ってよ!
恥ずかしがり屋なのかしら?
んもう!
私は小走りでエリオットを追いかけた。