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「ふむ……」


エリオットは自分の腕に巻き付いているアンジェをみて、顎に手を置いて考える素振りをした。


「君があの時のご令嬢……?なんだか雰囲気が違く見えるな」


首を傾げるエリオットに、アンジェは悠然と笑った。


「雨で濡れていたせいですわ。ぬかるみにはまった馬車を起こす時に泥まみれになりましたし」


その言葉を聞いたエリオットは、少し目を見開いた後、穏やかに笑った。

一見するときつい印象の顔つきが、笑うと途端に親しみやすくなる、不思議な笑顔だった。


しかし、私はそんな事よりもアンジェの言葉に衝撃を受けていた。


なんでその事を知っているの?

たまたま見ていたのか……でも、あの時私達の他に馬車や人影は見えなかったと思う。


「そうか、疑って悪かった。それを知っているということは、間違いなく君があの時の令嬢なのだろう。是非ともお礼をさせてくれ」


エリオットとアンジェは連れ立って出て行った。


私は衝撃が大きすぎて、口をポカンと開けたままその姿を見送るしかなかった。


「レミーエ。あのご令嬢は、もしかして国外追放になった…?」


お母様が二人の後ろ姿をチラリと見ながら言う。

その言葉に私はハッと我に返った。


「え、ええ。あれはアンジェだと思うわ。アルトリアにいた時とは……随分様子が違っていたけれど」


彼女の着ていたドレスは胸元も背中も大きく開いたスリップのような形で、スカートには膝上までスリットが入っていた。

アルトリアにいた頃はしていなかった化粧はかなり濃く、安っぽいアクセサリーをじゃらじゃらとつけたその姿はあまり上品とはいえないものだった。


「まるで娼婦のような格好だったわね……」


お母様は、ポツリと呟いた。

娼婦……言葉は知っていても実際に見たことはないが、先ほどのアンジェのような感じなのだろうか。

若い娘がひとりで外国に放り出されて、真っ当につける仕事などなかったのかもしれないと考えると、その予想は当たってるように感じた。


一歩間違えたら私もそうなってしまう可能性だってあったのだ。

……自分の想像にゾッとした。


「レミーエ。貴方は私が守るから大丈夫よ。けれど。貴族ではなくなったとしても、誇りを忘れてはダメ」


お母様は私の手をそっと握ってくれた。



衝撃から醒めると、今度はふつふつと怒りが湧いてくる。


嘘をついたアンジェも腹立たしいけれど、エリオットはなんなのかしら!

暗くて泥まみれだったとはいえ、あんなに近くで話したのに見間違えるなんてどこに目をつけてるのよ!


自分でも不思議なほどエリオットに対して腹がたった。

一言文句をいってハンカチーフを返してもらおうと後を追ったが、彼らはこの宿には泊まっていないらしく行方はわからなかった。


その夜はなかなか寝付けず、新しく刺し始めたハンカチーフの刺繍が随分はかどった。







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