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私は混乱の極地にいた。
必死に頭を働かせようとしても、エリオットが遠慮なしに抱き締めてくるため息が苦しいやら恥ずかしいやらで考えがまとまらない。
私は取り敢えずエリオットを引き剥がすと、彼と真正面に向き直った。
「エリオット!」
エリオットはパチクリと目を瞬かせた後、何とも嬉しそうにニカッと笑った。
「なんだ?レミーエ」
うっ……!
なんだか見えない尻っぽがブンブン回っている感じすらする。
自分の顔が赤くなるのを感じながら、私は口を開いた。
「コホン。まず、いくつか聞きたいことがあるのだけれど。よろしくて?」
「ああ!なんでも聞いてくれ!」
ニコニコニコニコニコニコ
「……ええと。エリオットはお兄様を連れに、アルトニルに行っていたの?」
「ああ。レミーエの御父君は亡くなられているから、結婚するには兄君と母君の賛成が必要だと思ってな!」
ちょっとひとっ走り行ってきたぜ!くらいの感覚で軽く言っているが、往復で二週間もかかる道のりである。
この短期間で戻ってきたということは、行きも帰りも馬で駆け抜けだのだろう。
エリオットの底知れぬ体力に愕然とするとともに、自分のためにそこまで頑張ってくれた事実に嬉しくなる。
「そう……大変だったでしょうに。ありがとう」
「レミーエのためなら!」
ニコニコニコニコニコニコ
「あと……まあ、一応確認させてほしいのだけれど。責任をとるためだけに私と結婚するのかしら?」
エリオットの様子からそれはないとは……思うのだけれど、一応確認しておきたかった。
責任をとるために結婚などしては、お互いに不幸になるだけだ。
瞳にほんの少し不安を滲ませた私の問いに、エリオットは間髪入れずに答えた。
「それはない!責任はとるが、レミーエだから結婚したいんだ!むしろ口実ができ……なんでもない」
最後の方になにか不穏な言葉が聞こえたが、お母様の目がギラリと光ったのをみたエリオットは即座に口を閉じた。
「そう。それなら良かったわ。あと、一番気になるところ何だけれど」
「ん?」
キョトンとするエリオットに向けて、私は真剣な顔を作った。
「……殿下って、なに?」
「殿下は、ほら、あれだよ。……敬称?」
「そういうのじゃなくって!エリオットは何者なの?!」
とぼけた顔を張り倒してやりたい気持ちを必死で抑え、私は声を大きくした。
「あー……言ってなかったっけ。俺、現ルメリカ国王の弟なんだよな!ハハッ!」
なんだか目眩がしているのは体調のせいではないだろう。
だって、こんなに王族らしくない王族は見たことがない。
まあ、アルトリアの王太子殿下もタケノコを堀ったりしていたけれど。
口を開けたまま惚ける私に向かって、エリオットは焦ったように言い募った。
「ごめんな!言うの忘れてて。でも王弟って言っても実質商人の仕事しかしてないし、そもそも各国を廻ってるせいでルメリカにもほとんどいないし」
たまたま兄貴が王様だってだけだよ!よくある話だろ?と続けたエリオットを私は思わずはたいていた。
「あるかーー!!」
スパーーン!
私の扇がエリオットの頭にクリーンヒットした。
私ったらなんてことを!
こんなんでも王弟殿下なのに。
お母様は平然と紅茶を飲んでいるが、お兄様の顔色は真っ青だ。
そのお母様は、しょんぼりと頭をさするエリオットに対して平然と言い放った。
「取り敢えず、湯浴みをなさったらいかがかしら。湯殿の準備が出来たそうよ」




