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ぬいぐるみが大きすぎて人混みでは邪魔になるため、近くだというエリオットの滞在している宿に置いていく事になった。
後日、銀のぶどう亭に届けてくれるそうだ。
エリオットの滞在している宿……『銀狐の尻尾亭』は広場を出てすぐのところにあった。
この街だけでなく、アルトリア国内のほとんどの宿、そしてルメリカの一部の宿にはそれぞれ宿名に金、銀、銅の名前が付いている。
これは宿の格付けになっていて、銅から金に向けて宿のランクが上がっていくのだ。
『金』が名前に入っている宿は王国内でも大きな街にしかない。メディウスには『金』の名が付く宿は一軒だけあり、お兄様が宿を押さえようとしてくれたのだが、祭りの期間中は予約でいっぱいだったのだ。
そして、メディウスにある『銀』の宿は三つ。
『銀』の宿と『銅』の宿の間には大きな隔たりがあり、『銀』からはかなりの高級宿の扱いになる。
何が言いたいかというと、エリオットは相当なやり手商人だということだ。
商人は買い付けなどに赴く際でも宿泊費は出来るだけ節約する事が多いと聞く。
それを考えないで済むクラスとなると……大量の飴のプレゼントからもなんとなく想像していたが、かなり大規模な商会を経営しているのかもしれない。
ダーツの屋台から、銀狐の尻尾亭は本当に近かった。
なにせ屋台のある広場を出てすぐのところにあったのだ。
「ちょっくら預けてくるから、そこのティールームで待っていてくれるか?歩き疲れたし少し休もう」
エリオットはティールームの方を指し示すと、階上へと階段を上がっていった。
銀狐の尻尾亭は、銀のぶどう亭に勝るとも劣らない素晴らしい宿だった。もしかするとこちらの方が上かもしれない。
床に敷かれている絨毯にはチリひとつなく、調度ひとつとっても上品で高級感に溢れている。
とくに受付にある花瓶は素晴らしいものだった。
花瓶の白い地には色あざやかな彩色で文様が描かれ、金で縁取られている。持ち手は優美なカーブを描き、すぼまった花瓶の首から口に向かって花弁のように広がっていて、花瓶自体がひとつの花のようにもみえる。
この花瓶は恐ろしく値打ちがあるものだ。
恐らく軽く家が一軒くらいは買えるくらいは値がはりそうだ。
「なんて素晴らしい花瓶……」
「そうでございましょう?お嬢様はお目が高くていらっしゃる」
思わずそう呟いた時、見知らぬ声に突然背後から話しかけられ、私は飛び上がって驚いた。
慌てて後ろを振り返ると、思ったよりも近い位置に上品な老婦人が佇んでいた。
彼女は穏やかな笑みを浮かべ、嬉しげな声で続けた。
「驚かせてすみません。私もその花瓶が大好きなもので、嬉しくなってしまって」
老婦人の穏やかな空気によって、知らず私も笑みを浮かべていた。
「ええ。とても素敵ですわね」
「うふふ。これは、ルメリカの王弟殿下が……」
その時、老婦人の話を遮るようにエリオットの消えた階上から声が響いた。
「離しなさいよ!いつまでここに閉じ込めておくつもりなの?!」
私はその聞き覚えのある声に、ビクリと体を震わせた。




