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 私の名前はレミーエ。


 ドランジュ公爵家の令嬢だった。


 今はもう、ただのレミーエでしかないけれど。


 私は幼い頃から、大人になったら自分は王妃になると思っていた。

 父や母を始め、周りの大人達も私のことを将来の王妃として扱っていたし、私自身もそれを当然だと受け止めていた。


 もっとも、幼すぎて王妃がなんなのかもわかってはいなかったが。


 アルトリア王国の王太子殿下であるレオンハルト・アルトリア様に出会ったのは、私が五歳の頃だった。


 父の公爵に連れられて初めて訪れた王宮で引き合わされたのだ。


 レオンハルト殿下は、当時からそれは綺麗な少年だった。


 その輝く銀髪とエメラルドよりも美しい瞳を見た私は、ひと目で恋に落ちたのだ。


 私は、この方のお妃さまになるのね。

 なんて幸せなのかしら。

 私は殿下をうっとりと見つめた。


「絵でみた、天使みたい……」


 気がつくと私の口から、感嘆のため息とともにそんな言葉が漏れていた。


 レオンハルト殿下はつまらなそうに私をチラリと一瞥した。


「……へんな頭だな。グリグリだ」


 ガーーーーーーーン


 私は鈍器でぶん殴られたかのような衝撃をうけた。


 私の髪型は物心ついたときから既に縦巻きロールだった。

 私はこの髪型がそこまで嫌いなわけじゃないけれど、好きでしているわけでもない。


 この髪はお風呂上がりに髪が乾いた瞬間からギュンギュンに巻きまくり、延ばそうが引っ張ろうが直ることのない頑固な癖っ毛なのだ。


 どう頑張っても他の髪型にすることができない。

 だから最早、私の周りで髪型について触れるものはいなかったし、私も気にしなくなっていた。


 しかし初めて恋した相手に言われた言葉は、私の心にグッサリと突き刺さった。


 へんな頭…

 へんな頭…

 へんな頭…


 あまりの衝撃に茫然とした私は、その後どうやって屋敷に帰ってきたのか覚えていない。


 後からお父様に聞くと、レオンハルト殿下の前で彫像と化した私を暫く眺めていた後、殿下はふいっとどこかに行ってしまったらしい。


 その日の夜、私は侍女に頼んで髪を温めて延ばしてもらった。

 今までにも試したことはあったが、暫くするとすぐに元の縦巻きロールに戻っていた。


 だが、今度こそいけるかもしれない。

 私は真っ直ぐに延ばしてもらった髪で眠りについた。


 朝目が覚めて、私はまた絶望を味わった。


 いつも通りのぐりんぐりん。

 いつもより少し元気がない気がするけれど、やっぱりぐりんぐりんだった。


 それから私は髪型を変えるべく、冷やしてみたりいっそ横巻きロールにしてみたりと様々な努力をしてきたが、どれも徒労に終わった。


 いつしか私は髪型を変えることを諦め、縦巻きロールとともに生きていく覚悟を決めたのだった。


 より豪華に、美しく、咲き誇る縦巻きロールにしてみせる。

 そしてこの縦巻きロールに似合う令嬢になってみせると心に誓ったのだ。


 王太子殿下とはそれから何度も会う機会があり、レミアスお兄様とともに遊ぶこともあった。

 殿下は相変わらず美しく、私は恥ずかしくて思うように話せないことが多かったけれど。


 十歳になる頃には私にもそれなりに親しい令嬢も出来てきた。


 侯爵令嬢のジュリアや伯爵令嬢のエミリア、子爵令嬢のマリエッタなどはよく我が家に来て遊ぶことが多かった。


 伯爵令嬢のコゼットはぼーっとしている事が多く、何を考えているのかわからないと思っていた。

 ほのぼのした人柄はなんとなく安心感を覚えるが、貴族令嬢としてはあの雪だるまのような体型とゴテゴテしたドレスはいただけない。


 そのため、私達の最大の関心事であるファッションなどの話に加わることはほとんどなかったし、他の貴族令嬢達からは軽く扱われるような存在だった。


 今思えば恥ずかしい事だが、正直にいえば私も少し軽んじていたと思う。

 だが王妃になるものとして、体型で差別するなどあってはならないことだとあえて仲間にいれていた。


 そんな日常に変化が訪れたのは、コゼットが主催したお茶会での事だった。


 その日のお茶会にピンク色の髪をした少女が入り込んだ事を境に、コゼットはほとんどお茶会などに出なくなった。


 風の噂でダイエットしていると聞いたが、もともと存在感の薄い彼女のことを気にする者はあまりいなかった。


 勿論、私もそのうちの一人だった。


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