二人の日常 2
吾平は直ぐに食器の片付けをする。
その間、彩子はホールのブルーベリーミルフィーユの入った箱を持ち出した。
「じゃあこれ。頂くわね」
「ちょっと待って。紅茶をいれてあげるから」
「あっくんはどうするの?」
せっかくだから1個だけ貰おうかな?」
「いいわよ」
「ありがとう」
吾平は一度手を止めて手を洗い流し、紅茶を入れる。入れたら、できるまで皿洗いを再開した。
紅茶が出来るのと洗い物をほぼ同時に終わらせた。
そしてリビングのテーブルに紅茶を持っていく。
ブルーベリーミルフィーユを袋から開けて、均等に8つに切り分けてから皿によそい、彩子はほうばる。
「じゃあ俺も一つだけもらうね」
吾平はこう言って一つを取り出して食べる。
「…美味しかったあ」
彩子は3つほど食べてやめた。
「残りは?」
吾平が質問する。
「見て分からない?明日の楽しみにね」
「そうか。ホールで買ったもんだしね。じゃあ、残りは冷蔵庫にしまっておくから」
そう言って冷蔵庫にしまった。
少し、ふたりで他愛のないTVをみた後、彩子が先に風呂に入り、その後で吾平が入る。
その後、寝室に行きそして二人は眠りにつく。
だが、直ぐには眠れない。
吾平は、この間の彩子にしてしまった事を振り返った。
今までの出来事や生活を振り返り、考えていくとどれだけ彩子に甘えて支えられて来た事か。
まず、あの時彩子とぶつかって居なかったらどうなっていただろうと想像する。
間違いに。矛盾に気がつく事なく、他のひとに言われるまま、特に考える事も無く
楽なつもりで日々を過ごしていたかも知れないのだ。
別の意味で摂流薄教団のドレイとして。
いつか行き詰まり、その先にあるものが見える事なく、ただただ日々を過ごすか、あるいは悲観的になり自らの命を断つ。
なんて事もあり得なく無かったのだから。
そんな事を考えると、吾平を論破して目をさまさせてくれた彩子に凄く感謝した。
いや、論破して疑問を抱かせ考える力をくれたというべきだろうか?
僕の場合は当時よっぽどの事が無いと興味を持たなかったのだから
彩子の存在と言うのはそれだけ大きかったと言う事だ。
とにかくインパクトが有った。
だからこそ興味を持って入りこもうとした。これがきっかけだった。
あの時、誓願のために強引に引き止めたのは俺だった。
俺の方は、彼女に摂流薄教団の信者になって貰うために仏法を伝え、説得して信者になってもらうつもりでいた。
だけど彼女のほうが知識が上で。
忘れられなかった。
そして逃がしたくも無かった。
けれど論破され、拒否されて俺の前から居なくなった。
でも一度居なくなった事が俺にとって良い方へ動いた。
何せ、摂流薄教団をやめる事が出来たのだから。
それから、コレは本当に偶然であり必然?
働いている会社が同じだった事もあって俺は、彼女に再アプローチ出来たのだ。
今度は摂流薄教団の会員として出なく、特に信仰を持たない者として。
こんな事を考えていた。
そして、寝そべってはいるのだが、まだ彩子は起きていると思い質問した。
「彩子起きてる?」
「うーん?」
「ちょっと聞きたい事があるんだ」
「なぁに?」
「俺さ。彩子には本当に感謝してる。出会い、あの時論破されて無かったら今のこの環境も、そして生活も無かったと思うんだ。
ずっと影で支えてくれててさ。本当に甘えてた」
「何よぉ?改まってぇ」
「あのね。今でもふと、思う事があるんだ。『なぜあの時あそこまで俺をこてんぱんに論破したのか?』ってさ?」
「…それは、結婚式が終わった後に初めて話したハズだけど?あたしの両親は結婚式に出てくれたけど、いまの母親は義母なんだから。
あたしの生みの親は宗教が原因で別れたの。中学生の時だったわ。
お父さんは、宗教に染まらずに済んだけど大変だったんだから。母親に日蓮の教学とか結構叩きこまれて。
それから、2年位してお父さんは再婚。宗教に染まって居ない人をみつけれたのよ。
お父さんが再婚してから間もなくして、何故か摂流薄教団の人に勧誘されたわ。
その勧誘者がクラスメートで、あたしが日蓮を師とするのは同じだけど、違う所の教団の2世である事をどこかで知ったのね。
そこをついてきて勧誘して来て言い争いにもなったんだぁ」
「えーと。どっちが『正』か『邪』かってそんな話?」
「そうだけど、その相手がその時からあたしに難癖をつけてきてさー」
「えっ?どんな?」
「あたしねぇ。他の人より性長が早かったのよ。それで、身体の部分でバカにされて」
「ん?身体の部分?性長?」
「隔世遺伝ってやつかなぁ。あたし当時から胸が大きくて。それがコンプレックスだったの」
「まさか…。いや、これ以上は言っちゃあいけないな」
「何?」
「いやぁ、独り言。」
吾平は思った。
差別発言の「巨○の女は○カ」
これを彩子は相手に言われていたのだと。
「それでね。見返すめに凄く勉強をしたのよ。それで、その相手を論破してから暫くしたら別の摂流薄教団の会員がまた言って来たりして。
あっくんは3人目の人だった。
最初、論破したら『この人もか』って思ってこてんぱんにして、ざまあみろって思ったけど、あっくんは違ったんだよね。
食い下がってきたのはうざかったけど」
「………」
「何よぅ。黙っちゃって」
「ちょっと傷ついたなー。けれども彩子にあそこまでいわれなきゃ本当に流されたまんまだったからねー。感謝、感謝。
まあその後で事件が起こって、辞める事できたけども。そう言えば、彩子は京都本社へ勤務する数ヶ月間はどうしてたの?」
「それはね…」
|(彩子との話は続き、本社に来る前にも親といろいろあった事、そして親から離れるためにどうしたのかが話されたが…省略します)
朝。
休日にもかかわらず早く吾平は目がさめた。
頭の直ぐ後ろにある目覚まし時計に手を伸ばし、つかみ取って時間をみると
時刻は6時半位を指している。
普段はいつもこの時間に目覚まし時計のアラームを掛けるので、完全に習慣づいたのだ。
「しょうがない。起きるか」
吾平は、彩子を起こさないようにそっと起き上がると、洗面所に向かいそして、顔を洗った。
そうしてからいきなりだが台所に向かい、朝食の用意をしようとする。
皿を取り出し、パンと卵、マーガリン、レタス、ハムを冷蔵庫から取り出す。
ガステーブルに向かうとそこには鍋があり、昨日のシチューが残っていた。
「彩子は単に作り過ぎたのかな?」
と思った吾平だったが実際は違くて、彩子が今日の朝の為に作り置きして置いたものだったのだ。
これに気がつかない吾平って一体。
でも、吾平も少し考えてようやく気が付く。
「そうか。この朝食のための作り置きか」
吾平はコンロの火をかけ、シチューを暖め直す。
そして手際よく目玉焼き用プレートに薄く油をしいて卵を落とし、トースターに入れて6分20秒にセットする。
そしてホットサンドも作る。