プロローグ
「少女と飛竜が神について知っているんだね。イリス」
青白く光る機械に問い掛けた陰は、画面に浮かび上がった文字を一瞥して、無意識にそんな事を口にした。
「そうか、これで全てが分かるのね。このばかばかしい争いも終わるのね」
陰の隣に居た陰がはしゃいだ声を上げた。
「やっと、君に触れられる」
「もうすぐ、貴方の側に行ける」
陰と陰が交わす歓喜の響きに、中央に居座るPCイリスは、無機質に資料を引き出している。
神官対政府の神がいるか居ないかの争いを解決へ導く一筋の光を見つけた二つの陰は、PCイリスの画面に触れて愛おしそうに互いの名前を呼び交わす。
「アイリ」
「シュイリ」
二つの陰は立体映像のようだ。
PCイリスが機能を停止した途端に二つの陰は跡形も無く消え失せる。
沈黙が降りた世界に、別の人間が入って来る。
「イリス。これが君の出した答えなのかい」
白衣の青年は沈痛な顔でイリスを見上げたが、PCイリスからはなんの反応もない。
ただ、白い画面にイリスが弾き出した答えが浮き出ているだけだった。
博士は、画面に触れた。
「とんでもない答えだね。世界がひっくり返る」
呟いた博士に対して、空間は沈黙を貫き通す。
画面をなぞる指が、ふとボタンに触れた。
するとどうだろう、消えていたランプが一斉に光を帯び、イリスの画面から文字が消えていく。それを眺めながら、軽く肩を竦め博士はぼやく。
「頼むよイリス。君に狂われたら、世界は終わるんだ」
先程の空間での立体映像が織りなした会話を知らない博士は、口元に皮肉な笑いを浮かべる。
「誰だい。彼女をこんなにしたのは」
怒りに満ちた響きを漏らした後、博士は椅子に座り直し、メンテナンス作業をし始めた。 キーを叩く音と雨音が重なり、沈黙を一際賑わせた。