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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

作者: うみぼたる
掲載日:2026/03/30

暗くなり始めた山の中に、俺の足音が孤独に響く。


「ざっ、ざっ、ざっ、、、」


一歩、また一歩と音の軌跡が刻まれてゆく。

一体どのくらい歩いたのだろうか。

代わり映えのない景色のせいで感覚が麻痺している。

1時間、いや2時間は歩いただろう。

そろそろ限界だ。

休める場所を探そう。

また少し歩いていくと、大人がある程度歩き回れそうなサイズの洞窟を見つけた。

しめた、ここならば山の中で一晩過ごすのに最適な場所と言えよう。

疲れきった足を休ませるため、俺は洞窟内で寝転がった。


「一体どうしてこんな事になってしまったんだ......」


俺は今日、初めて入った大学のサークル仲間と登山をしに来ていた。

途中までは、普通の登山と変わらなかった。

世間話や、どうでもいい話をして笑い合いながら登山を楽しんでいたんだ。

事態が急変したのは、昼を過ぎ山の中腹に差し掛かった時のことだった。


「助けてくれぇ!熊が出た!」


その声と共に草木を掻き分ける音がして、

正規ルートから外れた獣道の方から影が2つ飛び出してくる。


「ガルルルルル」

「ひっ」

「やばい!みんな逃げろ!」


その二つの影が人と背丈が七尺もあろう熊である事がわかる頃には、俺たちは悲鳴をあげ、散り散りになって逃げ出していた。

熊は俺たちの元いた場所へと突っ込んでいく。

その姿を尻目に本気で走った。

走って、走って、走って、走って、

不意に地面が崩れた。


「あっ」


情けない声を出しながら、俺は空中に放り出される。必死に手足をもがいてみせるが案の定なんの意味もない。

20mは下を流れるであろう川を見たのを最後に俺の意識はぷつんと途切れた。

―――――――――

幾許か時が過ぎた。

俺は、川のほとりで目を覚ます。

最低限周りの状況を把握しようとするが身体中が痛い上に、言うことを聞かない。それもそうだろう、あの高さから落ちたのだから。

俺は、最低限痛みが引いて動けるようになるまでじっと待った。

ようやく動けるようになった頃には、日が沈み掛け綺麗な橙色が川の中を泳いでいた。

立ち上がり、周りを見回してみるが相当流されたようで見覚えのない景色だけが広がっている。


「参ったな...いや、生きていただけ儲けものか」


しかし、焦る必要はない。

サークル仲間か救助隊に連絡を取れば直ぐにとは行かずとも助けられはするだろう。

そんな事を思いながら連絡を取ろうとスマホを取りだしてみる。

電源ボタンに触れる。つかない。

押す力が弱かったか?ならば次はもっと強く。

電源ボタンを押す。つかない。

途端に悪寒が俺の背中を襲った。

「スマホが壊れた」

仲間と合流する事も救助隊を呼ぶこともできない。

手元のスマホの電源を入れようと再度試みるがやはりと言うべきか画面は静寂を保ったまま俺の顔面を映し出している。


「まじか」


しかし、立ち止まっていてもどうしようも無い。


「確か、山で遭難したら山頂を目指せばいいはずだ。」


俺は、ふと思い出し上へ上へと歩き始めた。

そして、今に至る。

辺りはすっかり暗くなってしまい、十寸先もはっきりとは見えない。

こんな状態で歩き回っても、もっと遭難するだけだ。

一度バッグの中身を確認してみようと、持ってきたものを全て地面へとぶちまける。


「缶詰が2つに菓子パンが1つ、それに水が2本か......もって一日、さらに切り詰めて2日と言ったところか」


正直心許ない。

連絡手段が無くなり、自分がどこにいるのかすら分からないこの状況ではいつ助けが来るかなんて分かったものじゃない。

クソがっ。と過去の自分に悪態をつきながら地面へと寝転がる。

乾いてヒンヤリとした地面が少し心地よい。


「眠い......」


何時間も歩いていたのだ。

重なり合った疲労に押されて俺は意識を手放した。

―――――――――

幾許か時が過ぎた。

突然目が覚めた。

辺りはまだ暗く、いやに静かな夜が続いている。

体内時計によれば、今は午前三時だ。

こんな時間に起きてもな......

もう一度寝ようとするも、どうにもうまく寝付けない。

踏んだり蹴ったりだ。

俺は、洞窟から出て叫ぶ。


「あぁ、もう!俺ばっかりどうして!何やっても上手くいかねぇ!!」


口から今まで抑えていた不満が堰を切ったように出てくる。

こんなの叫んでも何も変わらないのに、叫ばずにはいられなかった。

ひとしきり、叫んだ後しゃがみこんで嗚咽を堪える。


「俺だって、必死に生きてるのに……」

「.........い、あ...村......全て......に」

「!?」


突如として、正面の闇の中からナニカの声が聞こえてきた。

掠れていて上手くは聞き取れないが、誰かいるという事実が俺を希望へと導いてくれる。


「誰かいるのか!?俺、今遭難しちゃってて......助けてくれ!!」


だが、反応がない。


「だ、誰かいるんだろ!返事してくれよ!」


もう一度、精一杯の大声で叫ぶ。

これが助かる最後のチャンスかもしれない、どうにかしてものにしなければ。

しかし、叫んだ後に何か嫌な予感がした。

何かは分からないが凄くこう、なんて言うか......

それに答えるかのように、


「あひゃひゃアヒャアヒャあひゃひゃヒャひゃ」


と到底人間とは思えない笑い声が辺り一帯に響き渡る。

それと同時、信じられない速度で何かが地面を這う音をたてながら近づいてくる。


「ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル」


どんどん近づいてくる。どんどん、どんどん、どんどん、どんどん。

人に会いたいと思っていた気持ちはどこへやら、得も言えない恐怖に俺は狩られていた。

一体何がこっちに向かってきているのだろう。

仮に、人だったとしても、まずまともな奴ではないだろう。

俺は、何が来てもいいように身構える。


急に音が止んだ。

また、辺りは静寂に包まれた。


「シュー、シュー」


何かが背後から顔に触れる。頬を這うように、波を打ちながら口の方へと近づいてくる。

生暖かく気持ち悪い。

俺は、恐る恐る視認してみる。

先が割れ蛇のような長い舌が這いずり回っていた。


「うわあぁぁあああ!」


俺は前の方へと全速力で飛ぶ。

なんなんだ!?今のは蛇なのか?

それにしては長すぎないか?

俺が横を向いた時も蛇の顔は見えなかった。

じゃあ、一体あれって......?

俺は、恐る恐る後ろを振り向いてみる。

そこには……何もいなかった。


「え?なんで?」


全部幻覚だったのか?

いや、俺は確かに顔を触られた。

じゃあ、どこに。

怖がる気持ちを抑えながら、洞窟の中に戻る。


「ん?なんだあれ?」


洞窟の奥には、先程までなかった小さな賽銭箱?のようなものが珍場していた。

俺は、警戒しながらも近寄ってよく見てみる。

なんだろう、この箱。さっきは見落としていたのかも知れない。

箱を覗き込んでいると、背後から先程感じた禍々しい雰囲気を感じる。

それに驚いて、慌てて立ち上がった拍子に箱に足を引っ掛けて倒してしまう。


「バア」


突然、俺の目の前に顔が現れた。

10代の女子と蛇が融合したようなその顔面は、到底この世の理では説明ができそうにもなかった。

俺は驚きと恐怖で意識を手放した。

―――――――――

目を開ける。

俺はブランコを漕いでいた。

周りを見渡せば、先程までとは打って変わったごく普通の公園の光景だ。


「あれ...?さっきのバケモノは...?」


立ち上がって、辺りを見回すがバケモノはおろか、ひとっこ一人いない。

それになんだか見渡せる範囲が狭くないか……?

身長が低い気がするし、手も小さい気がする。

まるで自分が子供になったような......。

とにかく、確認する必要がある。

急いで公園の公衆トイレへと駆け込み、鏡で自分の姿を確認する。

ジャンプをしないと鏡に自分が映らない。鏡から少し離れて、再度確認する。

思った通り。子供だ。

鏡の前にいるのは、一人の子供。

それも、小学校時代の僕だ。

そうか、これは夢だ!

さっきの山の事も、全部夢だったんだ!

そう気づいた瞬間に、緊張が解けてドッと安心が込み上げてきた。


「なんだぁ……よかったぁ。死ぬかと思ったよ。」


緊張が溶けると色々と物思いにふけるもので、「この頃は楽しかったなぁ...」とか「お母さんによく怒られたなぁ...」とか感傷に浸っていく。


鏡の左下を見る。

あの頃は、成績良かったのにどうしてこんなに落ちぶれたのかな......。

鏡の左上を見る。

あの頃は、モテモテだったのにどうして今は女性に近寄っただけで避けられるんだろう......。

鏡の右上を見る。

あの頃は、よく馬鹿をやって迷惑かけたな......。

鏡の右下を見る。

いた。

「いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。いた。」


茂みの隙間から、あの恐ろしい顔をニタニタさせながら。

頬まで避けているであろう口から赤い何かと僕の頬を撫でた長い舌を垂れ流しながら俺の方を見つめている。

どんどん近づいてくる。

どんどんどんどんどんどん..................

草木に隠れ、見えていなかった下半身が顕になる。

蛇だった。巨大な蛇。

口がパカっと開き、今にも襲われそうというところで、

俺は卒倒した。

―――――――――

幾許か時が過ぎた。

長い眠りから覚める。

先程までの公園とは打って代わり、真っ白な天井。

ここが病院である事に気がつくのにそう時間はかからなかった。


「良かった!目を覚ましましたね!」


横では、良かったと胸を撫で下ろす看護師。

二度あることは三度ある。

ヤツは、絶対”いる”。

辺りを確認しようと、勢いよく身体を起こそうとするがなにかに引っかかって上手く起き上がれない。


「あれ?起き上がれない...?」

「安藤さん!安静にしてください!あなた生きてるだけでも奇跡なんですよ!?」

「......へ?」


俺はその声に釣られ、身体に視線を落とす。

俺の身体には、無数のチューブが繋がれ訳の分からない液体が流れ込んできている。

手の甲には、今までなかった禍々しい形をした痣があった。

これはどういう状況なんだ?

その疑問に答えるかのように病室の扉が空く。


「うっ!」


俺はヤツが来ると思い、布団の中に隠れようとしたが遅かった。

今までは危害を加えられてこなかったが、

次に会う時はどうなってしまうか分からない。

目が合ってしまう......

この一瞬が永遠に感じられた。

しかし、入ってきたのは齢六十程の老医者だった。


「安藤さんあなたはね、道のど真ん中に倒れていたんですよ。轢かれそうになったところで運良く運転手の方が見つけてくれて......運が良かったですね。」

「道...?轢かれる...?何を言っているんですか?ヤツが来る前に逃げなきゃ......!」

「ちょ、だから起き上がらないでください!まだ危ないんだから!」



俺は、逃げるために再度勢いよく身体を起こすが看護師に無理矢理止められる。

俺がパニックになっていると思ったのだろう。

諭すように医者は優しく話しかける。


「いいですか?ここには、あなたの言っているそのバケモノもいません。ここは、病院です。安心してください。」

「山にも公園にもいたんだ!ここにだっているに決まってる!どうして逃げさせてくれないんだ!ヤツはきっと人間じゃない!蛇と人間を混ぜたようなあの顔が脳裏から離れてくれないんだ!」


困り果てたように顔を見合わせる医者と看護師。


「蛇と人間が混ざり合った顔?」


また、扉の方から声がした。

そこには、いかにも占い師という老婆が一人たっていた。


「そ、そうだ!山で蛇の舌が俺の顔を撫でて......!

後ろに蛇と人間を混ぜた顔をした女がいたんだ!公園にもいた!この痣が証拠だ!」


捲し立てるように言葉を紡いでいく。

その言葉を「うんうん。」と頷きながら聴いていた老婆の顔がみるみる青ざめていくのがわかる。

それでも、顔に出さないように必死に抑えているのがヒシヒシと伝わってくる。

俺の話が終わり、重い雰囲気が流れる。

老婆は心を落ち着かせるように深呼吸をしてから話し出す。


「いい?よく聞くのよ。今まであなたの言う”バケモノ”を見ていたのは、夢の中なの。今は現実。大丈夫よ、あのバケモノはいない。」

「そんなこと言ったって......!」

「大丈夫...。大丈夫...!貴方に危害を加える悪霊ではないのよ!」


そうは言っているものの言動とは反対に老婆の腕、唇、瞼は依然として震えている。

なにか恐ろしいものを直視しているかのように。


「その痣は、バケモノがあなたにマーキングをしたものなの。このまま放っておけば、あなたは……死ぬわ。」


俺は、その言葉を聞いて絶句した。そこまでのものだったなんて。


「で、でも助かるんですよね……?こうやって話してるんですもんね?」

「ええ、ええ。大丈夫よ。神社でしっかりとお祓いをすれば、離れていきますからね。

今は完璧なお祓いは出来ないんだけど、これを持っておけば一時的には締め出せるから。」


そういいながら老婆は、俺に何かを渡してきた。

それを受け取った瞬間、頭の中に断末魔のような悲鳴が聞こえ、手の甲にあった痣が消えた。

「よし、これで大丈夫......なはず。でもこれは、一時的なものだから。病院から退院したら......ううん、今すぐにでも必ずここに連絡するのよ!いい?絶対!」

「わかりました。」

「じゃ、私はこれで。お邪魔しました......。」


老婆はそれだけ言い残すと、逃げるように部屋を出ていった。

ポツンと残された俺は、受け取ったお守りと綺麗になった手の甲を交互に眺めてみる。

ごく一般的なお守りと見た目は変わらないが、コレを持っていると何故だか安心する。

痣が消えたところを見るに、偽物という訳でもなさそうだ。


「一眠りしたら、連絡してみるか……。」


俺は、最後まで警戒をしながらも何処かでは安心して、また眠りにつく。

―――――――――

目を開ける。

目の前には、一人の老人が何かを手渡して来ようとしている。

俺は、瞬時に状況を把握する。

ああ、これは高校の卒業式だ。

この老人は校長で、手渡されるのは卒業証書だな。

(どうした?早く受け取りなさい。後が待ってるんだから。)

そんな校長からの視線に押され、俺はおずおずとよく分からぬまま卒業証書を受け取って、段の下へと降り自分の席に戻る20mを歩いている中で思う。

あの老婆が言っていることが正しければ、ヤツは夢の中に出てくるはずだ。

そして今は夢の中。本来ならばいつ出てきてもおかしくない。

でも今の俺には、あのお守りがある。あの痣を消したお守りが。

俺は席に深く座り直し、この夢を楽しもうと何処かワクワクしていた。


「島崎 透」

「はい!」

「進藤 慶次」

「は〜い!」

「高見 剛」

「はいっ!」

「蟋ヲ蟋ヲ陋�楴」

「騾�′縺輔↑縺�」


「は?」


急に言葉が聞き取れなくなって反射的に顔を上げてしまう。

それが間違いだった。

たった今、証書を受け取った生徒の顔が180度回転して......


「バア」


ヤツがいた。

首がありえない方向に曲がっているくせに、ピンピンとしている。

しかし、どこか様子が変だ。

これまでの笑っていた顔はどこへやら。般若のような表情が顔に貼り付けてあった。

恐怖で身動きが取れない。

なんでそんなに怒ってるんだ、夢から追い出そうとしたからか?

もう俺に構わないでくれよ!

手の甲に痛みが走り確認すると、さっきの痣がより鮮明に浮き出てくる。


「え……」


手に持っていたお守りが、ドス黒く変色している。

それを見計らったように、ヤツは壇から飛び降り、手足をめちゃくちゃに振り回しながらこちらに近づいてくる。

ヤツの手が俺の視界を遮ったところで、

俺の意識は闇の中に沈んで行った。

―――――――――

幾許か時が過ぎた。

見た事のある真っ白な天井。

そうか、夢から覚めたのか。

そうだ、お守りは……⁉︎

手の中を確認すると、先程まで持っていたお守りは消えていた。

そればかりか体中に、あの痣が伝播していた。


「ひっ……!」


俺は、なりふり構わず体についているチューブを振り解き、紙に書かれた番号に電話をかける。

ピリリ…ピリリ…ピリリ……

電話のコール音の一音一音が、気が遠くなるほど長い。

人生で一番長い十数秒が過ぎた。

ガチャ…。


「はい、もしもし月城神社ですが...。」

「た、助けてくれ!ヤツが...ヤツが逃してくれない!殺されるんだ!老婆にあなたのとこを紹介されて......。」


相手の返事を待っている暇はない。

電話が繋がった瞬間、被せるように声を荒げる。

自分でもわからない支離滅裂なことを並べ立てているのはわかるが、今はそれどころじゃない。

一秒でも早く、あの化け物を追い払ってもらわなくては。

あの老婆にした内容は、大体伝えられたと思う。

俺が話を止めると、今度はあちら側のターンとなった。

いつから始まったのか、最近どこに行っただとか、あとどれくらいかとか

俺が話したのと同じくらいのスピードで、聞かれていく。

やがて電話先の相手は、気になることを聞き終えたのか

「そう...ですか...。神主に話してきますので、少々お待ちください。」と言って、廊下を走る音を残しながら去っていった。

そんなに状況が悪いのか。俺の脳内には、「死」の感覚が広がっていく。

五分ぐらい待っただろうか?電話先で、慌ただしい足音が聞こえたかと思うと、


「住所を送るので、いますぐこっちに来られますか?その症状だと、一刻を争う。」


焦った声が聞こえてきた。


「わかりました。いますぐ行きます!」


俺は、二つ返事で了承し寝巻きのまま病院を飛び出した。

病院の廊下を走っていると、先程の医者とすれ違い


「あっ、おいちょっと!!」


と追いかけられるがそんなの気にしてられない。

息も絶え絶え、病院の入り口にたどり着くと、ちょうどよくタクシーが止まっていた。

後ろからは、まだ医者が追いかけてきている。


「タクシー!ここまで載せて!」


ドアが開いた瞬間にスマホを見せて、月城神社の場所を運転手に見せる。

運転手は快く承諾してくれ、タクシーに乗り込んだ。

医者は「開けなさい!あんた死ぬぞ!」と窓をガンガン叩いているが、したこっちゃない。


「では、出発します〜。どうぞごゆるりと......」


タクシーは、ゆっくりと医者を置き去りにして走り出す。


「ふぅ、あとはこれで神社に行くだけ......。」


一息ついた瞬間、凄まじい眠気に襲われ倒れこむ。

起きてなきゃあいつがくるのに。

次は無いかもしれないのに...。

俺は最後まで必死に抵抗するが、遂に目を閉じてしまった。

ーーーーーーーーー

幾許か時が過ぎた。

そこは、山の中だった。

(神社に着いたのか......?)

その淡い期待にも取れる疑問はすぐにうち消されてしまった。

目の前に奴がいる。

これまでのように、遠くではなく目と鼻の先に。

俺は、目を大きく見開きながら固まってしまう。

その様子を嘲笑うかのように洞窟の時と同様にヤツは、俺の顔に舌を巻きつかせてくる。

逃げたい。いますぐに逃げ出したい。

もうこんなところには居たくない。

これは夢なんだろ?頼む起きてくれ。

起きろ、起きろ、起きろ、起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ

心の中で何度も願う。何度も何度も何度も何度も。

それでも舌は止まることを知らず伸び続け、俺の顔、背中、腹、太もも、足と上から下に巻きついていく。

駄目だ。逃がしてくれない。


「うわあああああああぁあぁあぁああ!!!はなせぇえええぇえぇええ!!!!」


俺は、最後の抵抗と言わんばかりの咆哮をあげ舌に噛みつく。

少しは怯むだろう。そう期待していたところもあった。

どこか俺は大丈夫、そう思っていた。

そんなの全部無駄だったのに。

噛みつかれたことなんか気にしないかのように、ヤツは口を大きく広げ始めた。

口の中にびっしりと生えた人の手がこちらに向かって伸びてくる。

ビチャビチャとしたドス黒い液体が顔を覆い、ゆっくりとヤツの口の方に引き寄せられていく。


「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダうぐっ」


必死に抵抗するも無意味。

ヤツの口が俺の頭を飲み込んだ瞬間、今まで感じたことのないような痛みが頭に広がる。

ゆっくりと押しつぶされていくような感触。無理矢理形を変えられていく。

吐血した。鼻血が出る。耳が聞こえなくなった。顎がミシミシ言っている。目が飛び出て、デメキンのようになる。

「ゴキっ」


頭蓋甲が潰れた。


「バキ...ゴギ...グチュ」


脳が潰れた。

思考が潰れる。

俺の命は、静かな森の中で消えた。

ーーーーーーーーー


「安藤さん?安藤さん?いるなら返事をしてください!」


山の中に私と神主様の声が響き渡ります。

彼から電話が来てからはや三日。

一向に月城神社に現れない安藤さんに嫌な予感を感じて迎えに行ったはいいものの、病院からは脱走し行方をくらましていました。

もしかしたら、ということで神主様の心当たりのあるこの山を探しているんです。


「なんでこの山なんですか?探すなら、警察さんとかと協力したほうが...。」

「いや、彼の言っていたことが正しければここにいるはずなんだ...。もう手遅れだろうが...。」


どういうことだろうか?結局なんでなんだろう?

首を傾げ続ける私を見かねて、神主様は歩きながら、ある村の話をしてくれました。


「昔々、あるところに蛇神が住み着いている村がありました。

その村では、三年に一度村の若い娘を蛇神に差し出すことによって村を守っていました。

ある時、こんな生活に嫌気の刺した村の偉い人達が、代々神の力を受け継いできた巫女の家に蛇神の退治を依頼しました。

その中でも、一番力のあった巫女が蛇神退治を快く引き受けました。

その戦いは、長いものになりました。

巫女も蛇神も一歩も引かず、長い間お互いに有効打を与えられないでいました。

そんな中、疲労による一瞬の隙をつかれ、巫女は下半身を食われてしまいます。

それでも巫女は力を振り絞り蛇神に立ち向かいましたが、村の者たちはもう無理だと巫女に見切りをつけ、蛇神に「巫女を差し出すから、向こう十年はこの村に手を出さないでほしい。」と持ちかけました。

蛇神は強い力を持つ巫女を鬱陶しく思っていたこともあり、それを承諾。

村人たちは、巫女の両腕を切り落とし蛇神の食べやすいようにしました。

巫女を飲み込んだ蛇神は、約束通り去っていきました。

しかし、この戦い以降村に異変が起き始めます。

原因もわからず、人がバタバタと死んでいくのです。

そして、彼らの死体からは右手か左手の片方がもぎ取られていました。

人々は、巫女の呪いだと供養して巫女の怒りを鎮めようとしましたが無意味。

村に残った者は、四人を残して全滅しました。」

「つまり、その化け物がこの山にいて彼を襲ったということですか?」

「おそらく。ヤツの名前は『姦姦蛇螺』。本来は封印されているはずなのですが、彼が封印を解いてしまったのでしょう。」


話しながら、森の中を歩くこと四十分。目的地につきました。

目の前には、何十もの独自の紙垂のようなものがまかれフェンスで覆われた洞窟がぽっかりと穴を開けています。

その異様な雰囲気に、思わず息を飲んでしまいます。


「さぁ、入ろうか。いいか?中の箱には決して触れるんじゃないよ?」

「了解です。」


神主様が、フェンスを開けると禍々しい空気が一気に襲ってきました。

言葉では、表せないような憎悪、執着、怒り。

私は神主様に続いて、恐る恐る中に入っていきました。


「ひっ!」


中に入った瞬間に目に飛び込んできたのは、賽銭箱のような箱と、その横に倒れ込む誰かの死体。

頭はなく、両腕も無くなっていました。

下一面に広がるドス黒い液体。それが血である事を認識するのにあまり時間を要しませんでした。

神主様は、ゆっくりとその死体に近づき服をめくって確認してため息をつく。


「覚悟はしていましたが......実際に見るときついですね。やはり、手遅れでした。」

「じゃあ、その死体は...。」


私は、脳では理解していても聞いてしまう。


「はい、電話してきた彼のものです。この痣が何よりの証拠でしょう。」


神主は、服をめくっていた手を下ろしながら私に説明する。


「彼の隣に箱があるだろう?その箱が、姦姦蛇螺を封印している箱なんだ。詳しいことは、言えないがその箱を動かしたり傾けたりすると、呪われる。

彼のようになってしまう。もっと早く対処していれば、救えたかもしれないのにな...。」


と悲しそうな顔をしながら祈りを捧げる。

それに釣られる形で、私も彼に祈りを捧げた。

一分経っただろうか。

彼を、ここに置いておくのもなんだし、神社で供養しようということになり、神主様が胴体、私が足を持つことになった。

慎重に運ばなくては……。

下がヌルヌルしていて踏ん張りが効かない。


つるっ

ガッ


はっきり聞こえた



「次はお前だ。」


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