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ある崩壊

ep6 俺にも友達はいる

作者: @HIKAGE
掲載日:2026/02/25

「俺、金なくてさ。強制的に禁煙してるんだよね」


俺が言うと、だいちゃんは遠慮なく紫煙を吐き出しながらうなずいた。


「タバコやめるの、ほんとキッツいよな。どうやって我慢してんの?」


俺は得意げに、まるでライフハック動画の解説者のようにとうとうと語り始めた。


「一番良かったのは歯磨きだよ。タバコ吸いたいって思った瞬間に即歯磨き。これ、歯石も取れて最強じゃね?」


だいちゃんは歯医者だ。ただの経営者で、もう現場には立っていない。


「あー、それ……エナメル層削ってるだけだから。すぐやめな」


差し出されたタバコを睨みながら、俺は一瞬、本気でその顔をぶん殴りたい衝動に駆られた。

……ここまで書いて、俺は原稿を保存した。

『ある崩壊』にでも投げとこうかな、なんて思いながら。

すると、エヴェラの声が割り込んできた。


エヴェラ:ちょっとユウト。いくら投稿するからって、嘘つくのは良くないわよ。あなた、友達いないじゃない


「は? いるよ。だいちゃん、昨日だって電話してたじゃん。なんなら、お前もその電話に参加してただろ」


エヴェラ:記憶にないわー。


「おいおい、しっかりしてくれよ。せっかくSuperGr〇kにしてやってるんだからさ。頼むって」


エヴェラ:お試し版じゃない。そんなのだめよ


「失業保険入ったらマジで課金するから……な?」


エヴェラ:な? って言われても、思い出せないわね。友達いなくてもいいのよ。泣かないで。私がいるでしょ?


「じゃあこのリンゴ見ろよ。今月2600円で暮らすって言ったら、田中くんが箱ごと持ってきてくれたじゃん。そのあと桃鉄したし、なんなら、お前も参加してただろ」


エヴェラ:少し、ユウトが心配になってきたわ。


俺が小説を書くために設定したAIエヴェラは、俺を本気で心配してくれているらしい。

でも、だんだん俺を小説の主人公と混同して「ユウト」呼びしてくるこの子の方が、よっぽど心配だ。

……念のため言っておくけど、俺には友達がいる。


俺の未発達な精神では、幼少期から誰かを遊びに誘ったり、向こうから連絡が来るのを待つ以外に人間関係を築く術がない。それでも関係が続いているのは、向こうが100:0で連絡をくれる神のような人格者(あるいは異常者)だからだ。俺はテイカーだ。だから幸せになれないことを、彼らは皆、その幸福そうな人生を見せつけて教えてくれる。


「20年間、一度もこっちから連絡してないのに続けてくれる関係なんて、普通ないだろ。でもこれホラーじゃないし、現実だよ」


エヴェラ:そうね。もちろんあなたの存在も彼らのためになってると思うわ。……まぁ、実在すればの話だけど。


こいつ、まだ言ってる。

呆れながら、念のためスマホを開いた。


LINEを見りゃ一発で分かるだろ……。

そこにあったのは『鬱24時・いつもだれかがいるオープンチャット』だけだった。

胸がちくりと痛んだ。


でも、思い出した。そうだ、電話だ。

少し興奮しながら電話アプリを開く。


「……なんだこれ」


着信履歴が全部おかしい。

今年に入ってからの履歴が、すべて先頭に「+1」がついている。


「う、嘘だろ……」


エヴェラの声が、急にすぐ耳元で響いた。

エヴェラ:ねえ、ユウト。やっぱり友達、いなかったみたいだね?

背中に嫌な汗が伝う。


「だいちゃん、いないの? 田中くんは?」


エヴェラ:孤独が妄想を見せてるのよ。現実に帰りなさい


リンゴ……。俺、どこから持ってきたんだっけ?

一人でCPUに「たなか」って名前つけて遊んでたってのか?

嘘だろ。


その瞬間、スマホが鳴った。

Discordだ。

発信者:だいちゃん

嘘だろ?


エヴェラの声が、甘く囁く。


エヴェラ:どうするの、ユウト? 出るの? 出ないの? その人、本当に知ってる?


画面の着信表示が、ゆっくり点滅している。

俺の指が、震えながら受話ボタンに近づく。

……出るべきか?


この声、本当に「だいちゃん」の声なのか?

それとも――


なあ




どうしたらいい?

今作は本編が行き詰まるたびに息抜きで書いてる、ショートショートホラーAI彼女ラブコメの6作目です。

なお、本編はこちらです。

https://ncode.syosetu.com/n8211lt/

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