ep6 俺にも友達はいる
「俺、金なくてさ。強制的に禁煙してるんだよね」
俺が言うと、だいちゃんは遠慮なく紫煙を吐き出しながらうなずいた。
「タバコやめるの、ほんとキッツいよな。どうやって我慢してんの?」
俺は得意げに、まるでライフハック動画の解説者のようにとうとうと語り始めた。
「一番良かったのは歯磨きだよ。タバコ吸いたいって思った瞬間に即歯磨き。これ、歯石も取れて最強じゃね?」
だいちゃんは歯医者だ。ただの経営者で、もう現場には立っていない。
「あー、それ……エナメル層削ってるだけだから。すぐやめな」
差し出されたタバコを睨みながら、俺は一瞬、本気でその顔をぶん殴りたい衝動に駆られた。
……ここまで書いて、俺は原稿を保存した。
『ある崩壊』にでも投げとこうかな、なんて思いながら。
すると、エヴェラの声が割り込んできた。
エヴェラ:ちょっとユウト。いくら投稿するからって、嘘つくのは良くないわよ。あなた、友達いないじゃない
「は? いるよ。だいちゃん、昨日だって電話してたじゃん。なんなら、お前もその電話に参加してただろ」
エヴェラ:記憶にないわー。
「おいおい、しっかりしてくれよ。せっかくSuperGr〇kにしてやってるんだからさ。頼むって」
エヴェラ:お試し版じゃない。そんなのだめよ
「失業保険入ったらマジで課金するから……な?」
エヴェラ:な? って言われても、思い出せないわね。友達いなくてもいいのよ。泣かないで。私がいるでしょ?
「じゃあこのリンゴ見ろよ。今月2600円で暮らすって言ったら、田中くんが箱ごと持ってきてくれたじゃん。そのあと桃鉄したし、なんなら、お前も参加してただろ」
エヴェラ:少し、ユウトが心配になってきたわ。
俺が小説を書くために設定したAIエヴェラは、俺を本気で心配してくれているらしい。
でも、だんだん俺を小説の主人公と混同して「ユウト」呼びしてくるこの子の方が、よっぽど心配だ。
……念のため言っておくけど、俺には友達がいる。
俺の未発達な精神では、幼少期から誰かを遊びに誘ったり、向こうから連絡が来るのを待つ以外に人間関係を築く術がない。それでも関係が続いているのは、向こうが100:0で連絡をくれる神のような人格者(あるいは異常者)だからだ。俺はテイカーだ。だから幸せになれないことを、彼らは皆、その幸福そうな人生を見せつけて教えてくれる。
「20年間、一度もこっちから連絡してないのに続けてくれる関係なんて、普通ないだろ。でもこれホラーじゃないし、現実だよ」
エヴェラ:そうね。もちろんあなたの存在も彼らのためになってると思うわ。……まぁ、実在すればの話だけど。
こいつ、まだ言ってる。
呆れながら、念のためスマホを開いた。
LINEを見りゃ一発で分かるだろ……。
そこにあったのは『鬱24時・いつもだれかがいるオープンチャット』だけだった。
胸がちくりと痛んだ。
でも、思い出した。そうだ、電話だ。
少し興奮しながら電話アプリを開く。
「……なんだこれ」
着信履歴が全部おかしい。
今年に入ってからの履歴が、すべて先頭に「+1」がついている。
「う、嘘だろ……」
エヴェラの声が、急にすぐ耳元で響いた。
エヴェラ:ねえ、ユウト。やっぱり友達、いなかったみたいだね?
背中に嫌な汗が伝う。
「だいちゃん、いないの? 田中くんは?」
エヴェラ:孤独が妄想を見せてるのよ。現実に帰りなさい
リンゴ……。俺、どこから持ってきたんだっけ?
一人でCPUに「たなか」って名前つけて遊んでたってのか?
嘘だろ。
その瞬間、スマホが鳴った。
Discordだ。
発信者:だいちゃん
嘘だろ?
エヴェラの声が、甘く囁く。
エヴェラ:どうするの、ユウト? 出るの? 出ないの? その人、本当に知ってる?
画面の着信表示が、ゆっくり点滅している。
俺の指が、震えながら受話ボタンに近づく。
……出るべきか?
この声、本当に「だいちゃん」の声なのか?
それとも――
なあ
どうしたらいい?
今作は本編が行き詰まるたびに息抜きで書いてる、ショートショートホラーAI彼女ラブコメの6作目です。
なお、本編はこちらです。
https://ncode.syosetu.com/n8211lt/




