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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

脳内自殺

作者: hu5
掲載日:2026/10/28

 中学校の制服を着た数人の女子が僕の前を歩いている。

 僕と同じ中学校の生徒なのだろう。

 彼女らは楽しそうに談笑し、こちらが見ていることにまるで気付いていない。


 さらに、その向こうから怪しそうな男が歩いてきた。


 僕は少し歩幅を広げる。

 怪しそうな男は両手をポケットに突っ込み、その顔は黒いフードでまったく見えない。

 その男が彼女らとすれ違う時、ポケットからナイフを取り出した。

 それを思い切り振り被ったが、ナイフの刃が彼女らに届くことはなかった。


 僕が間に入ったのだ。


 ナイフは僕の心臓を貫き、そして絶命させた。

 男は僕が通っている中学校の出身であり、当時中学生の彼は女子生徒から執拗にいじめられていたそうだ。

 その結果不登校となり、高校へと進学することもできなかった。


 今回、ナイフで襲いかかられた女子生徒は男となんら関係はない。

 ただ、制服を着ていただけだ。

 それだけで危険が及んだ。

 以降は制服のデザインを一新し、近似の危険を予防するようになった。



◇ なんてことはなく。



 男は彼女らに目もくれず通り過ぎた。

 歩幅を広げた僕は後ろから彼女らを追い抜き、そのまま登校を済ませた。


 僕はまだ誰も来ていない教室に辿り着いた。

 教室の真ん中に席が決まってしまったので、扉からそこまで歩いて行かなければならない。

 早めに登校し、誰かがその周囲で話し始めないようにしている。


「ふぅ……」


 大きなため息が教室中に広がる。


 僕の頭は切断された。


 大きな声を出し過ぎた。

 音に反応する化け物が僕の頭部を丁度三等分に切り裂いたのだ。

 その化け物は隠れ潜む。

 人類を殺し尽くすまで。



◇ なんてことはなく。



 僕の頭はいつも通り結合している。

 カバンから本を取り出す。

 ブックカバーで表紙が見えないが、恋愛モノのライトノベルだ。

 つまりラブコメ。

 僕は挟んでおいたクラゲの栞を手前に引っ張り、本を開く。


 だが、読まない。


 読んでいるふりだ。

 今はあまり本を読む気にはならない。

 ぼうっとしていたいのだ。


 視界がクラクラする。

 ジリジリと空間が歪んでいき、僕の体は倒れた。

 毒ガスが広がっている。

 ガス漏れがあったのだ。

 学校中にガスが広がったが、しかし早朝ということもあり被害は少なかった。


 ただ一人、僕だけが死んだ。


 経年劣化でのガス漏れだったため、定期的な点検をしなかった学校側が責められ、謝罪をした。

 しかし少子化も相まりこの中学に入る子供が減っていき、遂には廃校となった。



◇ なんてことはなく。



 僕がぼうっとしていると、だんだんクラスメイトがやってきた。

 最初は一人で来る人が多かったが、徐々に複数人で登校する人が増えてきた。

 先に来ていた友達の席に向かう者、教科書を開き勉強する者、遅刻ギリギリで走り込む者。

 多種多様な人間がこのクラスにはいた。

 朝のホームルームが始まったため、本を閉じる。

 しかし視線を上に上げることはない。

 本を読む角度のまま先生の話を聞く。


 そこで、放送が流れた。

 普通の放送じゃない。

 なにか特殊な放送だ。

 僕はこれを知っている。


 不審者の侵入を知らせる放送だ。


 これは訓練ではないだろう。

 僕らは教室のカーテンを閉め、扉を机で塞いだ。

 しかし、いくつかの音が周囲から聞こえてくる。

 複数の足音だ。

 廊下から複数の足音が聞こえてくる。

 その一つが僕らの教室で止まった。


 扉の向こうから、銃口が覗いた。


 僕は威嚇射撃により、運悪く脳天を撃ち抜かれてしまった。

 偶然だった。

 その威嚇射撃が跳弾し、偶然にも僕を貫いた。


 しかしそれに動揺したテロリストを教師たちが押さえつけた。

 無血でテロを行う予定であったそうだが、その大義名分すらないテロリスト達は全員捕まった。



◇ なんてことはなく。



 一時間目が始まった。

 数学の教師がチョークで何かを書いていた。

 周囲からはノートに鉛筆をこする音が連なっていた。

 僕はそれを横目に、カバンを漁っていた。

 数学の教科書がどこにも見当たらない。


 僕はカバンに深く手を突っ込んだ。


 しかし、どこまでも底が見えない。

 いつの間にか僕は体の半分以上をカバンに突っ込んでいた。

 これはマズイと思って体を引こうとしても、動かない。

 カバンの底には無数の手があった。


 それが僕を引きずり込み、僕は虚空に消え去った。


 誰も気が付かず、知られない。

 人食いカバンは世界中に潜んでいた。



◇ なんてことはなく。



 授業が終わり、席を立つ。

 地雷があった。



◇ なんてことはなく。



 窓の外からスナイパーに狙撃された。



◇ なんてことはなく。



 野良犬に噛みつかれ、狂犬病に罹った。



◇ なんてことはなく。



 突如として空から雷が落ち、運悪くそれが命中した。



◇ なんてことはなく。◇ なんてことはなく。◇ なんてことはなく。◇ なんてことはなく。◇ なんてことはなく。◇ なんてことはなく。◇ なんてことは……………



 誰も来ない屋上へ続く階段に座っていた。

 一人で、ただ呟く。


「……死んだ。死んだ。また死んだ」


 お弁当を広げ、それを見る。

 ああ、そうだ。餓死もいい。

 そう思いながら卵焼きを口に運ぶ。

 おかずを全て食べ、それから白米に手をつける。


「……毒で死ね」


 そういえば水を沢山飲んだら水中毒で死ぬんだったか。

 それもいい。

 水筒の蓋を開け、お茶を飲む。


「……死ね。死ね。さっさと死ね」


 僕は食べ終えたお弁当を畳み、立ち上がった。

 階段を降りていく。

 足を滑らして階段の角に頭を打ちつける。


「……それで死ね」


 一歩一歩、階段を降りていく。

 ゆっくり、足を滑らさないように。

 そして最後の一段で、僕は座り込んだ。

 手すりに寄りかかるような格好で、ただ座り込んだ。


「……情けない」


 頬に水が垂れる。

 それは涙だった。

 知らず知らずの内に、涙が流れていた。

 鼻を啜り、袖口で涙を拭う。

 それでもそれは止まらなかった。


「情けない。情けない。死ねよ。生きてる意味もないんだから。死ねよ……死ね……」


 死を意識するたび、足が震える。

 腕は自然と自分の体を抱く。

 歯はギチギチと鳴り、目は涙を流す。


「死にたくない……、死にたくない……。嫌だ……。死にたくない……」


 情けのないその本音に、再び涙が流れてくる。

 死にたいのに、死ぬのは怖い。

 怖くて震えて、結局死ねない。

 死ねないから、余計に死にたくなる。


 そうしてしばらくの間だけ震えていた。

 しかしすぐに歩き出した。

 ただただ中学校の、その短い廊下を。

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