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残り野菜のスープは、追放聖女と冒険者の縁を結ぶ  作者: 秋月 もみじ


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第7話 契約書という名の最強の盾


国境へと続く街道の関所には、不穏な風が吹いていた。

 普段なら通行税を払うだけの場所に、煌びやかな鎧を纏った一団が陣取っている。王都騎士団だ。

 その数、十名あまり。彼らは通行人を一人ずつ検分し、威圧的な態度で恫喝していた。


「いたぞ! 金髪の女だ!」

 一人の兵士が私を指差して叫んだ。

 瞬く間に、私たちは騎士たちに包囲された。

 中心から歩み出てきたのは、白銀の鎧に赤いマントを羽織った男──以前、王宮の夜会で見かけたことがある、キザな副団長だった。


「やはり貴様か、エマ・フローリス。国宝窃盗の容疑で拘束する」

 彼は勝ち誇ったように言った。

 手には手錠が握られている。

 ザックが、無言で前に出た。大剣の柄に手をかけ、殺気を放つ。

「……俺の依頼人に触れるな」

「冒険者風情が騎士に逆らうか? 公務執行妨害で斬り捨ててもいいのだぞ」

 副団長が嘲笑う。周囲の騎士たちも剣を抜いた。


 一触即発。

 私はザックの腕を掴み、首を横に振った。

「待って、ザックさん。……ここで暴れたら、貴方が罪に問われます」

「だが」

「大丈夫。私に任せて」

 私は震える足を叱咤し、副団長の前に進み出た。

 強風が吹き抜け、私のフードを捲り上げた。


「窃盗の容疑とは、具体的に何を盗んだのですか?」

「白を切るな! 教会の聖遺物だ!」

「証拠は?」

「貴様が王都を出た時期と一致している! 王都への連行を命じる!」


 連行。その言葉を待っていた。

 私は懐から、一枚の羊皮紙を取り出した。くしゃくしゃになっているが、大神官の印章が押された本物だ。

「これは、教会が発行した『追放命令書』です」

 私はそれを広げ、大声で読み上げた。

「『偽聖女エマ・フローリスを永久追放とする。二度と王都の土を踏むことを禁ず。違反した場合は即刻死刑とする』」

 周囲の野次馬たちがざわめく。


「……それがどうした」

「貴方の命令は、この命令書と矛盾しています。私を王都へ連行すれば、私は『王都の土を踏んだ』ことになり、死刑になります。つまり貴方は、裁判もなしに私を処刑しようとしているのですか?」

「なっ……!?」

 副団長が言葉に詰まる。

「そ、それは連行した後に取り消せば……」

「法的手続きにおいて、上位の命令書が優先されます。大神官様の署名入り命令書を、一介の騎士団副団長が無効化できる権限をお持ちで?」


 私は畳み掛けた。

 さらに、ザックが持っていた「護送契約書」も提示する。

「そして、こちらの冒険者ギルドの契約書には『依頼人を安全に辺境へ送り届けること』とあります。これを妨害すれば、冒険者ギルドへの業務妨害となり、貴方たちは国中の冒険者を敵に回すことになりますよ」


 論理の包囲網。

 副団長の顔が赤く染まった。

「黙れ! 屁理屈を! 罪人を捕らえるのに手続きなど関係ない!」

 彼は剣を抜き、私に向けた。

 論理が通じないなら暴力。それが彼らのやり方だ。


 だが、その剣が振り下ろされることはなかった。

「やめろ!」

「その嬢ちゃんは俺たちの恩人だぞ!」

 声を上げたのは、群衆だった。

 見れば、第3話で助けた商人一家がいる。他にも、宿場町で私のスープを飲んだ行商人や旅人たちが、口々に騎士団を非難し始めていた。


「子供を助けてくれた聖女様だ!」

「寄付金ばかりせびる教会より、よっぽど立派だぞ!」

「か弱い女性に剣を向けるのが騎士の誇りか!」


 石つぶてが一つ、二つと騎士たちに投げられる。

 民衆の怒り。それが一番の「盾」だった。

 副団長は周囲を見回し、唇を噛み締めた。これ以上強行すれば、暴動が起きる。そうなれば彼の失点だ。

「……ちっ、覚えておれ! 次はこうはいかんぞ!」

 彼は捨て台詞を吐き、部下たちに撤退を命じた。

 去り際、彼は私を睨みつけて言った。

「いい気になるなよ。次は大神官バリオス様ご自身が、正規軍を率いて来る。……その時まで震えて待っているんだな!」


 騎士たちが去ると、関所には歓声が湧き上がった。

 私は足の力が抜け、その場にへたり込みそうになった。

 それを、ザックの腕が支えた。

「……よくやった」

 耳元で、彼の声がした。

「俺が斬るより、ずっと効いたみたいだ」

「……怖かったです。剣を向けられた時、心臓が止まるかと」

「止まったら俺が動かす」

 無茶苦茶な理屈に、私は思わず吹き出した。


 関所を抜け、私たちは再び歩き出した。

 空はまだ曇っているけれど、風向きは変わった気がした。

 

「ザックさん」

「ん?」

「私、最強の盾を持ってましたね」

「ああ。……だが、次はもっと硬い盾が必要になる」

 彼は真剣な顔で、北の空を見上げた。

 大神官バリオス。全ての元凶が、動き出したのだ。

 私の手の中にあるのは、ただの小鍋と知識だけ。

 それでも、私たちは進むしかない。美味しいご飯と、自由な未来のために。

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