本音と贈り物
「サトミ、大丈夫?」
「うーん…何かふわふわするぅ…」
「果実水と果実酒を間違えたんだな…気持ち悪くはない?」
「気分いい~うふふふっ♪」
「酔っぱらっても可愛いな…」
サトミは、歓迎会で果実水と果実酒を間違え、
お開き後に立ち上がれなくなってしまった。
俺が彼女を抱えて部屋まで連れてきている。
婚約者同士なので、周りも全く気にせず任せてくれた。
「ほら、横になってベッドに寝かせるから…」
「はーいっ」
ボスッと勢い良く、彼女は俯せでベットに飛び込んだ。
靴を脱がせて、服も脱がせ、寝間着に着替えさせる。
なすがままに体を任せる彼女は終始ぼんやりしていた。
「お風呂ぉ~~」
「風呂は、今日は禁止。こんな状態で入ったら危ないし、溺れるかもしれな…」
「やだ!入るっ!」
「サトミ…とにかく、今日は休もう?風呂は明日の朝にでも入れば…」
「じゃあ!一緒に入って!なら、大丈夫でしょ?」
「………………」
「お風呂~~体洗いたいぃ~~」
「…自分で言ったんだからな?俺は止めた。分かった?」
「うん!」
仕方なく、ふらつく彼女を抱えて服を脱がせた。
素面じゃない時なので良心が少し痛んだが、もう婚約してるし…
と必死に言い訳をしながら、なるべく見ないように、
彼女の裸をタオルで包み込んで、浴室に連れて行く。
しかし…白い肌だ…
それに、本当に折れそうな細くて軽い体。
胸は、細い体に見合わず…駄目だっ…じっくり見ると理性が切れそうになる。
彼女は、なんというか禁欲的で上品な色気がある。
清楚で…そう、汚してはいけない、清らかさが背徳感を思わせるが、
反面それに抗いたくなる、何ともそそられる存在だった。
グッと心を無にして、体を洗い、髪を洗い、湯船に浸かる。
後ろから、抱きしめる形で支えていると、
コトリと顔を肩に預けて、目を細めている。
ああ、気持ちいいんだな。
彼女は、湯船に浸かると癒されると前から話していた。
細い肩と長い手足を投げ出して、全て委ねてくる。
「グレン…さん…」
「ん?どうした?熱い?」
「ううん……あのね……」
「うん」
「…死なな…いで……ね…」
「…え?」
「死なないで…私…グレンさんが…いなくなったら…
ここで…生きる意味がない……」
「…うん」
「だから……必ず…生きて…帰ってきて……
私の所に……」
「うん。約束する。君を1人にしない。絶対に」
「…ほんと?」
「うん」
「いなく…ならない?」
「ああ。ずっとサトミの側にいるよ」
「よかっ…た……約束ね?」
「ああ、約束する」
そう言うと、彼女は目を瞑り安心したように眠った。
君も…俺と同じように、お互いを失うのを恐れているのか…
酔いが回って、いつも押さえている理性が外れて、
本音が出てしまったのだろう。そのお陰で彼女の本音を聞けて良かった。
正直、彼女をこの世界に引き止めてしまって、いいのか迷っていた。
でも、もう遠慮はしなくていい。それが、分かっただけでも僥倖だった。
* * * * * * *
結論から言うと、彼女は昨日のお風呂の件は覚えていなかった。
所々、俺に世話をされたのは覚えているらしいが、
一緒に入った風呂の件は、すっぽり抜け落ちていた。
なので、非難はされなかったが…それはそれで問題かもしれない。
酒の量は自重させなければならない。
彼女は2日酔いもせず、スッキリした顔で、
侍女のエリカさんと護衛騎士を連れて、元気に町へ買い物に行った。
残念ながら、俺は次の村に向かうにあたっての事前打ち合わせと会議で、
同行できなかった。
「ふぅ~…沢山買った…」
「私もたんまり買いましたぁ。彼氏達の分も!素敵な小物が沢山で迷いました」
「いい買い物したね。ほとんど村長のプレゼントで無料だったけど…
えーと…遠征で行く村は、あと4箇所だよね?」
「ええ、長期間の遠征でしたねぇ。移動時間も入れて後2ケ月程です」
「そっか、本当に半年間の遠征なんだね。
でも、何だかんだ楽しかったかも…色んな村見れたし…」
「国王陛下は、サトミ様のお陰で王家の評判上げましたねぇ…
また、褒章頂けるのではないでしょうか?」
「…え…いらない。謁見とか緊張するし面倒臭い」
「本当に相変わらず欲が無いですねぇ!うふふふふっ」
「もう充分だよ。衣食住に困ってないし、私は平穏に暮らしたい」
「他の貴族令嬢に見習って欲しいです。聖女の称号がありながら、この謙虚さ」
「いや、地位のある人って、しがらみが凄いから、それはそれで尊敬してるよ。
私は、それが性に合わないから避けてるだけだもの」
「サトミ様、エリカさん、そろそろお戻りになった方がいいかと…
もう宿の夕飯時になります」
「えっ?もうそんな時間?」
砂漠村が思いの外治安も良く過ごしやすくて、つい長居をしてしまった。
今日は、この村滞在最後の日で明朝出立する。
宿に戻ろうと話していると、アクセサリー店の店主が声をかけて来た。
「なあ、あんたら浄化に来てくれた人達だろう?」
「は、はい」
「これ、聖女様に渡してくんねぇか?ささやかな物なんだがよぉ。
こんな辺鄙な村にまで来てくれて、土地をあんな風に豊かにしてくれて…
感謝してるんだ。コレぐらいしか御礼できないが…」
「…まあ、そんな。お心配りありがとうございます。
きっと、お慶びになると思います」
「ケープで顔見れなかったのが残念だったなぁ…
はっきりとは見えなかったけど、綺麗な立ち振る舞いだった」
「ええ、とても綺麗で可愛い方です!」
「ちょ…エリカさん!」
「細かい外見は箝口令で言えませんが、
お人柄も素晴らしい方です。そして、陛下の臣下でありながら、
贅沢な貴族社会がお嫌いで、庶民と変わらない暮らしをしている
謙虚なお方なんですよぉ!」
「おお、なんと…庶民に寄り添い心根もお優しいとは…
聖女様とお呼びするに相応しいお人なんだなぁ」
「はい、私達は彼女に仕えられて光栄ですし、誇らしいですぅ!」
本人が目の前にいるのに、誉め殺しされまくり悶絶してしまいそうになる。
名乗れないのが残念だけど仕方ない。
ここで本人だとバレたら、人が殺到して収集がつかなくなる。
聖女様にと手渡されたのは、砂漠地帯で採取される鉱石、
希少な岩塩の結晶化した宝石、ソルダリアで作られた首飾りだった。
上品で細かい細工が美しい…高価な物だろうに…
ありがたく受け取って、宿に帰った。
「サトミ様に似合いそうな、素敵なデザインのネックレスです。
良かったですねぇ」
「うん…何か申し訳ないけど、ありがたく使わせて貰うわ。
元が岩塩なんて信じられないほど、綺麗…白と透明が入り混じって…」
聖女なんて大層な称号をもらってしまって嫌だったが、
こうして現場で、喜ばれているのを感じられるのは、
自分の魔力が役に立っているのが分かるし、成果が実感できて、
良かったし素直に嬉しい。
聖女も悪くないかも…
この浄化遠征で、この世界の事を沢山知れたし視野が広がった。
授かったこの魔力も役立てられる。
隣国に人間兵器として召還されたこの私が、真逆の役目を果たしているのだ。
隣国に、ざまあしてるみたいで、ちょっと気分がいい。
「聖女様ー!」
「ありがとうございました!」
「お気をつけて!」
「また、来てくださ~い!」
村民達に見送られ、馬車から手を振る。
なんだろう…凄く寂しい…
ああ、そうか…この村、雰囲気が似てるんだ。
前の世界の実家の田舎に。
それを思い出し、胸がチクリと痛んだ。




