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〈連載中〉飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


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違う世界の空の下




パチパチ…パチッ…


「……ん…」


何だろう…この音…

夜中に目が覚めてしまった。


一瞬ここが何処か分からず焦るが、そうか遠征の野営中だった。

寝息を立てているエリカさんを起こさないように、そっと体を起こす。


水でも飲んでこよう…荷馬車にあったはず…たしか牛乳も…

ミルク温めて、ホットミルクでもいいなぁ。

上着を羽織り、そっと馬車のドアを開けて出ると、

馬車のすぐ近くで護衛していた騎士が慌てて走り寄ってくる。



「ど、どうしました?サトミさん何かありました?」


「あ、ううん。目が覚めちゃって…喉渇いたから何か飲もうと思って…

 大丈夫だから、配置に戻ってください」


「ああ、慣れない場所で熟睡できないのですね?

 飲み物は、あちらの馬車です。お気をつけて」


「うん、ありがとう」



歩いていると、大きなたき火が目に入った。

ああ、さっきの音は…たき火の音だ。

ごそごそミルク缶を取り出し、鍋にいれ、たき火にかざす。

こぽこぽミルクが煮立ってきたのをカップに移し、

冷ましながらチビチビ飲んでいた。


ああ、火って落ち着くなぁ…

この世界に来て良かったのが、部屋の暖炉だった。

あのたき火の爆ぜる音と、暖かさ、

そして、踊る火の動きをずっと見ると凄く癒されるのだ。


ふう…と天を仰げば、あの3つの衛星。


時々、どうしようもなく独りぼっちな気分になる。

この感傷は、いつか無くなるのだろうか…

みんな…元気にしてるのかな…

突然行方不明になって…きっと心配してるよね…



「…サトミ?」


「えっ…」



突然声を掛けられ振り向くとグレンさんだった。

何でこの人は、いつもタイミング良く私の側に居てくれるのだろう。



「どうした?眠れない?」


「目が覚めてしまって…グレンさんは見張り当番なの?」


「ああ、明け方までだ…大丈夫?」


「うん…大丈夫。多分環境にまだ慣れてないんだと思う」


「そうか……さっき、空を見ていただろう?」


「え?ええ。月が…衛星が3つあるから、

 あれを見るたび、違う世界なんだって…いつも実感しちゃって…

 私の世界は1つだけだったから」


「だからか、君の横顔が寂しそうに見えた」


「…時々…まだ…ごめんなさい…」


「サトミ?…」



隣に座ったグレンさんに、そっと抱き寄せられた。

優しく背中を撫でられ、彼の優しさに泣きそうになる。



「なぜ、謝る?」


「ここで生きていくって…言ったのに…

 こんな…グズグズしちゃって…」


「そんな直ぐに割り切れる事じゃない…君の召還は理不尽そのものだった。

 謝らなくていい…」


「戻りたいとかじゃないの…今はグレンさんとここで一緒にいたいし…

 でも、家族や知り合いは…私が突然姿を消してしまったから、

 私が今こうしていること知らずに、今も心配してると思うと心苦しくて…

 せめて、私は無事だって伝えられないのが辛いの…」


「うん…心配してるだろうな……

 そうか、伝えられる手段があれば、君の心労も少しは軽くなるんだね。

 出来るか分からないが…それについては、ステラ師団長にも相談してみよう」


「ほんと?…ありがとう」


「1人で抱え込むな。俺たちは婚約者だろ?」


「うん…グレンさん…」


「ん?」


「ありがとう。大好き…」


「俺もだ」




* * * * * * *




「ようこそ、いらっしゃいました、北の騎士団一行様、そして聖女様。

 こんな片田舎の村までご足労様です。村民一同歓迎いたします。

 私は、この村の村長ケイン・ゾイド、以後宜しくお願いいたします」


「今回皆を代表して、ご挨拶させていただきます。

 セオドア・ネロ・エダーヴァルト。文官を勤めさせて頂いています。

 こちらは騎士団の団長グレン・シウム、魔法師団の師団長ステラ・ネグマ、

 そして、土地の浄化をしていただきます、聖女のサトミ様です」



丁寧に迎え入れられ、歓迎の横断幕を持っている子供達も沢山いた。

可愛いなぁ…あ~…交流したい…

神格化される聖女らしく振る舞えと言われているせいで、

村人とも気軽に近づけないのが残念だった。


その日は、この村唯一の小さな宿に宿泊させて貰った。

明日の朝から、私の聖女としての仕事が始まる。



そして、早朝に案内された一面の畑の土は、真っ黒だった。



「2年前に、低位のモグラ魔獣を何とか討伐したんですが…

 倒し方が悪かったのか…この通りで…瘴気が無くならなず、

 この土地では作物を育てられなくなったのです」


「魔獣討伐は、完全に絶命させないと排除できません。

 武器で倒すと姿は消えますが、中途半端に傷つけた時に、

 魔獣の傷口から瘴気が飛び散り、このように残るんです。

 これは、農具か何かで応戦しましたか?」


「え?ええ。突然だったもので…村の衛兵が間に合いませんで…

 その時、瘴気にやられて不自由な体になった者もおります」


「その方は?今、お元気でいらっしゃいますか?」


「…生きては…いますが…」


「瘴気にやられた人は、何人でしょう」


「5名です。働き盛りの男衆ばかりで…困っております」


「…そうですか…土地浄化が終わった後に、

 その方達の家へ、案内していただいても?」


「は、はいっ!勿論です!」


「サトミ…そんなに一気にやって大丈夫か?」


「うん、大丈夫。グレンさん。では、先にここを浄化しますね」



広範囲浄化なので、弓矢を構え空に向かい矢を放つ。

金の光の柱がみるみる広がり、回りを包み込んだ。

見学に来ていた村人達が、わあっと歓声を上げる。


畑だけでなく、村全体を覆うようにドーム状になり、

風船が弾けるように、パッと金色の光がキラキラと舞い散った。



「きれい……」


「すごい…空気が変わった…畑のっ、畑の黒い土がっ無くなったぞ!」


「これが神聖力…」


「畑だけじゃなくて木々も芽吹いて、花が咲いてる」


「なんと、なんと…素晴らしいっ…ありがとうございます。聖女様」



ゾイド村長が深々と頭を下げる。


ああ、良かった。


私本当に、役に立ててるんだ。

この世界に来た意味があったんだ。


その後、すぐ瘴気に犯されている人達に会いに行った。


突然の訪問で皆驚いていたが、無事全員浄化出来た。


黒く変色した肌は、感覚が麻痺していて動かしづらく、

その黒さは年々広がっていたそうだ。

そのうち心臓に達してしまえば、死に至る。

その恐怖と戦いながら、毎日不安だったと吐露され、

皆嬉しさで爆発するように、本人だけでなく家族も泣き出していた。



「本当に、本当に…ありがとうございました…っ…

 夫の苦しみを排除してくださって…毎日不安で仕方なかったのです。

 何かお返しできればいいのですが…なにぶん何もない片田舎でして…」


「お礼なんて…私はこれが仕事なんです。

 この国の為に王命で働いているのですから、気にしないでください」


「で、でも…魔力って凄く消耗するんでしょ?

 あ、そうだ。ここで一番多く取れるサツマイモなんてどうだい?

 今年はデカイのが沢山できただろ?」


「皆さんの食料でしょう?そんな貴重な物頂けませんよ」


「貰っておいたら?サトミさん」


「で、でも、グレンさん…貴重な食料なのに…」


「彼等なりの感謝の印なんだよ。ね?」


「そうだよ、貰っておくれ。せめてもの気持ちなんだ」


「…セオドア様、こういうのは、受け取って大丈夫ですか?」


「ええ。大量ではない個数だったら問題ないでしょう。

 我々も野営がまだこの先ありますから、食料はありがたいですしね」


「そうですか…では、無理のない範囲でいただけますか?」


「聖女様、こっちのサツマイモ大きいよ!」


「こっちは小さいけど形がいいし、熟れてて甘いよ!」


「ふふっ、ありがとう。美味しそうね」



その夜は、村の小さな中心街の飲食店に招かれて、

皆が謝恩会という名の宴会を開いてくれた。

茹でたトウモロコシに、カボチャの煮物、蒸したサツマイモ。

素朴で凄く美味しい。なにより、彼等の心遣いが嬉しかった。


ああ…それにしても…ケープ脱ぎたい…邪魔だなぁ。

ずっと磨りガラス越しのような視界に、少しイライラする。



「サトミさん。体調に変化はありませんか?目眩がするとか…」


「え…あ、ステラ師団長。ええ、大丈夫です。少しだるいかな位で」


「なるほど…少し手に触れても?」


「はい…どうぞ?」



彼は私の右手を取り、目を瞑った。

しばらく、瞼が動いていたが静かに赤紫の目を開ける。



「……うん…流石ですね。

 あれだけ広範囲の浄化と瘴気の治癒をしたのに、

 魔力量は全然余裕があります。

 ですが、念のため連日の神聖力の浄化は止めておきましょう。

 魔力放出口の調整はまだ不安定ですし、魔力切れは命に関わりますから」


「はい。…今、鑑定したんですか?」


「ええ。私が同行してるのは、魔術による護衛サポートのみではなく、

 サトミさんの体調管理も含まれてますからね」


「せーじょさまー!あっちで遊ぼう?」


「だめっ!私達と遊ぶの!手繋ぎ鬼やろう!」


「花火あるよ!一緒にやろう!」



花火かぁ…この世界にもあるんだ。魔法で花火を再現できないかな。

出来そうだけど…風と火魔法で…ちょっと神聖力も追加で…

子供達が何だか懐いてくれて、ずっと子犬みたいに近くでウロウロしてる。

可愛いなぁ…とホコホコしていると村長が声を荒げる。



「こら、こら!お前達!

 聖女様はお疲れなんだから、しつこくするんじゃないっ!

 それにもうチビ共は、寝る時間だろ!」


「えーっ!眠くないもん!」


「やだやだ!まだ寝ない!」


「せーじょさまぁ!魔法見せて!」


「やめないか!魔力だって簡単に使っていいものではないんだ!

 聖女様にご迷惑を掛けるんじゃない」


「あの…良ければ、魔法で花火を打ち上げてもいいでしょうか?

 上手くできるか分からないんですが…今練習中で実験してみたいんです。

 花火見たら、みんなちゃんと眠るわよね?」


「ほんと?やったぁー‼︎」


「で、ですが、聖女様…お疲れでは?

 こんな片田舎の子供の我が儘など…お聞き入れることは」


「いいんです、村長さん。私が試してみたいんです。

 それに、夜に魔力を放つと魔獣除けにも効果があるんですよ?

 追い魔力の魔獣除けです」


「し、しかし…」



微妙な顔をしてこちらを見ている、セオドア様とステラ様の所に行き、

今更こっそりお願いをする。



「いいでしょ?セオドア様、ステラ様」


「…花火って、他属性使う気ですか?サトミ様」


「えっと、そのぉ~、詠唱しないし…分かんないですって!

 それに、子供たちも楽しみに待ってるし…」


「魔力量は問題ないから大丈夫ですけど。全く…少しだけですよ?

 ところで花火なんて、いつ習得したんです?」


「ふふっ、こっそり練習してたんです」


「ステラ師団長、止めないんですか?」


「まあまあ、どんな花火か興味ないですか?」


「ありがとうございます!さっ、みんなお外に行こうか?」


「やったー!花火ーっ!」


「全く…あなたも甘いですね」


「いいじゃないですか、これくらい。一応報告してくれたんだし。

 新しいことをしたいって意欲を潰してはいけませんよ。

 それに、本当は見たいでしょ?」


「…はあ…何かあったら、ステラ師団長が責任とってくださいよ?」



そして、夜空に色とりどりの花火を上げた。

子供達は勿論、大人達も大喜びで大歓声の中約30分間頑張った。

自分の世界の花火を思いだし、火と風、神聖魔力を少し駆使してスターマイン、

最後に、4尺玉もどきを上げた。


あまりの大きさに歓声が悲鳴に変わって行き、少しやりすぎたかと反省したが、

予想外の派手な花火を打ち上げた私をセオドア様が般若みたいな顔をしている

横でステラ様はどうやってるかと喰いついてきて他の意味で大変だった。


そして、身代わり魔石を村人の人数分手渡すと、その綺麗さに皆大喜び。

ますます子供達に懐かれて、この村を去るとき少し寂しかったが、

初めての土地浄化仕事は、大成功に終わったのだった。



「はあ~綺麗でした、昨日の花火」


「ふふっ、喜んで貰って良かった」


「みんな大喜びでしたよ。

 あんな綺麗で豪華な花火なんて、多分初めて見たんじゃないですか?

 サトミ様、めちゃくちゃ好感度上がりまくりですよぉ」



まだまだ、私達の土地浄化の遠征は続く。

私は、まだ見ぬ風景や村や人々に出会えるこの遠征に思いを馳せて、

心が前向きに浮き立っていた。




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