飛竜落とし姫
「やはりか…」
「はい。間違いないでしょう。
この魔石の暗黒力は瘴気を発生させて魔獣を出現させています」
「コソコソとご苦労な事だ。それは、証拠として出せそうか?」
「はい。この魔力分析はレガリアの物で間違いないです」
「言い逃れは出来ないと。ふむ…さてどうするかな…」
「外交のタイミングとして、いつ切り札にするか…難しい所ですね」
「当分、気づかぬ振りをするが…
暗黒魔石が排除され、変わりに神聖魔石が埋め込まれているのが
バレるのは時間の問題か…」
「サトミさんの守護も付与してますから、見つかっても魔石には触れません。
レガリアの親善大使は、いつ来るのですか?」
「ああ、例の隣国王子の留学か…保留にしておる。
魔獣の襲撃が多数あり危険だから、今現在は大切な王族を預かれないとな。
それに今、敵国の人間に彷徨かれるのは少々不味いであろう?」
「そうですね。今はそれでいいかと。まったく舐められたものです。
ですが、こちらから動かずとも必ずまた仕掛けてきますよ。
皮肉なことに、大きな犠牲を払い我が国への攻撃目的の為に召還したはずの
サトミさんが、真逆の働きをしましたからね。しかも、害を及ぼそうとした
我が国で。あちらは今、相当余裕がないはず…何をしてくるか…」
「あえて、迎え入れるか?」
「…監視しやすくですか?」
「ああ、どう思う?ステラ師団長」
「リスクがありすぎます。もう少しこちらが落ち着いてからでいいのでは?」
「うむ。やはりまだ待った方がいいか…。
そういえば、ヴァニタリスが北の辺境の騎士塔に視察に行っていたな」
「そうですね。東と西の魔石埋め込み任務に同行して、
そのまま北に視察滞在ですか…ということは、サトミさんと対面してますね。
…大丈夫でしょうか?」
「あれもバカではない。強引な事はせん。
しかし、この前の魔獣の襲撃で、また飛竜を打ち落としおったか、
逞しい娘だ。また勲章を用意せねばなぁ。はっはっはっ。
…気に食わんのが、王宮から救援で送った騎士共が、
唐揚げとかいうのをサトミ殿にたらふく振る舞われて美味かったと
自慢し回っておる…私とてまだ試食程度で、そんなに食べてないのに…」
「陛下、話が逸れてます。
まあ、唐揚げは確かに美味いですよね。私は講師で行くたびに、
騎士食堂で食べられますけど。ふふっ。
…やはり本命は、聖女サトミさんとのお目通りで?」
「くうっ、貴様ぁっ!今度の登城でまたリクエストするからいい!
…さて、何のことやら」
「そういう姑息な真似をすると、嫌われますよ?
サトミさんは聡明な方ですからね」
「何なのだ、お前までっ…」
「私は、サトミさんに嫌われたくありませんので、
陛下の悪巧みに巻き込まないでください」
「…どういつもこいつも私を敵視しおって。
いいだろうが、少し位希望を持ってもっ…
しかし、サトミ殿が王族嫌いとは…困ったものだ」
「仕方ないですよ。恋心は何より変えがたい至宝。権力では手に入りません」
「う、うむ。来週から土地浄化の遠征であろう?準備はできているのか?」
「はい、滞りなく。長い旅路になりますから準備は万全です。
しばらく、私も聖女も北の最強幹部の2名の騎士も不在になりますので、
どうぞ警戒を怠らぬよう、充分お気をつけください」
「大丈夫だ。見回りを増やして対策しておる。
暗黒石をチマチマ埋め込んでいる敵国の姿を想像すると相当間抜けだが、
それだけ警戒して正面対決するつもりは、まだないのだろう。
大方、謎の多い稀人のサトミ殿の魔力を探りながらの様子見という所か。
遠征中に何も無ければいいが…」
「それは想定内です。だから私も同行するんですよ。
それに、サトミさんが神聖力を付与した身代わり魔石を皆持参していますし、
そんなに恐れはありません。陛下も先日渡されましたでしょう?」
「ああ、見事な出来であった。言われなければ魔石に見えんな。
透明で虹色に輝く宝石のようで、違和感なく服飾品として
身に付けられて実にいい。他の者達も大層喜んでおった」
「今は王宮務めの上位貴族と騎士団員だけに配られてますが、
そのうち国民全員分作るそうです。
遠征で行く村の人々にも配りたいと、毎日魔力切れに気をつけながら
制限して付与を頑張っておられます」
「なるほど、毎度誠に良い働きをするな…益々欲しくなる。
…そういえば、王宮内で聖女サトミ殿に面白い二つ名がついているのだが、
聞きたいか?」
「…二つ名、ですか?」
「飛竜落とし姫」
「ブフッ…」
「はっはっはっ、言い得て妙だろう?」
* * * * * * *
「サトミ様、こちらにもベリーが沢山なってます」
「ほんと?ありがとう」
ベリージャム作りの為、護衛騎士2人を伴って森に入っていた。
来週から、瘴気浄化の遠征に行くことになっている。
瘴気のせいで土が汚染され、農作物が育たずに困っている村が沢山あり、
加えて瘴気で怪我を負い、体が不自由になっている人達の治癒もするのだ。
ついでに身代わり魔石も遠征先の村人に配ろうと、
ステラ様の指導の元、毎日50個まで付与していた。
結構な個数になったから、足りそうだけど…
半年の遠征って長いなぁ…なるほど聖女って大変なんだな。
その留守中用に、ストックを沢山作っておきたい。
最近、スコーンもデザートで出していて、その付け合わせだ。
何故か、ジャムだけは私が作らないと不味いとクレームがくるのだ。
ちゃんと作り方指導したのになぁ…とぶつぶつ言いながら
ベリーをブチブチ摘む。
手押し車に、一杯のベリーを摘み終わり、
コケでふかふかの綺麗な緑になった、大きな岩の上にブランケットを敷き、
休憩する事にした。
「サトミ様、俺は少し回りを見てきます」
「うん」
そう言って護衛騎士の1人は、森の中に姿を消した。
もう1人は、少し離れた場所で私を見守ってくれている。
今日は、第9部隊の騎士2人が護衛についていた。
あれから、相変わらず王子殿下の付きまといはあったが、
いつも誰かが一緒に対応してくれたので、そんなに困らなかった。
向こうは毎回距離をとり続ける私に、苦虫を噛んだような顔をしていたが。
国王陛下も絶対この件に咬んでいるはず…今度詰めてみよう。
ふかふかのコケの上で、ごろりと寝ころび、空を見る。
この国の令嬢としては、はしたない振る舞いだが、
私は一応庶民のつもりなので、誰も怒らない。
足は、相変わらず出すと怒られるけど。特にグレンさんが。
空青い…けど…何か元の世界と違うんだな…
シアンっぽいんだ…青というより水色…透明でキラキラしている。
心地いい風が吹いて、白く3つの衛星が浮かぶ。
ガサリと、近くで草を踏みしめる音が聞こえ、
護衛が近づいてきたのかと首を動かす。
ヴァニタリス王子殿下が、立っていた。
………は?
何この人、まじストーカーじゃん。
そういえばこの人…微量だけど探知能力あるんだっけ。
もしかして、それを使ってるわけ?
日差しの下で、金髪がきらっきらに輝いて、
青い瞳が更に鮮明に見える。
無言で見返していると、王子は目を見開いた。
何、その瞳。
見惚れて熱が籠もっていて嫌なんですが。
「ここで…何を?」
それは、こっちの台詞なんだが?
私、寝ころんだまま無言。態度わるいし超不敬。
「王子殿下!困ります!
サトミ様との過度の接触は、ご遠慮下さい!」
見守っていた護衛騎士が、慌てて私と王子の所へ走り寄ってくる。
王子殿下は、手を軽く挙げ護衛を牽制する。
「これは偶然だ。倒れている女性がいると思い駆け寄っただけ。
他意はない。大げさに騒ぐな」
嘘つけ。
絶対、探知してここに来たくせに。
私、ステラ様から聞いて知ってるんだから。
この王子、微量な探知能力があるのだ。
あとは、水、火、風属性の平均的な魔力持ち。
王族は血筋のせいか、魔力持ちが多い。
多分あと二人の王子も何らかの魔力を保持しているはず。
「…で、なぜこんな所に?」
「ジャムの材料ベリーを摘みに来て、休憩してるだけです」
「…じゃむ?」
「デザートのスコーンについていた、赤いのです」
そう言って、私は体を横に向けてそっぽを向いた。
ここにいる理由は話したし。
これだけ塩対応されているのに、ちっともめげやしない。
大した強心臓の持ち主だ。権力で傅かれてきた者の余裕だろうな。
結局…金と権力が物をいう世の中なのは、
前の世界でも私は痛いほど理解している。
だからこそ、贖いたくなるんだけど。
ああ…どっか行ってくれないだろうか。
「サトミ殿」
「……はい?」
「少し話せないだろうか?」
「休憩中です」
「ああ、分かっている。その上でお願いしているんだ」
うっざぁ〜い‼︎
遠回しに断ってんだろぉ!あっち行けやぁー‼︎
「王子殿下、サトミ様は休憩中だとお断りしているんです。
よろしければ、騎士塔までお送りします。
それに王族が共も付けずに、単独で行動するなど無用心です。
ニーレ戻ってこい。王子殿下を騎士塔までお送りしてくれ‼︎ 」
「……わかった。では、サトミ殿、また」
「お気をつけて、さようなら〜」
森の見回りに行っていた騎士が慌てて戻り、王子殿下を伴って行った。
私はそのまま昼寝をして、30分後に騎士塔に戻り、
手押し車一杯の大量のジャムを作りまくった。これで半年は持つだろう。
冷ましたジャムを次々瓶詰めする作業をしながら、ため息をつく。
あの王子、何とかして私と縁を作りたいんだろうけど、焦りすぎじゃない?
多分いつも当然のようにモテて、黙ってても女性が寄ってくるから、
自分から近づく方法が分からないんだろうな。
あ〜あ、早く帰ってくれないかなぁ。




