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〈連載中〉飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


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第一王子ヴァニタリス





「これで全部です」


「おお、素晴らしい。これだけあれば大丈夫でしょう。ご苦労様でした」


「ステラ様、その後の南の辺境の魔獣の出現率はどうですか?」


「ええ、問題ないです。魔石の効果でしょう。

 今度お礼の品を南の辺境から送くるそうです」


「え、仕事なのに…お礼なんて…」


「まあまあ、受け取るのも礼儀ですよ。

 魔獣の脅威は命取りですから、彼等も感謝してるんです」


「あと東と西の辺境にも魔石を埋め込めば、大分安心できますか?」


「とりあえず今までのような、魔獣の襲来は押さえる事ができるでしょう」


「…そうですね。他の方法を取られたら、また対応しなくていけませんね…」


「ええ、その時にまた考えればいいです。

 今回の魔石の設置には、レイ副団長と他数十名が約3週間ほどの

 派遣になります。王族も同行するので…第一王子ヴァニタリス殿下ですね」


「ええっ!現場に王子殿下が同行するんですか?」


「第一王子の強い希望みたいです。現場をみたいのでしょう。

 前回南辺境の調査も、危険はありませんでしたし、

 だから許可が降りたのでしょうね」



そういえば、王子様達にまだ会ったことないな。

まあ、会いたくないけど。



「ああ、それからこれを。グレン団長、王命です」


「ええ、聞いています」


「え?何ですか、その巻物?」


「立て続けで申し訳ありませんが、王命証書です。

 来月から約半年、瘴気で汚れた土地の浄化、怪我人の治癒の為に、

 聖女様と騎士団で遠征に行ってもらいます」


「へっ?」



南の辺境派遣から帰ってきて魔獣討伐したばかりで、

休む間もなく次の任務を命令され、少し面食らった。しかも半年…


ともあれ、私は行かないが、

先に東と西に神聖力の魔石を埋め込み作業がある。


私の神聖力が付与された魔石80個を大事そうに抱えて、

レイ副団長と騎士団員は出発した。王子様は途中で合流するそうだ。


みんなに怪我をしないよう、守護付与した魔石に糸を通して

剣に付けられるホルダー仕様にして1個づつ渡した。


これは1回だけ命に関わる怪我を代わりに受けてくれる

身代わりお守りみたいなものだ。

皆大喜びしていたが、今回同行しない人達の物欲しそうな視線に耐えられず、

後日全員分作って配布することを約束した。



「心配?」


「はい。勿論。仲間ですもの」


「そうだったね。君はもう俺達の仲間だ」



そう言って一緒に見送りにきていたグレンさんは、私の手を握った。

私達の仲はもう周知されているから、彼はもう人目を余り気にしなくなった。

粋なり腕を引き寄せ抱き上げられて、背中に背負っておんぶされた。



「よいしょっと…」


「へっ?!な、何してっ…」


「はははははっ!走るよ、しっかりつかまって!」


「きゃああああっ!ちょっと!グレンさんっ、何々⁉︎」



グレンさんは私を背負って、もの凄い早さで走り出した。

落ちないように、必死に彼の首にしがみついていると、

彼の足がピタリと止まる。



「見てご覧、サトミさん」


「え……」



いつの間にか小高い丘の上にいた。

その先には、先ほど出発を見送った騎士団員達。

理路整然と隊列を組んで前進している。



「あいつらは、大丈夫だ。見ろ、あの頼もしい進軍の姿を」


「うん……」


「何度も、死闘を共に乗り越えてきた仲間だ。

 他の部隊とは違って、北は特に絆が強い」


「うん。毎日側で見てきたから私にも分かる。

 南の人達が、緊張感がなくてバラバラで驚いたもの」


「平和な場所にいすぎると、人間は危機感が薄れ努力を怠り、

 腑抜けになって怠惰で堕落していく。

 だから、戒めの意味も込めて、

 王宮所在地をわざわざ危険な北の側近くに配置しているんだ。

 有事が起こった場合、指揮も執りやすいしね」


「そうなんだ…凄い…先代は、先のことを考えてるんだね」



そうか…王都は、なんでこんな端なのか、

ずっと疑問だったけど、そういう事だったんだ。

油断すると簡単に陥落される場所に

わざと置いて、常に緊張感を持たせるために。



「一時期、あまりにも北に魔獣が出現するから、

 貴族連中がこぞって南に引っ越そうとして、

 陛下に領地放棄して移転認証を申請受理させようとしてたんだけど、

 それが…ははははっ」


「え?何々?何笑ってるの?」


「ああ、ごめん、思いだしちゃって……

 陛下はあっさり認証受理したんだけど、こう言ったんだよ。

 “もし有事が起こったら、南の騎士団は、

  さぞ頼もしい働きをしてくれるだろう。安心して移転するがいい”」


「うわ、すっごい皮肉…嫌み?…いや脅迫?」


「だろ?そしたら、全員が移転認証取り下げたんだ」


「うわー…あははははははっ!あからさますぎっ!」



私の心配をよそに彼等は無事任務を成し遂げ、帰還する知らせが届いた。

沢山のエールの樽と沢山の料理を用意して、慰労会の準備をした。


そして、彼等は全員揃って元気に帰還。


何故か、王子殿下を同伴して。


今、目の前には、その王子がロイヤルスマイルで優雅に立っている。



「サトミさん、紹介しよう。今回調査と実行部隊に同行した

 第一王子のヴァニタリス殿下。

 北の辺境の騎士塔を公務としての視察を希望され、5日程滞在予定だ。

 王子殿下、こちらは聖女のサトミ・ヒリュウです」


「……え…あなた、は…」


「初めまして…では、ないですね。サトミ殿」


「サトミさん?」


「グレンさん…あの…前に、会ったことあるんです。食堂で…」


「どういう事です?ヴァニタリス殿下?」


「申し訳ありません。お忍びで食堂にお邪魔しました。

 聖女サトミ殿に、ぜひお目に掛かりたくて」


「…私を試したんですか?」


「いいえ。単なる好奇心でした。あれだけ父上が…いえ陛下が気に入る方が、

 どんな人なのか実際お会いして、話したかっただけです。

 それに、私が王子と分かれば、あなたは会ってくれなかったでしょう?

 とはいえ、偽っていたのは事実です。

 不愉快な思いをさせてしまったのなら謝罪します」


「ええ、分かります。

 王族として、私が国にとって利用価値があるか見定める為ですよね?」


「それも、あります。個人的には、あなたの人となりが見たかった。

 そして、その結果、私はあなたを存外に好ましく思っています。

 あなたは礼儀正しく親切でした。

 私に、料理の詳細を丁寧に説明してくれましたね。

 あの食事も素晴らしく美味しかった」


「そうですか。それは、ありがとうございます。

 …もう下がっても?」


「おや、ははっ…嫌われてしまいましたか?

 やはり正体は隠すべきでしたね」


「私は、この国を出ていったりしませんし、

 臣下として忠実に働くと国王陛下にも忠誠を誓っています。

 そして、聖女としての役目は果たします。なので、ご心配には及びません。

 今後は、探るような真似は控えてください」


「分かりました。今後は王子として堂々と会いに来ます。

 それでいいですか?」


「…そんな風に権力を笠に着て、断りにくくするなんて、

 卑怯ではないですか?」


「これは困ったな…本当に王族が嫌いなのですね。どうしてです?

 私は王子としてではなく、個人としてサトミ殿と仲良くなりたいのです」


「関わりたくないだけです。

 王族や貴族の権力や派閥争いに、利用されたくないのです。

 それに、王子という立場から、あなたの発言は命令になり強制になる。

 あなたこそ、ご自分の立場が分かっていないのでは?

 それともわざと知らないふりをして私を馬鹿にしているのですか?」


「ははっ、これは、これは…手厳しい。…なるほど。実に聡明な方だ。

 陛下が気に入る訳ですね。益々仲良くしたくなりました」


「私は遠慮したいと言っているのです。

 人を試したり、騙したりする人は、その相手を信頼していない証拠。

 そんな方と親しく出来るとは思えませんし、したくないです」


「私の立場としての振る舞いや、王族としての駆け引きが誠実なあなたには

 裏目に出てしまいましたね。不愉快にさせてしまったのなら謝ります。

 クセになっていて悪気はないのです。どうか、許してはいただけませんか?」



スルスルと言葉が出てくる口達者さにうんざりする。

この張り付いたような余裕のある微笑みと、隙のない話術と駆け引き。

貴族特有の心を隠す仮面の笑顔と、遠回しの討論が、特に私は嫌いだった。


笑顔なのに目が笑ってない。

本心なのか、建前なのか、何を考えているのか分からない言葉の数々。

その笑顔の裏で、様々な選択肢の先読みをして計算しているのがわかる。

それがバカにされているみたいで、イライラする。


それに、この人は、私が聖女だから近づいてきているだけだ。


聖女の力がなければ、私など見向きもしないはず。

魔力があってもなくても、関係なく受け入れてくれた騎士団の皆とは違う。



「とにかく…殿下は今後、必ず先触れをいただきたく存じます。

 それを受けるか受けないかは、サトミ様次第です。

 双方よろしいですね?」



セオドア文官が、私達の終わらない口論戦をまとめてくれた。

彼は、最初こそ失礼な物言いだったが、最近は文官として自覚しているのか、

立場に徹して礼儀正しく対応してくれていた。


王子は、まだ私の許しを乞うように私をジッと見ている。

大体正体を偽ってまで、お忍びで来る方が悪いし、失礼だ。

だまし討ちだし、試されたいたみたいで、どうにも気分が悪い。



「そうだね。確かに不敬だった。

 それこそ、自分の地位を利用したと言われても仕方ない。

 すまなかった。サトミ殿」



そう言って、ヴァニタリス殿下はスッと手を差し出した。

納得いかない私が、無言で何も反応しないでいると、

彼は一歩近づき私の手を取り、手の甲に口付けを落とそうとしたが、

私はスッと手を引き、両手を腰の前で握り締めた。 


大人気ない態度だが、こういう人には、毅然と拒否をしないと伝わらない。

それを見て、王子殿下は一瞬眉を顰め、すぐにフッと目を細める。



「本当にすまなかった。これから、挽回させて貰えないだろうか?」



そう言って、少し前屈みになり差し出した手を優雅に自分の胸に添えた。

今度は下手にでる作戦か。

謝ってるのに、何か偉そうなんだよなぁ…


後ろに下がって、触れられないよう距離を取る。

勝手に触るんじゃねぇ。断固拒否じゃっ!

ちょっと、見目のいい王子様だからって、

女がみんな、自分に靡くと自惚れてるのがチラチラ見えるのよ、この人。


私はグレンさんのように、硬派で誠実で、

男らしくて強いワイルドな人が、好みだもんねーだっ。


そう、見目や権力より、努力で作り上げた実力のある人のが何よりも魅力的。

アイドルよりアーティスト。王子より騎士が好きだ。

騎士は命がけの職種。権力に守られている王子とは違う。

ピリピリした緊張感と忠誠心、使命感を纏う雰囲気がなにより格好いいのだ。



「……話も終わったようなので、我々は退室します。

 では、殿下失礼いたします」



私が終始拒否の姿勢を崩さず、無言を貫いていると、

グレンさんが挨拶をすませて、私の手を取り一礼して部屋を後にする。


廊下を無言で歩きながら、チラリとグレンさんの方を盗み見る。

彼は私をずっと見ていたのか、直ぐに目が合った。



「大丈夫?」


「うん…不愉快だっただけ」


「はははっ。凄い拒否反応だったな。王子も全然引かないし。

 しかし、お忍びで来ていたとは…油断ならないな」


「ごめんなさい…私気が付かなくて、騎士の方だと…」


「いや、サトミさんは悪くない。顔も知らなかったんだし。

 それに付け込んで会いに来たのは、向こうだ。

 しかし、困ったものだな…王家の連中も…

 しかも殿下は君を随分気に入ったみたいだし」


「気に入った?あの態度が?私が聖女だから近づいてきただけでしょ?

 さっきの物言いだって、小馬鹿にされてるみたいでムカついたし。

 それに、私グレンさんと婚約してるでしょ?」


「そんなの気にしないよ。

 あの第一王子は、温厚そうに見えて、実は結構強引だから、

 いざとなれば、王族の権力でどうにでもなると思っているんだろう」


「はあ⁉︎ もうこの国出ていってやる‼︎ 」


「はははっ、大丈夫だって。聖女の魔力と心情はリンクしているから、

 機嫌を損ねると、その魔力を発動できなくなるって知ってるだろ?

 だから無理強いできないよ。国王陛下も承知している」


「それを知ってるのになんで?」


「まだ、チャンスがあると思っているんだろう。

 強引に出て来ないのは、君の心を手に入れるためだ。

 それに…婚約だって絶対じゃない」


「私を自分に惚れさせようとしてるの?どんだけ自意識過剰なのよ」


「この国の女性は、ほとんどと言ってもいいぐらい、

 王子達に取り入ろうと必死だし、自惚れてても仕方ない。

 君が予想外の女性だって、まだ理解できてないんだよ。

 俺は、そういう所も含めて全て好きだけど」


「え、やだ…グレンさんたら…」


「さて、慰労会やるんだろ?食堂に行こうか」


「そうだった!みんなを労わないとね」



無事に帰った元気な皆の所へ行き気分も良くなり、

もうあの王子など、どうでもよくなった。


レイさんから聞いた話では、任務に関して王子は常に静観しており、

西と東の最高責任者の団長と何か話し込んでいたが、

基本、まったく口出ししたりして邪魔しなかったそうだ。

どうやら、仕事はちゃんとしてたみたい。


私が皆に渡したお守りを羨ましそうにしていたそうだが…

そのうち、王族の方々にも贈ろうと思っていた。

でも、騎士団の皆が先だ。


そういえば、王子殿下は5日間もここにいるんだっけ…

滞在中は、なるべく顔合わせないようにしよう。




* * * * * * *




「おはよう、サトミ殿。精が出るね」


「……おはようございます」



朝練に参加していたら、王子殿下も参加してきた。

何やってんの、この人。

そっと距離をとり、ジョギングしている一団に参加する。



「おはよう、サトミさん!」


「おはよう、アレンくん」


「後で、剣術の手合わせしてよ」


「うん、いいよ」


「私も見学させてもらっても?」



いつの間にやら、王子殿下が一緒に走って会話に入ってきた。

私が微妙な顔をして無言でいたら、アレンくんも察したのか

素っ気ない態度で返事をしてくれた。



「お好きにどうぞ、王子殿下様々」



すっごい、嫌みな言い方…

一瞬冷や汗が出たが、殿下はあの笑顔で「ありがとう」と答えた。



「いくよ!」



その後、1時間程打ち合いをした。

最初は王子の視線が気になったが、すぐに集中してアレンくんと向き合った。

若いだけあって、私の早い剣捌きにも対応して互角になってきた。



「あーっくっそ!また勝てない!サトミさん動き早いってぇ!」


「あははっ。少し休憩しようか?」



練習場の端にあるベンチに座り、汗を拭き水分補給をしていると、

ずっと静観していた、王子殿下が近づいてきた。



「お疲れ様。いい手合わせを見させて貰った。

 今まで見たことのない太刀筋だったが、サトミ殿は剣術の心得があるの

 だろうか?あなたの世界では、女性が剣を振るうのか?

 平和な世界だと聞いていたのだが…」


「私の世界では、今現在は人を殺めたりするのではなく、

 スポーツや精神の鍛練を究める人達だけ、自主的にやります。

 全員ではありません。私は、剣道という竹でできた竹刀という物を

 剣変わりに扱って、試合では防具も身につけていました」


「なるほど…実に興味深い…あの突きは、なかなか除けられないのでは?

 まるで、アサシンのような動きだった。

 そういえば、君は弓矢の腕前もなかなかだと聞いたが、それも前の世界で?」


「はい。弓矢は弓道と呼ばれ、これもスポーツと精神鍛練です。

 こちらの世界とは違って、弓が私と同じくらいの大きさです」


「見せて貰っても?」


「ええ。武具小屋にあるので取ってきます」


「俺も行くよ、サトミさん。

 新しい模造剣出さなきゃ。これボロボロになったし…」



アレンくんと武具小屋を目指して歩いていると、なぜか王子殿下もついてくる。

しかも、優雅に歩いているように見えるのに、

足の下にローラーブレード仕込んでるのかってくらい歩くのが早い。



「ほお、これは…綺麗に整理整頓されている。

 他の部隊は雑然としていたが…」


「サトミさんが、分類分けしてくれたんっすよ。

 あーあ、レイ副団長にまた模造剣作って貰わないとなぁ…大分消費してる」


「そうだね。矢もまた増作してもらおうかなぁ…あ、あった…」


「その大きな弓を使うのかい?凄いな…」



私の身長と同じくらいの弓を見て、目を見開き驚いていた。

まじまじと見て私に向き直り、想像通りの要求をしてきた。



「実践している所をみせてくれないだろうか?」



そして目の前で弓道を実演して、打ち方を指導したが、

やはりこの国の人は、やりずらいのか上手く打てなくて悔しそうにしている。



「これは…難しい…良くあんなに綺麗に打てるものだ」


「慣れです。ここでは、私以外誰も打てないんです」


「なるほど…しかし美しい作りの弓だ」


「ああ、ここにいた。おはようサトミさん、食堂の人達が呼んでるよ?」


「レイさん、おはようございます。あ、そうだった。

 今日大量にコロッケ作るんだった。分かりました、すぐ行きます!

 弓矢使い終わったら、戻しておいてください」


「え?今日コロッケサンドだっけ?」


「そう。楽しみにしてて、アレンくん!じゃあね!」


「やったぁー!いってらっしゃい」


「……ころっけさんど、とは?」


「彼女が、考案した今日の昼食です。殿下。

 凄く美味しいので、お昼に是非食べてみてください」


「殿下…サトミさんに、あんまり付きまとわないでもらえます?

 彼女凄く忙しいんっすよ」


「噂通り人気者なのだな。

 誤解があるようだが、私は彼女を疑い探っている訳ではない。

 誓って敵意はない。ただ単純に興味がある」


「…聖女だから、でしょ?」


「それもないと言ったら、嘘になるな。

 だが、彼女はそれが無くても非常に魅力的な女性だ」


「彼女はグレン団長の婚約者です。どうぞご容赦を」



こういう対応をされるのは慣れている。

王族というだけで、無条件に好意を寄せられ、無条件に嫌悪される。


だが、今回のこれは、私の軽率な行動と偽りに対しての割合が多い。

王子という地位と環境のせいで、形成されたこの性格や振る舞いは

早々治せるものではない。


遠回しで駆け引きばかりの裏の読み会いの会話の中で、

彼女はハッキリ、拒絶の理由を私に伝えてきた。

自分の地位を偽り騙したのが信用できず、そんな私のやり方が嫌だと。


あの感情的ではなく、筋を通す実直さは、

なるほど父上が気にいるはずだ。


それに、あのシルクのように動く美しい黒髪…

まるで黒曜石のように黒い瞳なのに透明感があり、

小鹿の様な可憐さと上品なエチゾチックな美しさ。


細い体からは、想像も付かないウチから湧き出てくる力強さ。

あの巧みな剣術、難易度の高い弓の使い手、規格外の魔力量。

前の世界のあの貴重な知識に加え、物怖じしない強さと賢しこさ。

関われば関わるほど、惹かれる魅力的な女性。



王家こそ、あの娘のいる場所に相応しいではないか。



もう、既にグレン団長を伴侶として選択してしまっているのは、

後れをとったのを正直悔やんだが…諦めるのはまだ早い。


男女の仲など、何があるのか分からない。


私は、散々それを目の当たりにしてきた。



どうしたら───あの娘の心を手に入れられるだろうか。




* * * * * * *




「コロッケ全部揚がったよ~♪油片づけるね」


「おう、流石だな!助かった」


「パンに挟む作業手伝うよ」


「いや、いい。休憩しろ。お前騎士団の朝練もしたんだろ?

 あとは俺達だけで、充分昼には間に合う」


「そう?ありがとうジンさん。じゃあ、シャワーして少し休む。

 夕飯の準備は、いつも通りの時間で大丈夫?」


「ああ、頼むわ」



食堂を後にして、私室に戻ろうと廊下を歩いていたら、

グレンさんがいた。



「グレンさん!」


「サトミさん…」



何か心配そうな顔してる。どうしたんだろう…



「王子殿下が、付きまとっていると聞いたが大丈夫か?」


「ああ、うん朝練の時でしょ?

 でも大丈夫。アレンくんやレイさんも一緒にいてくれたし」


「そうか…なら、大丈夫か…」


「心配してくれたの?」


「うん」



そういうと彼は、私を抱きしめた。嫉妬してくれたのだろうか…



「……だが…彼は非常に魅力的ではないか?

 君は接触を拒んでいたが…実際対峙して王子に何も感じない?

 今は、どう思ってる?」


「あははっ、大丈夫。確かに綺麗な人だけど、それだけだよ。

 王族特有の遠回しな物言いも苦手だし、昨日から印象は変わってないよ。

 それに私が聖女だから、近づいて来ただけでしょ、あの人。

 私が心を許しているのは、グレンさんだけだもの」


「すまない…疑うような事を…

 信じてはいたのに、不安になってしまった…」


「ううん。私こそ不安にさせてごめんなさい。

 私も王女殿下が、グレンさんに声掛けて来た時、面白くなかったもの。

 絶対1対1で対峙しないようにするから心配しないで。 

 それより、グレンさんは今休憩中?」


「そうだね。一段落した所だ」


「私もそうなの。これから私の部屋でお茶でもどうですか?」



その後、私室でお茶どころか、

嫉妬したグレンさんに、深い口づけ攻撃を喰らいまくり、

私は、再びふわふわの意識不明になった。





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