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〈連載中〉飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


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文官の後悔




出世のために聖女と親密になれと、

あわよくば夫の1人として選ばれろと父上から言われていた。

さらさら実行する気はなかったが…

早速、騎士団の団長と婚約とは…やはり聞いたとおりの女だと思った。

そして、苛ついて、つい皮肉を言ってしまった…

だけど、聞いていた話と随分違う。


あの聖女…どういう事だ?


歴史書の文献でも、聖女の地位と可憐な外見を利用して、

男達を籠絡する、淫乱売女みたいな傲慢な女じゃないのか?

夫は、1人だけだと言っていたぞ?


……いや、口では何だって言える。

しかし…


“ あなたが私の事をどう思おうと勝手です。

でも文官というお立場なら、中立に物事を見定め

判断される事をお薦めします ”


あれは、愚かなバカ女から出る言葉ではない。

あの侮辱に対して、感情的にヒステリックになるどころか、

冷静にいい返してきたのだ。


それに、あの目…

上位文官達と同じ、思考が深い、知性のある目────


もしそうなら…私は取り返しのつかない事をしたのではないか?

いや、後悔してももう遅い。

今は、私の目で見てしっかり彼女の人となりを見極め、判断するのみだ。


さてと…夕飯は騎士食堂で取るんだったな。

そろそろ行くか。




* * * * * * *




「君、もしかして王宮から来た文官?」


「ええ、セオドア・ネロ・エダーヴァルトです。以後お見知り置きを」


「エダーヴァルト…宰相のご子息か?

 へえ、華の王宮勤めなのに王命でこんな辺境にお気の毒に。

 あんたにとって不本意な場所だと思うが、まあよろしく頼む。

 俺は、第一騎士団の副団長レイ・バーティス。

 こっちは、副団長補佐のサイラス・レドゥーヤ。

 食事は、ここの第一騎士団食堂が一番美味いから利用するといい」


「ああ、よろしく…ここが一番美味い?

 他の部隊の騎士団食堂とは、違うのですか?」


「第一騎士団のは、サトミさんが考案してくれた料理が先がけで食べれるし、  

 丁寧に作られているから超絶旨いんだよ。

 他の部隊の食堂にもレシピ公開してるけど、作り方が雑で、

 同じ感じで仕上がってないんだ。今度食べ比べてみるといい。

 まあ、お陰で仕事の志気が上がって皆大喜びだし、

 彼女が来てから、いい事ばかりだ」


「確か…グレン団長と婚約していますよね?」


「ああ、あの2人、やっとくっついてくれたんだ。

 お互い両思いなのに、ナカナカ進展しなくて、なぁ?」


「本当にじれったかったな。ずっと皆で応援して見守っていたんだ。

 グレン団長も幸せそうで、本当に良かった」


「そう…なんですか?」


「彼女可愛いし、優しいから、懸想してる連中も沢山いるけど、

 サトミさん団長に一途だったから、見向きもされなかったもんなぁ。

 婚約発表で何十人泣いてたっけ?ははははっ!」



すると、周りに居た他の団員も話に加わってくる。



「だって、飛竜打ち落とすんですよ?あの人。

 あんないい女どこにもいないって!」


「か弱い華奢なお嬢さんかと思ったら、度胸も腕っ節もあるし、

 優しくて賢い、おまけに可愛い!ほんといい女だよなぁ~」


「この前の魔獣襲来の結界魔法凄かったんだぜ。

 馬に乗りながら颯爽と現れて、あっという間に魔獣蹴散らして。

 お陰で死者1人も出なかったんだ」


「は?彼女は、共に討伐に出ているのですか?」


「勿論。この間、王宮で褒章と聖女の称号与えられただろ?」


「あれは…本当に彼女の功績なので?」


「…何、言ってんだ。当たり前だろ。

 あんた、まさか他人の手柄を彼女の建前の実績にしたって言うのか?」


「だって…そうじゃありまんか!

 あんな小柄で、華奢な女性が討伐など出来るはずっ…」


「やれやれ、もしかして王都の連中って、

 聖女は単なる名ばかりのお飾りとか思ってんの?」


「最近の成果も討伐もほとんどサトミさんの手柄だぜ。

 信じられないなら、あんたも今度討伐に同行しな。出来るものならな」


「せいぜい足手まといにならないように気を付けるこった。

 ひょろガリのメガネ兄ちゃんよぉ!ははははははっ!」


「こら、お前達口を慎め。これでも彼は、次期宰相候補なんだ。

 失礼しました。セオドア文官殿。血の気の多い連中ばかりでご容赦ください」


「捕捉すると、彼女は魔力だけでなく、それを補佐する剣術も

 乗馬もこなします。毎日俺達と一緒に演習や訓練に参加してるし、

 その辺の街の男性より、強いんじゃないかな?」


「そうそうサトミさんは、もう俺達の同士なんだ」



つぎつぎに騎士団員達から飛び出す賞賛と、

彼女のやってきた実績と手柄を信じられなくて目眩がした。


異世界人の女性は、聖女の魔力に加えて、こんなに多才なのか…

力では敵わない男と混じって戦うなど…正気の沙汰ではない。


だが、彼女は共に戦う仲間として、同士として、

この騎士塔の皆に心から歓迎されて、認められている。


さらに衝撃だったのは、この食堂で出されている料理だった。

今まで見たこともない料理と調理法。

そして何より、どれも信じられない程美味しかったのだ。

しかも、今日は休みだが、彼女みずから食堂でも調理と配膳も担当するそうだ。


私は、聖女について残された文献と、

貴族間の妬み嫉みで歪んだ偏見まみれの噂を鵜呑みにして、

禄にその真相の事実確認もせずに…

彼女にあんな醜い言葉をぶつけてしまったのだ。


“ 文官というお立場なら、

中立に物事を見定め判断される事をお薦めします”


あの言葉が脳髄を貫かんばかりに深く突き刺さった。



文官失格だ…彼女に謝罪をしなくては…




「おや、セオドア殿。派遣された文官はあなたでしたか」


「ステラ師団長⁉︎ なぜ、あなたがここに?」


「サトミさんの魔法基礎講習の指導の講師で来てるんです。

 今日は別件ですがね。ここの食堂いいでしょう?

 私もすっかり虜になってしまいした」


「……ええ、確かに通いたくなる美味しさです。

 騎士塔の方々が羨ましい」


「まあ、我々より彼等騎士団の方が危険な前線で日々命をはって

 任務をこなしていますからね。これぐらいの役得があってもいいでしょう。

 彼等のお陰で、我々は魔獣の脅威から随分守られているのですから」


「ええ、その通りです。

 先ほど…騎士団員達より話を聞きましたが、

 聖女殿も討伐に参加しているとか」


「はい、彼女の強い希望なんです」


「良く国王陛下がお許しになりましたね?

 国にとって聖女殿は保護対象でしょう?

 王子との縁談も断られたとか…」


「王族の縁談をお断りしたのは、貴族の堅苦しい生活が

 性に合っていないからです。

 知らない国に突然召還され、魔獣に追われて、

 危ない所を助けて貰った騎士団に恩を返したいそうです。

 だから、騎士団と共に戦うことを選択して、

 騎士塔に留まる事を希望されたんですよ」


「そう…ですか…」


「信じられませんか?

 まあ、そうですよね…あんな女性は、この国にはいませんから。

 私も最初偏見を持って、彼女に掛けた言葉で嫌われてしまいましたから」


「…あの文献と噂を鵜呑みにしたのですか?」


「あなたも、そうなのでは?」


「ええ、お恥ずかしいかぎりです…

 私は、彼女に大変失礼な挨拶をしてしまいました。

 そして、冷静に言い返され、諫められました。

 文官として、噂の事実関係を明らかにする必要があったのに…

 不甲斐ない限りです。…きっと嫌われてしまったでしょうね」


「挽回の機会は、いくらでもありますよ。

 サトミさんは誰にでも寛大な方です。今に分かります」



そうだろか…

初対面で知りもしない相手に、あれだけの侮辱をうけたのだ。


私だったら、一生許さない自信がある。


しかし、なぜ私は、あんな噂ごときに惑わされてしまったのか。

…らしくない。



ああ…そうか…………嫉妬だ。



突然現れた、どこの馬の骨とも分からぬ女が、

聖女と褒め称えられているのが、何の努力もなく魔力を得て、

その境遇が恵まれている気がして、面白くなかった。


だが、実際はどうだ。

彼女は見知らぬ、この異世界で謙虚に自分の役目をこなそうとしている。

そして、元の世界に帰れないと聞いた時、一度だけ涙を流したという。



当たり前だ。



勝手に、人生と未来を強制的に変えられてしまったのだ。

こんなに理不尽なことはない。


私は、そんな彼女にあんな言葉を投げつけたのだ。


なんと浅はかで、想像力がない

愚か者だったのだろうか────




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