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〈連載中〉飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


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打ち上げと不穏な影




皆討伐後の高揚感で元気いっぱいだった。

戦いの後で皆お腹が空いてるだろうし、

飛竜の肉を使って唐揚げを大量に作りまくり、

エールと共に打ち上げの意味を込めて、

皆に振る舞った。



「みんな、お疲れ様!好きなだけ食べて飲んで!」


「おおっ!待ってました!」


「ありがとうよ!サトミちゃん!」


「何だ?いい匂いだな。我々も頂いていいのだろうか?」


「勿論です。王都の騎士団の方々も良かったらどうぞ!

 飛竜の肉を使った唐揚げです。沢山あるので、いくらでも食べてください。

 エールは樽から自分で注いで、好きなだけ飲んでくださいね!」


「…随分と聖女殿は、友好的で働き者なのだな。では遠慮なく」


「折角だ、ご馳走になろう。美味しそうだ」


「サトミさん、俺も手伝う!今食堂人手不足だろ?」


「ありがとう、アレンくん。

 じゃあ、揚げたてのをお皿に盛りつけて、皆に運んでくれる?」


「はいよー!」



上機嫌で打ち上げを楽しんでいる皆の為に、私は食堂で作業しつづけた。

居酒屋でのバイト経験が、こんな時に役に立っている。


少しエリカさんと食堂の調理係に任せて休憩を取る為、

食堂の裏口から外に出て伸びをする。



「はあ~…流石に疲れた…な……」



でも良かった…みんな軽い怪我はあれど無事だったし…

色々怒濤の展開で大変だったけど、一応回避はできた。



今回は…



きっとまた次が来る。


その前に先手を打たねば…

また同じ事をしてくる確率は低い。

でも、万全の警戒をしておくに越したことはない。


その対策として、神聖力を付与した魔石を西と東の分も作らなくては。

魔力切れを起こさないように作業しないと…

魔力量が多くても、器の体が耐えられないと簡単に壊れてしまうらしいし。



暗い夜空に瞬く星を見ながら、外のベンチに腰を掛けてぼんやりする。



綺麗…星がよく見える。



私の世界は月しかなかったのに、ここは見たことない衛星が3つ浮かんでる。

時々まだ慣れなくて、夜空を見上げるたびにギョッとする。



「こんばんは」


「…っ、…⁉︎」



突然暗闇から声を掛けられ、体が跳ね上がった。

驚いて声のする方へ振り向くと誰かが立っている。


暗くて…顔が見えない。


多分、騎士団の人だろうけど…聞いたことのない声だった。

王都から派遣された、騎士団員の人だろうか。



「こんばんは。あの…みんな食堂にいますけど参加しませんか?

 エールと軽食ありますよ」


「いや、いいんだ。食欲ないし、それに賑やかなのは苦手なんだ」


「そう、…ですか」


「少し話しても?」


「ええ、構いませんが。あの王都の騎士団員の方ですか?」


「ああ。ここは初めてで…あなたと話したかった」



少し放れた距離でブーツとズボン、シャツまでは明かりで見えるが、

顔が影になって暗闇に紛れて、ちょうど見えない。

暗闇から話し続ける彼を不審に思いつつ、彼に向き合った。


階級と所属を聞いた方が良かっただろうか。

最初に聞かなかったから、今聞いたらタイミング的に怪しまれるかもしれない。



「あの結界は、君が?」


「え?…ええ。そうです」


「他には、どんな事が出来る?」


「…お応えできません。

 私の魔力に関しては、箝口令が敷かれているはずです」


「あ?ああ、そうだった。悪い…つい気になって」



やっぱり、何かこの人おかしくない?


どうしよう…


変な態度を取って相手に気づかれたら、

どんな行動に出るか分からない…



「ここの人達は、君には優しくしてくれる?」


「はい。得体の知れない私に本当に良くしてくれてます。

 だから、ここが好きだし、恩返ししたいと思っています」


「そうか、大事にされているのか…

 でも、君の意志とは関係なく召還されたんだろ?

 恨んでないの?」


「はい。もう元の世界には戻れないし、ここに馴染むしかありませんから。

 この世界に呼ばれたのは意味があり、何かの役割があると思っています。

 でなければ、誰1人知る人が居ないこの世界で…

 私は生きる意味がないんです」



これは本心だ。

この人が誰であれ…これは伝えたい。



「元の世界に戻りたい?」


「勿論戻りたいです。

 でも、不可能な望みにすがって後ろ向きに生きるより、

 この世界で生きていく術を学んで、前向きに生きていく方がいいでしょう?

 時間は有限ですもの」



黒目黒髪の珍しい外見だが、普通の善良な娘だ。

あの規格外の魔力量を除いては。


そして、自分の置かれている立場を理解して、

ただ悲観するのではなく、しっかり現実を見据えて

健気にも前に進もうとしている。



「そうか…俺はそろそろお暇するよ。答えてくれて、ありがとう」


「いいえ。もうお休みになります?よければ夜食を用意します。

 すぐお持ちするので、お部屋で食べてください」


「いや、そんな必要は…」


「すぐ出来ますから!夜中にお腹空くと困るし、

 騎士は体力勝負でしょう?」



そう言うと彼女は、すばやく食堂の裏口に姿を消した。

その隙に帰ろうと思ったが、なぜか足が動かない。


味方の騎士を連れてくるかもしれない。

早く放れろ、という気持ちと、

彼女なら本当に持ってくるかもしれない、という期待感。


そして、彼女は小さな紙袋を手に再び姿を現した。



「はい、これ明日のお昼に出すマッシュルームオニオンチーズサンドです。

 多目に作ったので良ければどうぞ。お口に合うといいですけど…」


「あ?ああ。ありがとう…」


「では、お休みなさい。今日はご苦労様でした。

 ゆっくり体を休めてくださいね」



彼女はにっこり笑って、ペコリと頭を下げ、再び裏口に姿を消した。

聞いたことのない料理名に少し不安になったが、

そういえば腹も減ったし、引き返す途中でいい匂いに釣られ、

歩きながら食べてみた。


なんだこれは…

マッシュルームとオニオンが絶妙にあう。

更にチーズが絡んで濃厚で…ソースが絶妙な美味しさだった。

パンも作っているのか、俺の知っている触感と違い柔らかくふわふわしてる。


目を白黒させながら、その美味しさに驚き、

思いがけず彼女に親切にされて、微妙な気分で帰路についた。



…気づいていたはずだ。



俺が騎士団の一員ではない事は。

笑顔の影で、最後まで警戒心が緩まなかった。



それなのに…



俺に殺意がなかったからか?

下手に騒いで逆上させない為か?

俺の目的を探る為か?



何にしても、賢い娘だ…


そして間違いなく強敵になる。



あの娘を…

あの華奢な細い体を…

あの美しい黒髪を…

あの澄んだ黒い瞳を…



俺は弔わねばならないのか────




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