調査の終了と魔獣の襲撃
何事もなく平和に1週間が過ぎた。
惜しまれつつ、南の騎士団員さん達に見送られ、
北の騎士団は自分達の塔を目指し、
私とグレン団長と副団長のみ途中で別れて国王に報告と
元凶の魔石を提出する為、王都を目指す事になった。
「良かったですね。激戦が繰り広げられるのかと、
覚悟してましたが…南の皆さんも良い方ばかりでしたね」
「うん。でも魔獣の出現を誘導した誰かがいるから…
まだ、安心は出来ないよね。魔石の分析の後になるけど」
「北の守りが鉄壁だから、他を崩そうとしてるんでしょうか…」
馬車の中でエリカさんと話していると、やはり隣国のレガリアが頭に浮かぶ。
私の召還といい、今回の魔石といい…本当に嫌な、悪意のある動きをしている。
それ以上考えても分からないので、うとうとしながら帰路についた。
「サトミさん、ここから俺達は王宮へ行くから別行動だ。おいで」
「はいっ。じゃあ、エリカさん北の辺境でね!」
「はい、先に向かってます。皆さんお気をつけて」
「俺の馬に相乗りするから」
「はい、お願いします」
私はまだ乗馬初心者で歩く事はできるが走れない。
急ぎの時は、いつもグレンさんや副団長や副団長補佐に
相乗りさせてもらっている。
「疲れただろ?なるべく早めに謁見は終わらせるから、
もう少し我慢してくれ」
「いえ、疲れてるのは騎乗移動の騎士団員の人達の方でしょう?
私は馬車だし、少し眠いだけです」
「そうか?王宮につくまで、まだ何時間もある。寝てていいよ」
そういわれて寝るほど私は無礼ではない。と思っていたが、
グレンさんの腕の中は、なぜか安心してしまいグースカ寝てしまった。
王宮の門番騎士に「聖女様はお疲れですか?具合が悪いのですか?
大丈夫ですか?」と心配される程、内門に入るまで熟睡してしまっていた。
国王陛下に謁見前にお風呂と着替えをさせられ、
これだから嫌なんだと、うんざりしながら
準備という名の無駄な時間を消費して謁見の間に通された。
まだ誰も来ていなかったので、ソファに座り出された茶菓子に手をつけた。
すぐに、正装に着替えたグレンさんとレイさんとサイラスさんも入室。
やや遅れてステラ様。さらに遅れて国王陛下が入室した。
「長距離の移動と調査ご苦労であった。
さて、先の伝令鳥でも今回の調査結果は聞いておるが、
改めて詳細をお願いできるか?」
「はい。では、調査の詳細について、
私からご説明させていただきます」
主な対応はグレンさんが行い、時々確認や意見を他の人に振りながら、
証拠品の瘴気の原因、暗黒力が込められた魔石を提出した。
ステラ様の目の色が変わる。
「これはこれは…良く見つけましたね」
「探知能力があるレイが察知して、
更に詳しい場所はサトミさんが見つけました。
彼等の助力のお陰です」
「ほお、サトミさんは闇属性の魔力が視認できるのですね?」
「副団長が指摘した方向を見たら、黒い煙みたいなのが見えたんです」
「なるほど…この2人がいると最強ですね、
まあ、現状はサトミさんの神聖力付与の魔石を配置しておけば
魔獣は当分大丈夫でしょう。では、こちらはお預かりします。
分析結果が出次第、こちらより陛下とグレン団長に
分析報告させていただきます」
今まで、王都の騎士団員との交換交流はあったが、
今後は戦力強化目的で、他区の部隊ともしようと話し合っていた。
1部隊づつローテーションで交換交流したいと、
それも国王陛下に提案していた。
現状の報告は済み帰還しようとすると、いつもの引き止めが始まった。
「疲れたであろう?今日は城に宿泊するといい」
「いいえ、北の辺境に戻ります。今日帰ると約束しているので…」
「うむ…そうか…しかしな、今回の働きに、こちらとしても労いたいのだ」
「国王陛下、この間のような事があると…特にサトミさんは疲弊して
しまいます。それに長旅で皆疲れておりますので、
慣れた場所で休ませてあげたいのです。どうぞ下がることをお許しください」
「この間の事…ああ、ヴァニティーナの事か。あれは本当に悪かった。
そなた達が登城するときは、出会わないように手配はする。
……誓って他意はないのだが、純粋に今後のことも考えて、
息子達とも面識があった方がいいと思っているのだ。
サトミ殿…ぜひ、あって貰えぬか?
仲良くしろとは言わん。顔見知り…いや、面通り程度でいいのだ」
「陛下…王宮への登城は必要最低限とのお約束だったはず。
それに王子達への面会程度であれば、こんな今でなくても、
そのうち公式の場で顔を合わせることもありましょう。
それでいいのではないでしょうか?
お心遣いは感謝いたしますが、長い間北の辺境を留守にしたので
帰還したいのです」
「そうだな。今話す事ではなかった。……その時はよろしく頼む」
「ご歓談中、失礼いたします!
北の辺境騎士団より、火急の伝令鳥が届きました!
ご報告よろしいでしょうか?」
「構わん、申せ」
「北の辺境に、魔獣の大群にて襲撃があり戦闘中!
至急騎士団員増援と救援を求む!と要請がありました!」
一瞬、何を言われているか分からなかった。
北の辺境区に残っていた半部隊のみんなの顔、
先に帰還した騎士団員たちと、エリカさんの顔が浮かぶ。
背筋にヒヤリと一筋の汗が落ちる。
「囮…だったんだ…」
「あの魔石で…戦闘慣れしていない南の辺境にわざと魔獣を発生させて…
北の部隊が派遣要請されるのを見越して…
手薄になったその隙を狙ったんだ!」
「そんな…」
「くそっ!すぐ帰還するぞっ‼︎」
「大丈夫だ、落ち着いて帰還しろ。
半部隊とはいえ激戦を乗り越えてきた北の精鋭部隊だ、早々にやられん。
王都の騎士団員も居ないよりよかろう。要請通り急ぎ増援を手配する。
そなた達の健闘を祈る」
国王陛下に見送られ、流行る気持ちを必死で押さえながら、
無駄な装飾品を取り除いたドレスのまま、グレンさんの馬に相乗りして、
北の辺境を目指す。
みんな無言で馬を走らせる。
凄い疾走感…
風がびゅうびゅうと耳をかすめ、体が浮くように駆け抜ける。
軍事用に飼育された丈夫な大型の馬が、
本気で走っている状態で初めて騎乗した。
怖さより、早く着かねばという気持ちが勝ち、
私は必死に落ちないようしがみついた。
何が聖女だ…
こんな時に、こんなにこの力が必要な時に、
私は今、祈る事しか出来ない。
どうか…どうか…間に合って…
みんな、無事でいて…




