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飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


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2/12

帰れないそうです



「……う~ん……」



見たことのない天井。

体を動かすと天蓋付きの大きなベットに寝ていた。

なに、これ。どこ、ここ。


起きあがって、布団をどかして自分の体を見る。

私の身につけている衣裳は、弓道衣と袴。

手足には、包帯が巻いてある。

怪我してたっけ?ああ、逃げた時に出来たのかも。


あれ…夢じゃないってこと?

あの四つ目のオオカミ…



「お目覚めになりましたか?」



ふと声を掛けられ、そちらを見ると

黒いワンピースとエプロンをした、お仕着姿の女性が立っていた。



「はい…あの…ここは?」


「昨日、グレン団長より、

 魔獣に追われていた所を保護したと、お聞きしています。

 覚えておられますか?」


「あ、は、はいっ!」


「お体は大丈夫ですか?痛いところや、具合は悪くありませんでしょうか?」


「大丈夫です」


「そうですか。あと、お召しのお衣裳の構造が複雑で、

 お着替えができませんでした。申し訳ありません」



そうだよね…これ…日本人以外は見たことないだろうし。



「いいえ、お気になさらず。

 …何だか色々お世話になって…ありがとうございます」


「とんでもございません。

 では、湯浴みをしますので浴室へご案内します」



湯浴み?ああ、お風呂か。

そうだ、入りたい。昨日から体を洗っていないのだ。



「まあ、こんな風になっているんですね…」



私が弓道衣と袴を脱ぐとその構造を見て、偉く感心された。

そして、下着にこんなに綺麗な作りは見たことがないと驚愕された。


この方は、私のお世話係に任命された侍女のエリカさん。

昨日の美丈夫の騎士は、グレンさんと言うらしい。

そういえば、お互いまだ名乗ってなかったし、お礼も言っていなかった。


湯浴みの手伝いを断り、自分でお風呂を済ませたら、

髪を梳かして魔法で乾かしてくれた。

魔法が存在している世界…やっぱり全然違う世界なんだ。

ちょっとワクワクしてしまうのは、仕方ない。

だって私の世界では、魔法なんて空想のファンタジーの世界だもの。



着替えは、ドレスみたいな豪華な物を出されたが、

もう少しシンプルで動きやすい物をお願いし、

私の世界では、白ブラウスとハイウエストの黒のロングスカートみたいな

のを選んで着せてもらった。なんでも、これが令嬢の部屋着らしい。


下着もなんかダボダボでダサくて嫌だったが、仕方ない。

上は緩いスポーツブラみたいだし、下はコンパクトなカボチャパンツ…

腰回りのコルセットはバストアップもするらしいが、それは断った。

「そうですね。充分腰回りは細いですし…」と納得されたが、

この国では少しでも腰が細いのが、美しさの象徴のなんだそうだ。



髪は片側だけ編み込みにして、可愛くしてくれた。

この世界の侍女さんは器用だなと感心していたら、

朝食がワゴンで運ばれてくる。

パンとスープとベーコンエッグ。

良かった、食べ物は私の世界と変わらないみたい。


一通りすませて、落ち着くと

エリカさんが少しお持ち下さいと姿を消した。


ノック音とともに、昨日の美丈夫が入室してきた。



「やあ、良く眠れたかな?」


「はい、あの…昨日は色々ありがとうございました。

 すみません、私いつの間にか寝てしまいまして…」


「気にしなくて良い。こっちは仕事だからね。

 昨日名乗り損ねたが、俺はグレン・シウム。グレンと呼んでくれ。

 北の辺境の第一騎士団の団長を務めている。

 君の名を聞いても?」


「はい、私は火龍 紗都美といいます」


「ヒユーサトゥミ?…難しい発音だな」


「ヒリュウは家名で、名はサトミです。

 サ ト ミ と呼んでください」


「では、サトミさん。少し質問しても?」


「はい」



ソファとテーブルのある所まで誘導され、そこに座らされた。

目の前には、紅茶らしい物とクッキーが置かれる。


昨日とやや同じ質問をされた。

そして、やはりここは私のいた世界と違う。

魔法や魔獣が存在している世界。

魔獣が人里に降りてこないように、定期的に見回りして討伐するのが

騎士団の仕事で、そのさなかに私と出会った。


この国の地図を見せてもらったが、見たこともない地形と国名ばかり。

生活環境は、中世のヨーロッパに近い。


私の前の世界でいう、電気・水道・ガスは、ここでは魔石で可動している。

インターネットはないが、その変わり魔法で通信メールのようなツールがあり、

移動手段は主に馬車や馬。王族は限定場所の転移門が利用できる。

魔力のある者は、飛行できたり瞬間移動できたりするが、

但し犯罪と事故防止の為に、殆どの場所が禁止区域だそうだ。


王族が国を統治しているが、そんなにガチガチの身分制度ではなく、

魔力や才能があれば、平民でも臣下になれる。

今のところ、脅威は魔獣の襲撃、隣国との長年の仲違いによる

工作諜報員の摘発。どこの世界も隣国とは仲が悪いようだ。


そして、恐らく私は「稀人」だろうと言われた。

なんでも異世界から落ちて来る人をそういうらしい。

稀人は、高度な技術や頭脳、優れた魔力を持つ者が多いそうだ。

そして、この世界の発展に役立つ為、非常に歓迎されている。



「稀人…」


「ほとんど伝説に近い。歴史書でしか俺も知らないんだが…

 まさか自分が遭遇するとはね」


「あの…元の世界には、帰れないのですか?」


「残念ながら、それは聞いたことがない。

 全ての稀人は、この世界で生涯を終えている」


「そう…ですか…」



やっぱり…帰れないんだ。


あの論文…いい出来だったから、

尊敬してる教授に提出して感想聞きたかったな。


もうすぐ弓道の全国選抜大会もあった…

今回は準優勝以上狙えると思ったんだけどな…


居酒屋バイトも無断欠勤になる…

あの素敵なワンピース欲しくて頑張っていたのに…


新しく開店したカフェにも行きたかった…


冷蔵庫にいいお刺身あったのに、それも食べたかった…


来月のお母さんの誕生日に用意してたプレゼント…

ブランドのお財布、渡したかったなぁ…


元の世界でやり残した煩悩が脳内に浮かび、少し悲しくなってしまった。



それに…私がいきなり消えて…心配かけてるんだろうな。

なんとか無事に生きていると、知らせる方法はないだろうか。



「……サトミさん」



私がだまって考え込んでいると、

気を落としていると思ったのか、そっと手を握られた。

ハッとして顔をあげると、あの綺麗な顔が

こちらを気遣わしげに見ている。



違う。

あなたのせいじゃない。

そんな顔しないで。



でも、ああ、そうか。

私───帰れないんだ。



もうみんなと会えないんだ。



こうなったのは、あなたのせいじゃない。

そう弁解したかったのに、笑顔を作って話そうとすると

かわりに一筋の涙が頬を伝った。



「……っ…あ……」



グレンさんが目を見開く。

慌てて握られていない手で、顔を覆い俯いて隠す。


何で泣いてるの私。

こんなメソメソして…情けない…


この人だって自分のせいじゃないのに、

泣かれたら迷惑だろうに…


すると、ソファが傾いてふんわり抱きしめられた。



「すまない…帰してあげられなくて…

 この世界で君の為に出来るだけの事はしよう。

 だから…あまり気を落とさないで欲しい…」



優しい言葉に、グッとのどの奥が苦しくなって、

堰を切ったように、嗚咽が口から漏れ、

涙が止めどなく私の感情を洪水のように押し流す。


この世界で、私は一人ぼっちになってしまった。

その現実が、痛みと苦しみに変わっていく。


溺れるように泣くそんな状態の私に、

グレンさんは優しく寄り添って背中をさすりながら、

ずっと側にいてくれた。



「すいません…泣くつもりはなかったんですが……」


「いや、無理もない。

 粋なり知らない世界にきて、心細かっただろし、

 しかも早々にガンウルフに遭遇して、怖い目にあっただろう?」


「私…これから、どうなるんですか?」


「稀人は、一度王宮預かりになる」


「王宮?」


「この国の国王に報告する義務があるんだ。

 その上で、君の身の振り方が決まる」


「……身の振り方」


「悪いようにはしない。君の魔力の有無を調べて能力の判定をして、

 適任の役職を与えたり、君の希望を聞いてくれる。

 特に稀人は、大事な希有な存在だ。

 君の気持ちを無視するような事はしないから、安心していい」


「…私、自分の世界では平民なので…

 王様と謁見なんて少し怖いです。この国のマナーも知らないですし」


「大丈夫だ。そんなに畏まらなくていい。

 君は異世界人だし、その辺は大目に見てくれる。

 この国は身分の上下は、そんなに重要視していない。

 国をとりまとめる上層部の役職に、王族が多いだけだ」


「………はい…」


「国王に報告と謁見を申し込んでおくから、

 それまで、ここで自由にしているといい。

 謁見する日は、保護した責任者として俺も同行する」



私、これから、どうなってしまうんだろう…


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