傲慢な王女
国王陛下とステラ様に挨拶をして、
馬車が待っている内門を目指し、グレンさんと歩いていると
突然大きな声が、後ろから聞こえてきた。
「グレン!」
「…はあ…来たか…」
「え?」
「サトミさん、俺の後ろに隠れて。挨拶も言葉も交わさなくていいから」
「は、はい…」
グレンさんが、もの凄く嫌そうな顔をして後ろへ向き直った。
会いたくない人なのかもしれない…でもさっきの声…女性だったような…
「待ちなさい!あなた、私に挨拶もしないってどういう事?」
「これは、ヴァニティーナ王女殿下、お久しぶりです。
懇親会には、いらっしゃいませんでしたから、ご挨拶は出来ませんでした」
「父上に出なくていいと言われたのよ。お兄さま達も出ていないし…
それより、あなた何で帰ろうとしてるの?……誰、後ろにいるの…女ね⁉︎ 」
「私に何か御用でしょうか?急ぎ騎士塔に戻りませんと、暗くなりますゆえ」
「戻る必要ないわ。私の部屋に泊まりなさい」
は?泊まる?
王女様とグレンさんてそういう関係なの?
「いいえ。戻ります」
「ちょっと後ろの女!隠れてないで名乗りなさい!お前グレンの何なの!」
「お言葉ですが、ヴァニティーナ王女殿下。彼女は関係ありません」
「は?あなた…一体誰に向かって物を言ってるの?」
「他にご用件は?無ければ下がらせて貰います」
「私の夫として、いつ輿入れするわけ?」
「以前お断りしました。今も変わりません」
「何が不満なのよ?地位も名誉も権力も財力も手に入るのよ?
常に命が危険にさらされる辺境の騎士なんかする必要ないのに!」
「必要ありません。私はあなたの男娼になるつもりはないし、
自分の勤めに誇りを持っています。
それに、貴方様はもう5人の夫がいるはずでは?」
こ、怖い…何この人…
もう5人も夫がいるのに…グレンさんまで夫って…
騎士な ん か、とか…さっきから、
グレンさんをバカにするような事ばかり言って…
グレンさんの気持ち逆なでしまくってるじゃない…何なのこの人…
ああ、こんな酷い言い草でも王女様だから許されるのか。
王女って事は国王陛下の娘…こんな人が?
陛下は温厚で常識あったのに。
こういう権力を振りがざす人がいるから嫌なんだ。
益々王族嫌いになりそう…
「なぁに?ああ、6人目になるのが気に入らないの?
じゃあ、他の5人は離縁してあなた1人にするわ。
そしたら、私を独り占めできるわね。ふふっ。それで満足?」
「何か勘違いをしていらっしゃるようですか、
私は貴方様が好きではありません。
なので、未来永劫あなたの夫にはなりません。
5人の旦那様とお幸せに。では失礼します」
「待ちなさい!認めないわよそんな返事!
こ、この私の申し出を断るなんて!」
「王女殿下…これ以上はおやめ下さい…」
「うるさいわね!侍従の分際で!」
「何を騒いでおる」
「…っ…父上!…」
騒ぎを聞いて来てくれたのだろう。国王陛下が声を掛けてきた。
さっきまでの勢いが嘘のように、王女はピタリと大人しくなる。
「まだ、お前はグレン団長殿に求婚しているのか?
はっきりと断られただろう?いい加減にしなさい」
「だって…」
「グレン団長殿は、重要な国境を守る、我が国の大事な臣下であり戦力だ。
お前の我が儘で迷惑を掛けて振り回すでない!」
「………申し訳、ありませんでした…」
「分かったら部屋に戻りなさい。こんな廊下で、怒鳴り散らしてみっともない」
「ですが…その女は何なのです?ずっとグレンの後ろに隠れて…
私に挨拶もなしでっ!無礼ではありませんか?」
うげ、矛先がこっちに向いた。
「王族に接触する必要はないと、私が許可しているのだ。
そのお方も我が国で大事な役目の方。
それこそ、お前より立場は上だといっても過言ではない。
それをあの女などと…何という事をっ…無礼なのはお前の方であろう。
いい加減にしなさいヴァニティーナ。さっさと部屋に戻らんか!」
さすがこの国の王。廊下に良く通る迫力のあるお声。
ヴァニティーナ王女は悔しそうに俯いて、拳を握りしめながら引き返していく。
あれは、まだ諦めていない顔だ…
「悪かったな。まったく…あれの性格は再教育しても、どうにもならん…
兄たちは全員優秀だというのに…
グレン団長殿、サトミ殿、我が娘が不快にさせて申し訳なかった」
国王陛下に謝罪されるなんて、申し訳なかったが謝罪を受け取り、
私達は王宮を後にした。
馬車に乗ると、気まずそうにグレンさんが口を開いた。
「…驚いただろう?」
「あ、いえ…少し…」
「さっきの話で分かったと思うが、以前求婚されたが断ったんだ。
気位の高い人で、納得してないらしくて…
登城するたび、内密にしていてもどこからか嗅ぎつけてきて、
あんな風に絡まれる」
「大変ですね…」
「ああ…うんざりする…」
「夫が5人もいるのも驚きました…」
「一妻多夫制だからな。国としては悪いことでは無いが…俺は無理なんだ。
それに、ああいう話しの通じない人は苦手だ…疲弊する」
「私も苦手です。あんなに感情的に怒鳴って…怖いですもの…」
「この国は、女性が少ないと知っているよね?」
「はい。エリカさんから聞きました」
「あの人程じゃないけど、大体あんな感じだよ。
特に貴族の令嬢はみな気が強くて、我を通す。
思い通りにならないと、まあ、あの通りだ」
「ええっ……」
「国が大事にし過ぎたというか…甘やかし過ぎた弊害だね」
「なるほど…そう…なるんですね…」
「だから、君は凄く珍しいタイプなんだ」
「そうでしょうか…」
「俺から見ると、君は慈悲深い女性だよ。まさに聖女の称号に相応しい」
「誉めすぎです。でも、私のいた国では、女性はみんなこんな感じですよ?」
「そ、そうなのか?それは…羨ましい…」
何か、この世界の男性達大変そう…気の毒になってきた。
同じ女の私でさえ閉口したのに…
あんな感情のままに、ヒステリックに叫き散らして…
あんなん見てたら、女性への憧れもクソもないだろうなぁ。
「そういえば、どうしてサトミさんは、そんなに痩せているんだ?」
「えっ?普通ですよ?」
「いや、だって…腕も腰回りもこんなに細いし…
初めて合った時、あまりに体が軽くて心配になったんだ。
君の世界では食事はあまり取らない習慣でもあるのか?」
「いえ、ちゃんと食べて…ああ、でもこっちの世界の人達より
食べる量は少ないかもしれないです」
「遠慮してる?」
「してませんよ!多分、食べられる量が違うんだと思います」
「そうか?ならいいけど。時々心配になるよ」
確かにこっちの世界の人達は、体が大きいしがっしりして健康的だった。
今まで騎士さんや王家の男性しか会う機会が無かったが、
男性だから大きいのは当たり前だった。
さっきの王女様も王族って細いイメージあったけど、
健康的な腰回りだったなぁ…
あれ?そういえばエリカさんも…食堂のおばちゃんも…
日本では標準体型よりやや大きめというか、
でも太っているまで行かない感じ。
そうか、あの人達と比べると、私って相当細く見えるかもしれない。
日本人は元々小柄で華奢だから仕方ない。




